“11⁄08 11:08 投稿 🌙”
それからしばらく、グクとは会えなかった。
めげずに3日に1回くらいは、
彼と会った場所に行ったが、その姿を見つけられることは無く、
ぼんやり座って彼を待っていたりもしたが、
来てくれたのは、あの白猫だけ。
どうやら僕ら2人のせいで、
ここに座る人に寄っていけば、餌がもらえると味をしめてしまったようだ。
グクはどこにいるのかね、、
お前はあの子と会っているの?
と、答えてくれない子猫と心でお話しながらしばらく遊んで、
すっかり真っ暗になったあとに家に帰るのが習慣になっていた。
何度もあの場所に行きすぎて、いつの間にかその子は、僕にもすっかり懐いてくれている。
どうせいくら早く家に帰ったって、誰も僕を待つ人はいない。
だから、彼が来るかもしれない、という期待を持って、ただぼうっと待つ時間は、
僕にとって決して無駄な時間ではなかった。
あの、静かな落ち着いた声。
世の中を冷ややかに見据えるような素っ気ない言葉。
どこか儚げな、でも凛々しい瞳。
そんな彼の隣にいると、
何故か安堵した僕の心が、
もう一度会いたいと、グクを求めていた。
🐣「お前ちょっとおっきくなった?
なに食べてるのかな、、
グクになんか貰ってる?」
いよいよ待つのに慣れてきた僕は、
ぶつぶつと仔猫に話しかけるまでになっていた。
最初の頃は人目を気にして、心の中で話しかけるだけだったのに、今ではもうそんなこと気にも留めない。
通勤リュックの中にはいつでもキャットフードが入っていたし、
この子に出会ってから初めて、コンビニにもペットの餌が置いてある事を知った。
加えて今日は休日。
それにもう夜で、会社帰りの人もいないから、いつもと比べて人が少ない。
スーツではなく、ゆるい格好をした僕は、余計に大胆になっていた。
🐣「あんま食べると太るぞ〜」
甘えたように鳴くその子は、やはり最初に見た時より、一回り大きくなっている。
怪我もすっかり良くなって、
元気なおてんば娘。
🐣「ねぇ、グクと会ってる?」
だらしなくペタンと地面に座り込み、
仔猫を手に抱き上げて尋ねてみるが、
目をじーっと合わせてみてもただ、
いつものように呑気な鳴き声をあげるだけ。
足をぶらぶらさせて成されるがままの猫が可愛くて、
教えろよ〜、と、夢中になっていたら
僕の真後ろに、ふと誰かが立った。
周りに注意を払っていなくて、
すぐ近くに気配を感じてからようやく気づき、
ハッと息を飲んで、肩を小さく竦めた瞬間。
こつんと頭のてっぺんに何かが置かれた。
じんわりとあたたかい何か。
猫を胸にきゅっと抱き寄せて、
ちらりと見上げてみる。
僕の緊張が伝わったのか、
腕の中のその子も、大人しくなって静かに息を潜めた。
🐰「あのさ、傍から見たら、猫と喋ってるお前ほんとヤバいやつㅎㅎ」
その笑いを含んだ声を聞いて、
一気に気持ちが緩んだ。
🐣「グク!?」
🐰「ん、久しぶり
ほら、コーヒー。早く受け取れよ、熱くてそろそろ火傷する。」
一旦猫を地面に下ろして、頭の上で湯気の立つそれを両手でそっと受け取る
🐣「ありがと。」
🐰「これで借りは返したからな。」
そう言いながら、
グクは片手でフードを被り、
前のように壁にもたれて座った。
いつもの黒いダボッとしたパーカーに、
下はジャージ姿。
約束を守ってくれたことが嬉しくて、僕は
いそいそと隣に並んで座った。
猫は、グクではなくて、
僕の方に擦り寄ってくる。
足を投げ出した上に猫を乗っけて、優しく撫でた。
🐰「今日近いな。」
また少し距離を縮めて座ったから流石に言われてしまった。
それも、
彼の落ち着く香りが鼻をくすぐるくらい近く。
ちょっと彼の声が固い気がして、
おそるおそる顔を伺った。
🐣「いやだった?
ごめんっ、離れるね、、」
体を起こしかけたら
🐰「いい。離れると寒いから。」
それを聞いて、すとんと腰が落ちる。
もう1回覗き込んでも、照れたように目を合わせてくれない彼に、
んふふ、って
嬉しくて変な笑いが漏れた。
よかったね〜待ってたんだもんね〜、と、
また心の中で、脚の上でごろごろ転がっている猫に話しかけ、この恥ずかしさを誤魔化した。
🐣「あれからここに来てなかった?」
🐰「いや、何回か来てたけど、、
お前にも猫にも会わなかった。」
🐣「すれ違ってたのかぁ、、
僕もここ来てたし、この子の世話してたのに、、」
🐰「みたいだな、
そいつの懐きっぷり見りゃ分かるㅎ」
その言葉にこくんと頷いて1口飲んだコーヒーは、彼の宣言通り、甘さがちょうど良くてとっても美味しい。
ふぅ、、と白い息が漏れた。
今ままでずっと待ちくたびれていた気持ちが、
ただこの空間に居るだけで、全部チャラになっていくのを感じた。
すぐ隣に感じるグクの体温が温かい。
コーヒーを飲みながら、
猫をあやしながら、
僕はグクに色んなことを尋ねた。
年齢だとか、どこに住んでるのかだとか、出身とか、、そんな当たり障りのないこと。
間違っても、仕事のことなんか聞かないように気をつけた。
その全部に、グクは、
面接みたいだな、なんて気だるそうに言いながらも、ちゃんと答えてくれた。
🐰「そんな俺のことなんかに興味あるの?」
🐣「うん、
グクが何考えてるのかすごく気になるㅎ」
🐰「変なやつㅎ」
その言い方は、嫌がっている訳では無さそうなので、安心して続けた。
🐣「グクは、、どんな人が好き?
どんな人となら、一緒に生きていきたいと思う?」
さり気なく聞いたつもりだったけど、
ほんとはこれが1番聞いてみたかったこと。
グクは黙りこくって、ちょっと考えてるみたいだった。
🐰「、、猫みたいな人」
🐣「へっ?、、ね、ねこ?」
ちょっとどきどきしていた僕は、彼の答えを聞いて拍子抜けする。
🐰「うん。
清潔感あって、俺と違ってのんびりしてて、
甘え上手で懐くけど、
俺が嫌なことには絶対干渉してこない、猫。」
🐣「ふーん、なんか、、
グクらしいね。」
🐰「らしいって、、
お前が何を知ってんだよㅎㅎ」
🐣「たしかにㅎㅎ
でも、なんかグクに合ってるなって思ったㅎ」
🐰「お前は?どんな人が好きなの?」
この子は、名前も聞いてくれたし、年齢もさっき、僕の方が2つも年上だと分かったのに、
敬語にする気なんか一切無いみたいで、未だに僕をお前と呼ぶ。
僕の方もそんな彼に特に違和感とか憤りをおぼえる訳でもなくて、
ただ、名前で呼んでくれればいいのに、とちょっと拗ねる。
こんなことで拗ねてしまうのだから、
好きな人、と聞かれて思い浮かぶのは、
やっぱり隣にいるグクだけだ。
どう答えようか、うーん、と考えていたが、
グクは急かすことも無く、
この会話を終わらせる訳でもなく、
ただ黙って待つだけ。
僕の脚の上で気持ちよさそうに眠り始めていた仔猫を、自分の手の中に抱き上げ、
フードの下の優しい目で眺めていた。
🐣「グクはさ、、」
そんな彼の綺麗な瞳を、
横から見つめながら言う。
🐰「ん?」
🐣「男が男を好きって、、どう思う?」
結局答え方が分からなくて、
質問で返してしまった。
抱き上げていた猫を腕の中に引き寄せてから、
グクは僕の方を見つめ返してきた。
探るように目を覗き込まれて、
とくんと胸が高鳴る。
🐰「お前、、
そうなの?」
🐣「え、えと、、、分かんない、、、
そんな本気で好きになっちゃったの、
まだ1人、、だから、、」
その真っ直ぐな視線に心が揺らいでしまって、思わず目を伏せる。
僕の答えにグクはまた黙り込んだ。
ちょっと怖かった。
彼が、じっと抱いたままだった猫を地面に下ろすと、
私はもう行くよ、とでも言うように
一瞬首を伸ばして僕らを振り向き、
どこかへ駆けていってしまう。
完全にグクとふたりきり。
🐰「別に、、偏見はないかな。」
ぽつりと返ってきたその答えに
安心してほうっと小さく息をついた。
🐰「俺こんなんだからさ、
女とか男とか関係なく、深く思い入れしたことないんだよね。
だからよく分かんないけど、、、
誰好きになろうが、そいつの勝手じゃんってだけは思う。」
だから別に普通に受け入れると思う、と
グクはそう言って、まだ残っていたらしいコーヒーを一気に飲みきった。
🐣「そっか、、
気持ち悪いって言わないでくれてありがと。」
急に出した突拍子もない話題に、真面目に考えて出してくれたであろう彼の答え。
素直にお礼の言葉が出た。
🐰「何言ってんの、
気持ち悪いなんて思う訳ないじゃん。」
素っ気ない言葉と裏腹に、
その口調は、今までの彼とは違う、
優しいと認めざるをえないような、そんな温かさと柔らかさを含んでいた。
泣きそうになって、
僕は黙ってこくんと頷く。
会話をリードしていた僕が黙り込んだから、
自然と2人とも無言になってしまった。
それでも気まずい訳ではなくて、
むしろ心地よくて、安らぎを感じる。
また少し眠たくなってきているのを自覚し、
せっかく会えたのに、話さなきゃまた後悔するぞ、と話題を探した。
🐣「グクはいつまでここに居られる?
今日も用事あるの?」
🐰「今日休みだから、別に決めてない。
暇だから外出てきただけ。」
🐣「そうなんだ、」
口にも顔にも出さなかったけれど、
嬉しかった。
特に用事もないのに、こんな寒い中、
ただ僕の隣にいてくれるのが、嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。
大好きな人とたくさん話して、
熱いコーヒーはとっくに飲み終わって、
心もお腹もぽかぽかと温かい。
寝ちゃだめだ、と思いながらも、
やっぱり眠気に負けてしまいそうで、
うつらうつらと首が揺れ始めていたら、
そんな僕に気づいたグクが、隣で、
息を吐くように小さく笑った気がした。
首の後ろに、温かい手を感じたかと思った途端、そっと引き寄せられて、
僕の頭がグクの肩に乗っかる。
🐣「っ、、!!」
驚いて離れようとしたけど、ぐっと抱かれて許してくれない。
おそるおそる肩も彼の体に預けてみると、グクは何も言わずに受け入れ、
僕がそうしやすいように、少しだけ身を寄せてくれた。
🐰「お前ってさ、、
前から思ってたけど、、」
🐣「、うん、、?」
🐰「なんか、、さっきの白猫と似てる。」
🐣「どんなとこ、、?」
眠りかけている僕の耳に、
子守唄のように響く、その静かな低い声へ、
僕もまどろみながら返事をする。
🐰「急に俺がいる所に現れて、
こうやってすぐに寝るところㅎ」
ほんとだ、と小さく笑うと、
肩に回されていた手が、
そっと僕の頭を優しく撫でた。
それは優しい心地いい触れ方で、
どんどん深いところに意識が落ちていく。
穏やかな眠気に身を任せながら、
なんだかグクに飼い慣らされてるみたい、、とぼんやり思った。
でも同時に、彼にだったら別にそれでもいいと真面目に考えてしまう僕が、
確かにここにいる。
だって、
こんなにも気持ちが緩んで落ち着く場所は、
彼の隣以外、他に知らないし、
もう知りたくもないのだから。
こうして僕は再び、大好きな人の傍らで、
すうっと眠りに落ちてしまったのだった。
コメント
12件
グク、猫みたいな人って、それジミンですやん、続きが楽しみでございます
🐰の、一緒に生きて生きたい人はどんな人?の答えと、🐥に白猫みたいと言った言葉に、少しだけ期待をしてみたくなるけれど... きっとReo.さんのことだから、まだまだ物語が深くなるだろうな...と思うので☺️、深入りはせず、今の心地よい2人の空気感と少しのドキドキを、じっくりもう少し味わっていたいなと思いました(˶ ̇ ̵ ̇˶ )
更新ありがとうございます☺ ドキドキ💗心臓がもたない😵 🐰くんかっこよすぎる💕 そして🐣ちゃんの片想い♡ 最高です(*´艸`*) このお話大好き💕💕 主様の描くお話は本当にその世界に 引き込まれてしまう🥰