『そして、いつまでも幸せに暮らしました。めでたしめでたし。』
定番と言ってもいい、この世に腐る程溢れている物語の終わり言葉。
俗にこんな言葉で終わる作品は「ハッピーエンド」と言われている
俺は物心がついた頃からずっとこの終わり方に疑問があった
だって、必ずしも幸せな終わりでも無いのが殆どだ。
例えばシンデレラだと
たった一晩共に踊っただけ で
落ちぶれ貴族のただ綺麗な顔をしているが普段から鼠と話している頭がおかしい女と
一国の王子が結婚だなんて
まず間違いない無く批判があるだろう
桃太郎もだ
鬼退治と称して鬼を半殺しにして最終的に鬼ヶ島にあった財宝を全部自分の物にする極悪人
この世は子供に綺麗な所しか見せず希望だけを持たせ最終的にはそれをへし折る。
はは、なんと悪趣味なんだろうか
まぁ、それは俺も例外では無いがな。
「誰かにとっての正義は誰かにとっての悪」
この言葉が物書きとして生きる俺のモットーだ。
紹介が遅れたが、俺は佐谷田 紡希。29歳。独身恋人無し
男にしては長めの黒髪を後ろの方で低く1つに結んで
メガネをかけているのが特徴な平凡を型どったような人間だ。
俺は先程言ったような不幸を書いているしがない物書きの端くれだ。
よく言えば小説家、悪く言えば実家暮らしのフリーター
特別才能がある訳でも無くズルズルと続けている事に負い目を感じている三十路近い男
今日もノートパソコンを開き新作を執筆している。
書籍化している作品が少しはあるが重版されたり大ブレイクもしておらず
いい加減見切りを付けて知り合いのツテで会社員としてでもやって行こうかと最近は思っている。
欠伸をして涙目になった目を擦っていると あるメールがパソコンに届いた。
内容はこうだ
俺のファンの14歳の少女が俺と会って話をしたいらしい。
どうやらその少女は難病を抱えているそうで成人出来るかも不明の重体。
彼女の願いは俺の本を読んだ時の気持ちを伝えたい。
という娘の願いを叶えたいその子の両親からのメールだ
俺も普段から別に暇だが行こうとは思わない。
しかし、このメールを見て何となく行かねばならないという気持ちに駆られ
俺はいつの間にかメールを返信し行く日時を決めていた
数日後、俺は病室の目の前に立っていた。
ここに俺のファンの少女が入院しているらしい
扉を開けようと思い手を伸ばした時、ドアが勢いよく開いた。
「先生っ!」
扉を開けたそこにはキラキラとこちらを見上げる入院服を着てニット帽を被った少女が居た。
まぁ、状況を察するにこの子が俺のファンだろう
「こら恵、あんまり動いてはダメよ。先生、本日はお越し頂きありがとうございます…」
「いえ…、お気になさらず」
後ろの方には中年の女性、きっとこの子の母親だろう
座る様に促されベッドの近くのパイプ椅子に腰掛け、部屋を軽く見回した。
この部屋は少女の一人部屋らしく小さな棚には大量の本が置かれている
スッキリとしているがどこか年頃の女の子の部屋を感じさせられる…って
(おいおい、変態オヤジみたいな事思うなよ俺…)
「…ここは二人だけの方が宜しいかしら、恵。お母さん売店の方に行ってるから、何かあったら呼んでね」
「お母さんっ!?」
そう言い残すと母親は病室からいなくなり、俺と少女だけが病室に取り残された。
沈黙が続いた後何か話題を見つけようとした時少女がつぐんでいた口を開いた
「っあ、あの!」
すると少女がが近くにあったバッグから本を取り出した
「わ、私…小学生の頃から先生の大ファンでっ!特にこの!「氷の降った世界」が大好きで!」
「氷の降った世界」。この本は俺が高校生の時に執筆して偶々賞に入賞した作品を書き直し出版した作品だ。主人公の王女が迫害され続けた氷の魔女と親密になり絆が芽生えた矢先、魔女の処刑が決まり王女が魔女の後を追ったものの魔女は生き延びており世界に氷の呪いをかけて王女の遺体の隣で永遠の眠りにつく。という物語だ。
「驚いたよ…、この本は俺の本の中でも凄くマイナーな方なのに…それに小学生の頃からって…俺の作品はどれも子供向けでは無いのにね」
俺がそう言った途端
少女は本をベッドの脇に置き数度瞬きをしてから口を開いた
「子供向けでは無い…、確かにそうかもしれませんね」
そう言った少女の目は14歳の女の子だとは思えない様な
自身の事を達観しつつもどこか慈しみの心を持っている様にも見えた。
「先生、私…聞いているかも知れませんが難病を抱えているんです。投薬治療の副作用で髪も抜けちゃって、病室内を歩くのだけでも精一杯で…もう、希望なんて無いに等しかったです」
少女は俺の目を見つめ、こう言った
「だけど…、だけど先生の本に出会って変わったんです。 今まで知らなかった、知れなかった物語で…どれも不幸、それだけじゃ片付けられない美しさを感じられる作品で…」
あぁ、今までこんなにも俺の作品について語ってくれる人が居たものか…
俺の本を隅々読んで居なければ分からない様な小さな伏線についても、全てに付いて話した後
少女は薄く口元に笑みを浮かべて微笑みこちらを見た。
「…先生。無茶なお願いだと承知しています。」
「私の本を書いてください」
思わず声が出そうになったが、それを飲み込みどういう訳か聞いてみた。
「どうせ私の人生は成人するまでに終わってしまいます。ですので…憧れの人が書いてくれた物語で生き続けられたら良いな…と思って 」
年相応と言うのが正解か。
先程の落ち着いた、いや、取り繕ったのとは違う無垢で子供らしい笑みを浮かべた少女は
感受性が欠損していると言われがちな俺でもわかるほど愛らしかった。
俺は少女…恵ちゃんの両手を取り、目線を合わせつつ口を開いた
「…、わかったよ、恵ちゃん。俺で良いのなら君の…君についての本を執筆させて頂くよ」
あぁ、笑顔なんて久しぶりで表情筋が痛む。けれど今はその痛みなんてどうでも良い。
「…先生…、、」
薄い虹色の様な膜の張った瞳が揺れ、つい反射的に泣くか?と思い身体を強ばらせたが
意外にも涙は出ずに恵ちゃんはにこりと笑った
あぁ、俺は…恵ちゃんに…ちゃんとした結末を迎えさせられるのだろうか…
そんな不安と少しの期待を抱え俺は病室を後にした。
コメント
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この子死んじゃうけど憧れの人に書かれるのか 病気に耐えた結果、死ぬバットエンドと憧れの人の本のモデルになれるとかいうハッピーエンド両方迎えられるんだよな、つら