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「本当に大丈夫?」
あの時、もっとしっかり引き留めていれば。
◇
もともと不安になりやすい人だった。
よく落とし穴に落ちるし、薬草を山へ取りに行く、と言って帰ってきたらボロボロだし。
その度、「不運」の一言で片付けてしまうのが少し怖かったけど。
─ 今回もそうだった。
彼は、どうやら普段より危険な任務に臨むそうで。
それを聞いた私は、なんだか不安になって、支度をしている彼に尋ねた。
「本当に大丈夫なの?危ないよ」
「大丈夫だよ。なんせこの体質でここまでやってきたんだ。今更億劫になることない」
私だけ心配しすぎているかのように、彼は普段と変わらない微笑みを見せた。
うーんと考えている私をよそに、彼は支度を終えたようで小さく、「よし」と呟いた。
「もう行くの?」
「あぁ、日が暮れてきたし、そろそろかな」
そう言いながら戸に手をかける彼の裾を、ぎゅっと掴む。
「…怪我して帰ってきたら、怒るから」
彼は、私の頭に手を置いて、
「どうだろう。僕、帰ってきたら〇〇にこっぴどく叱られてしまうかも。」
その言葉に、こっちは真面目なの!と一喝して、手を離す。
「冗談だって。じゃあ、行ってくるよ」
「うん、行ってらっしゃい。」
夕陽に照らされ進んでいく彼の、伸びる影を見つめて。
「行かないで」って言うのは、我儘だと分かっていたから。
◇
彼の訃報を聞いた時、正直嘘だと思った。
でも、帰ってくる彼の同輩の暗く沈んだ顔を見た時、その事の重大さに気がついた。
どうすればいいのか分からなくなって、自分が酷く情けなく感じた。
温もりなど無くなってしまった彼の布団に包まり、ただ涙を流す。
ひとしきり泣いた後、なんだか急に自暴自棄というか、空っぽというか。喪失感に駆られてやるせなくなる。
そんな状態で、唯一感じたのは、彼という存在が自分の中でどれだけ大きかったか。
もうあの陽だまりを閉じ込めたようなあたたかい笑顔や、少し高い体温の肌に触れられないと考えると、また涙が出てくる。
その夜は、ただ布団を濡らしただけだった。いつもなら慰めてくれる彼もいない中、ただ自分の弱さを認識しただけだった。
◇
次に自分が見たのは、首元から溢れ出す鮮血。
着物や床に血を垂らして、少し鉄臭かった。
そのまま、ぐっと首元に当てていた短刀を押し込む。
命を蔑ろにするなと何回も彼から言われていたが、その彼がいない世界に私は価値を感じなかった。所謂、『後追い』と言うやつだ。
もう会えるんだ。もし彼が天国に行くなら、自ら命を絶つ私は地獄だろうけど。
そんなことを思いながら、意識を手放した。
◇
目を覚ますと、そこは地獄でも天国でもなく、見知らぬ天井だった。
辺りを見渡すと、見たことの無いものばかりで、なんだか異世界に来てしまったようだった。
体を起こしてみると、自分の衣服は血など付かずにまっさら綺麗な服になっていた。
「…え?」
状況が呑み込めずしばらく硬直するが、すぐに焦って立ち上がる。
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