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「さあ、いくよ。遥」
凌先輩のサーブは、相変わらず綺麗だった。
無駄のない動き、正確なショット。私が中学生の頃からずっと憧れて、何度もノートにそのフォームを書き写した、大好きなテニス。
「……っ、うおらぁ!」
遥は必死に食らいついていた。いつもは喧嘩ばかりしているけど、今の遥は真剣そのもので、先輩の鋭いボールを泥臭く、執念で打ち返していく。
(……二人とも、すごい……)
私はスコアをつけるのも忘れ、二人のラリーに見入っていた。
凌先輩は時折、「いいコースだ」と遥を褒めながら、楽しそうに笑っている。その笑顔が眩しくて、胸がキュッとなる。やっぱり、先輩は私の「王子様」だ。
けれど、試合が進むにつれて、二人の間には決定的な差が現れ始めた。
凌先輩はどこまでも涼しげなのに、遥は全身汗だくで、今にも足が止まりそうだった。
「遥、少し休憩しようか? 無理はよくないよ」
「……余計な、お世話だ……っ!」
凌先輩は本気で弟の体調を心配して声をかけている。でも、その「余裕」こそが、遥にとっては一番プライドを傷つけられることなのだと、隣で見ていて分かってしまった。
「紗南ちゃん、遥に飲み物を持ってきてあげてくれるかな。彼、ちょっと頑張りすぎちゃってるみたいだ」
先輩が私に優しく微笑みかける。その気遣いに「やっぱり先輩は優しい」とときめいてしまう自分と、地面を睨みつけて立ち尽くす遥を見て胸が痛む自分が、私の中で混ざり合っていた。