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「茜と太郎」は、「復讐戦姫」の主人公・方円が、まだ茜と名乗っていた時代のお話となっております。
茜は幼さの表現のため、途中までひらがなのみのセリフとなります。
読みづらいですが、ご理解いただきますよう、お願い申し上げます。
ーーーーーー
一話 茜と太郎 前編
甲斐国・躑躅ヶ崎館
その日、甲斐国に一人の姫が生まれた。
……いや。
後に「怪物」と呼ばれることになる少女が、まだただの姫だった頃の話である。
「そーりゃ! 父だぞ!」
ははははは!
「ぎゃあ……。おぎゃあ……」
その泣き声を聞きながら、父・武田信虎は豪快に笑った。
それから、すくすくと病気もせず、数年の時が流れていった。
――――――――――
「あにうえーーー!」
廊下を駆けてくる、小さな足音。
振り返ったのは、武田家嫡男・太郎。
後の武田信玄公、その人である。
「おお、茜かー!」
太郎は妹の姿を見ると、にこりと笑った。
「はははは。ちょうど少し時間があるからな。
遊びに付き合ってやろう。はははは。」
「ほんとうですか、あにうえー!」
茜は嬉しそうに駆け寄ると、両手に何かを抱えて差し出した。
「じゃあ、これ。」
「はははは、これは……。」
手渡されたのは、余って、もう使えない切れ端などを使って作った、小さな手製の品だった。
「余って、もう使えない切れ端とかを使って、作ったのだな。ははははうまいうまい。」
「えへへ……」
その様子を見ていた信虎だったが――。
「……太郎」
「……!」
「遊んでいる暇があったら、勉学や鍛錬に励んだらどうだ……」
「嫡男としての自覚が足りないのではないか?」
「……申し訳ございません、父上」
茜は、少し寂しそうに太郎を見る。
「いってらっしゃいませ、あにうえ……」
「あそんでくれて、うれしゅうございました。」
太郎は茜に微笑む。
「うむ、またな。」
太郎は、そのまま館の奥へと歩いていった。
スタスタ……。
「…………」
信虎は娘を見ると、ふっと笑った。
「ふむ……、わしはもう終わったからのぉ」
「続きは、わしが遊んでやろう。」
「はい、ちちうえ。」
――――――――――
数日後。
「やっ……!えいっ!」
太郎が木刀を振る。しかし、虎昌に吹き飛ばされた。
「……うわっ!」
ドサッ。
信虎は、そんな太郎を見て小さくため息をついた。
「…………」
(はあっ……)
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その横では、木刀を構えた飯富虎昌が太郎を見つめている。
「……もう終わりですかな。」
そして、大声を張り上げた。
「若!!! 立ちなされ……!!!」
「……!」
太郎は、ふらつきながらもなんとか立ち上がる。
信虎は、その様子を見ながら心の中で呟いた。
(何とか立ったか……)
(まったく、鍛錬をサボっておったな……)
そこへ、茜がやってきた。
「ちちうえ……」
「ん?」
「あにうえは、なにをしているのですか?」
「ん? 身を守るために鍛錬をしているのだ」
「ガハハハハ」
「そうなのですか……」
茜は、太郎をじっと見つめる。
そして、ぽつりと尋ねた。
「わたしも、やったほうがいいのでしょうか?」
「ははは……」
信虎は笑いながら、茜の頭を撫でた。
「お主はやらなくて良いのだぞ」
「はははは、そのために父がおるのだからのぉ、太郎もおるしな」
「…………」
茜は少し考えたあと、ぱっと顔を上げた。
「……そうだ」
「あついから、みずにぬらしたてぬぐいでもよういしましょう」
「いどみずでひやせば、きもちいいですよ」
「いってきまーす」
「待て、お前はまだ早い。」
信虎は茜を呼び止める。
「父と一緒に行こうな」
「一人で井戸の水を汲むのは、危ない」
「冷やすところだけ、やってやれ、茜」
「はい!!!」
――――――――――
「よし、水が汲めたぞ。」
「えいっ、えいっ、」
茜は冷たい井戸水に手ぬぐいを浸し、楽しそうに絞る。
「ひえましたー」
「あにうえにもっていきましょう」
「ガハハハハ、愛いやつだ」
信虎は茜の手を取る。
「手を繋いで行こうな!」
「はい!!!」
――――――――――
「あにうえー」
鍛錬を続けていた太郎が振り返る。
「あついでしょうから、ひやしたてぬぐいもってきましたー」
「おお……、助かる」
太郎は手ぬぐいを受け取ると、手や顔を拭いた。
「ふう……、生き返る……」
「ありがとう、茜」
「はい!」
そこへ、信虎がやってくる。
「生き返ったか……、そうか。」
「なら、さっさと続きをせんか!!」
「は……、はい……」
信虎は、少し考えたあと、ニヤリと笑った。
「……いや」
「たまには、わしがつけてやろう」
(ちっ、太郎のやつだけずるいわ)
「そんな……おそれおお……」
「言い訳は、聞かんぞ」
「さっさと構えてこんか!!!」
「…………」
太郎は覚悟を決める。
「やあああっ!」
――――――――――
鍛錬を見ながら。
茜は、しばらく兄の姿を見つめていた。
「…………」
そして、疑問を口にする。
「どうして、わたくしはやらなくてよいのでしょうか?」
虎昌は振り返った。
「なにがですか? 姫様?」
「あにうえは、たんれんしています」
「でも、わたくしはやらなくて良いと言うのです。」
「ええ、やらなくて良いのですよ」
「姫方は……、戦うのは我ら男の仕事にございますれば」
「…………」
茜は、兄の鍛錬を見つめる。
「……でも」
「すこしは、じぶんでじぶんをまもれたらよいのではないでしょうか……」
虎昌は、少し驚いた。
「ほほう……」
「そのお気持ちは大変立派ですが、その必要はございません」
「必要ないのですよ、姫様……」
「…………」
茜は何も言わず、ただじっと考え込んでいた。
――――――――――
「……むっ。」
太郎は鍛錬の途中で、茜と虎昌が話していることに気づいた。
「茜と虎昌、なにを話しているんだ?」
その瞬間。
ブンッ!!
「……うわっ!」
「馬鹿者!!!」
信虎の一喝が飛ぶ。
「よそ見をしおって!」
「ここが戦場であったら、もうこの世にはおらぬぞ!!!」
「……!」
「 虎昌、お主、きちんと教育してたのか!!💢💢」
虎昌は困惑する。
「えええええっ……!」
(こっちにヘイトが飛んできた……泣)
茜は、その様子を見ながら目を閉じて考えていた。
「…………」
信虎が茜に声をかける。
「茜。少し疲れたのか?」
「部屋に戻って休んだらどうだ?」
「そうさせてもらいます」
「あにうえ、ごきげんよう」
「うむ。またな」
「そうか、そうか。なら、一緒に帰ろうな」
「ガハハハハ」
信虎と茜は、その場を後にした。
太郎は二人を見送ったあと、虎昌へ振り返る。
「……おい。どうした虎昌」
「そんな怖い顔をして……」
飯富虎昌は、静かに太郎へ近づいた。
「若……」
「ん?」
「先程のよそ見は、某も見逃せませんぞ」
「……え?」
「今日は某と、みっちり鍛錬しましょうね???」
「え……。いや、ちょっと……」
「書物も読みたいし……、そろそ……」
太郎は、じりじりと後ずさりする。
「^^」
ガシッ。
虎昌は無言で太郎の腕を掴んだ。
「え……、いや……、ちょ……、」
「…………」
「ギャ……!」
――――――――――
数日後。
「きのぼうをひろってみました!」
茜は拾った木の棒を握りしめる。
「えいえーい!」
ブンッ! ブンッ!
虎昌は、その光景を見て凍りついた。
「…………😱」
(まずい……💦)
(若のよそ見の件といい、姫様までこのようなことをしていたら、また怒られてしまう……)
「姫様ー!」
「はしたないですぞー!」
「おやめくだされー!」
「???」
茜は不思議そうに首を傾げる。
「どうしてですかー?」
「あにうえは、おこられないのに」
「え……、と……」
「それは前も言いましたが……」
「それは、姫方の仕事ではございませ……」
「でも」
「みじかいかたなもってるおんなのひと、
いっぱいこのおやしきにいますよ」
「…………」
「え……と……、 それは……、ですね……」
虎昌は必死に考える。
「なんでですかー???」
「…………」
(いかん……!?)
(某では、姫様を納得させられる回答ができん)
(もっと某も書物を読んで、勉学に励めばよかった……)
「…………」
――――――――――
信虎は、困り果てた虎昌をじっと見つめていた。
「^^」
「いや、その……、某はお止めしたのですが……」
「その……、うう……、」
「もっと…、書物読めばよかったなと……」
「いや……。あの……。」
その時、 外から声が響く。
「えいえーい!」
信虎は、しばらく黙って外を見る。
「可愛いのお……」
「…………」
「ではなく……!!!」
信虎が畳に拳を叩きつける。
「あやつに、危ないことをさせるな!!!」
「さっさと止めんか……!!!」
「いや……、その……」
虎昌は慌てて説明する。
「止めようとしても、『なんで?』とか聞かれまして……」
「姫様は、奥女中が短刀を持ってるのも知ってたみたいで……」
「それを、話に出されて……」
「某では…言い返せず……」
「その……、その……、うう……。」
「…………」
信虎は呆れたように虎昌を見る。
「子供に言い負けるとは、何をしておるのだ……」
「そんなんだから、太郎が鍛錬のさいよそ見をしたりしているのではないか?」
「泣」
「そんなこと…某に言われても、困りますよ……泣」
――――――――――
「えいえーい!!」
そこへ、太郎がやってきた。
「……茜」
「何をしているのだ?」
「たんれんです」
「あにうえをみてたら、じぶんのみはじぶんで
まもらないといけないなとおもって」
「…………」
太郎は、少し驚いた顔をする。
「そ……、そうか。」
「でも、まだお前は小さくて危ないからな」
「ほら……、父上も心配なさっておられる」
「それに、今日も暑いからな」
「倒れてしまうかもしれんから、やめような」
そう言いながら、太郎はさりげなく茜の手から木の棒を取り上げた。
「…………」
茜は少し考える。
「あにうえがいうなら、きょうはやめますー」
「よしよし、えらいぞー」
「えへへ……」
そこへ信虎がやってくる。
「太郎……」
「はい、父上」
「たまには、嫡男らしいことができるではないか……」
「よかろう」
「一緒に、お茶でも飲もうではないか」
(独り占めなんてさせんぞ^^)
「……あ、ありがたき幸せ……💦」
「……あの」
虎昌が恐る恐る声をかける。
「某は……」
信虎は虎昌を見る。
「反省として、一日正座な^^」
「…………え???」
「そこのお前たち、連れて行け!!!」
「はっ!」
兵に虎昌は、ズルズルと引きずられていく。
「えっ、ちょ……。」
「お前たち……、離せ!」
「まて……、つれていくな……!!」
「ぎゃ……」
――――――――――
一話 茜と太郎 前編 ――終――
コメント
1件
わあ、茜ちゃんが可愛くてたまらないですね……!まだひらがなだからこそ伝わる無邪気さが、「私は自分で身を守れるようになりたい」っていう芯の強さと重なって、胸がぎゅっとなりました。父や兄に「君はしなくていい」と言われても、自分で考えて動こうとする姿勢に眩しさを感じます。信虎の娘への甘やかし方と家督教育のギャップも人間臭くて面白かったです。続きもどうか届きますように……!