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いつの間にか、夢を見ていた。
『大事な人が死ぬ夢を。』
過去に一度経験してしまった、あのトラウマを夢に見てしまった。もうニ度と感じたくなかったあの感覚、あの殺風景な部屋、そしてその部屋のベッドの上で息を忘れてた眠っていた『恋人』。
全部全部、思い出したくないトラウマだった。
その夢から逃げたくて、部屋の窓から見を投げ出そうと無我夢中になっていた時だった。
「…まも……や…と、山本?」
目を覚ますと、そこはねっぴーの家だった。
「あれ…俺いつの間にか寝てたんだ」
「そーそー、俺とゲームしてたら山本眠くなったっつってソファーで寝て始めたんやで?」
「まじか、ごめん!なんか最近急に眠たくなる事多くてさ」
「まぁそれは気にしてへんし大丈夫やねんけど…山本めっちゃうなされてたで、大丈夫?」
山本は、酷くうなされていたとねっぴーから聞いた途端に夢の出来事を鮮明に思い出してしまった。部屋を開けた時に見た、『恋人が死んでいた光景』を。
「うっ…」
「や、山本?!どうした大丈夫?!」
山本はあの光景を思い出し、吐いてしまいそうになっていた。
・ーーーーーーーーーーーーーーーーー・
山本が抱えている”トラウマ”の事は、ねっぴーは既に知っていた。二人が仲良くなって暫くした頃、外で遊んでいると山本が嬉しいお知らせ!と言って話し始めた。
「ねっぴー、実は俺彼女出来たんだ!」
と。山本は嬉しそうに語っていた。山本は彼女を紹介したい!とねっぴーを半ば強引にレストランに誘い、山本の彼女と対面した。彼女はとても小柄で可愛らしくて礼儀正しく、尚愛嬌のある、正真正銘山本とお似合いの人だった。その時、ねっぴーは自分の中に芽生えていた、ずっと消したいと思っていた山本への”歪な恋心”を完全に断ち切ることが出来た。何故ならねっぴーは直感でこの人なら、山本を誰よりも幸せに出来る、と感じた為であった。 そんな幸せな山本の元にある一件の事件が起こった。
ある日の真夜中、突然山本から一件の電話がきた。
「山本、どうした?こんな時間にディスコじゃなくてLINEで電話なんて珍し…」
「ねっぴーどうしよう…家に帰ったら彼女が…!!!!息をしてなくて…!!死んじゃうかもしれない…」
「っ!山本今どこ?!?!」
「い、今救急車の中で…!どうしようねっぴー…!彼女が死んじゃうかもしれない…!!」
その言葉を聞いた途端、ねっぴーは山本が居る病院へ爆速で駆けて行った。
ねっぴーが病院に着く頃には山本は俯いて座っており、そして彼女の顔の上には白い布が被せられていた。
「…山本…」
「…ぁあ…嫌だ…嫌だ…!!死なないでよ…!俺を置いていかないでよ…!!!嫌だぁあ!!」
「山本、落ち着いて!!山本ぉ!」
その時、ねっぴーは初めて山本が泣きじゃくって、我を忘れて取り乱す所を見た。その時のねっぴーの心臓は、まるで水浸しの雑巾が力強く絞られるように苦しくなっていた。こんなに取り乱した山本を自分では癒したり、慰めたり安心させることが出来ず、ただこうやって”友達”として止める事しか出来ないという事に無性に腹が立ち、そしてとても酷く情けなく感じていた。
後から医者から聞いた話によると、 彼女は突然の心肺停止、病名は不整脈であるとの事だった。彼女は特別病弱な訳でもなく、心臓が悪い訳でもなかったらしい。ただ、若者が不整脈になる事例は珍しいことではないとの事だった。
「ねぇねっぴー… 」
「…どした…?」
「俺と居たらさ、皆不幸になるのかな…?」
「…そんな事ないよ」
「…不整脈ってさ…日頃のストレスのせいでなることもあるんだって…」
「…山本」
「もしかしたら俺が彼女に、知らず知らずの内にストレスを与えすぎてたのかもしれない…彼女を殺したのかもしれない…!」
「山本!」
「俺と出会わなかったら、彼女は今でも生きてたかもしれない…!俺が彼女の事を不幸にしたんだ…!俺が…!!」
「山本っ!」
その時、ねっぴーは思わず病院内に響き渡る程の大きさの声を出していた。幸い、真夜中の病院であった為ロビーに他に人はいなかった。
「山本…彼女さんが死んだのは山本のせいじゃない。…俺が断言出来ることじゃないってのは分かってる。けどな、俺一回だけ彼女さんと話したことあるんだ。その時の彼女さん、全然山本に対してストレスなんて抱いてなかったよ…!!寧ろ、山本と恋人になれて凄い嬉しいって…!そう言ってた!だから山本のせいだなんて言うなよ!…そんな事言ってたら、天国の彼女さんが悲しむだろ!!」
ねっぴーは一息でこの言葉を言った為、かなり息が荒くなっていた。この後にねっぴーは言いすぎたと思い、謝ろうとした。
「…ねっぴーの言う通りだ。こんなことばっか言ってたら彼女を悲しませちゃう…取り乱し過ぎた、ごめん」
「…こっちこそ山本の事考えずに言い過ぎた。ごめん。」
「…ううん、ねっぴーのお陰で少しは落ち着けたし、まともな思考になれたよ。ありがとう 」
その時の山本の顔は、涙の跡がくっきり残っており、あまりにも酷くしわくちゃになっていてかつ大きく目元が腫れていた。
「ねぇねっぴー」
「…どうした?」
「ねっぴーは俺の前から突然消えないよね…」
「…うん、絶対消えない」
「本当…?絶対約束だよ…」
「うん…絶対消えないって約束する…約束するよ…!」
そうして後日、彼女の葬式が行われた。山本はあの日の様に取り乱す事はなかったが、どうしても涙が堪えられず、大粒の涙を零していた。葬式の後、山本は完全に元気と言う訳ではなかった。家に戻る度に、あの光景を思い出してしまいずっと泣いたらしい。
ねっぴーは考え込んだ。山本が、トラウマを一瞬でも忘れる事が出来る方法を。本来なら、トラウマを忘れるのではなく、他の方法を取るべきだと分かっていた。だが、今のねっぴーでは他の方法が思い浮かばなかった。なので、色々と思い付いたこと手当たり次第に、片っ端から実行していった。カラオケに行ったり、旅行したり、一緒にスプラの大会に出たり個人的に山本をねっぴーの家に誘ったり。勿論、そんな事で山本のトラウマを完全に消す事なんて出来ないとはわかっていた。だから、一瞬でも良い。山本が前みたいにはちゃけて、太陽のような笑顔に一瞬でも戻らせてやりたい。その一心でねっぴーは山本を誘いまくった。
ー、彼女が亡くなってから半年が経った。
山本はそれなりに元気になり、家に帰ってから泣いてしまうと言う事は無くなった。それでもねっぴーはまだ心配な為、山本を遊びに誘っていた。前より遊びに誘う回数は減ったが、それでも月に5回以上は誘って、一緒に遊んでいる。
そして今日、ねっぴーは山本を「一緒にマリカでもしよう」と言って誘った。そこに下心などなかった。本気でねっぴーは山本が元気になる事を第一に考えていた為だ。山本は「ちょっと眠くなっちゃったからソファーでちょっとだけ寝るね」と言ってベッドに横たわり、仮眠をとり始めた。ねっぴーはその時、冒頭の様な事が起きるとは一ミリたりとも考えてはいなかった。
・ーーーーーーーーーーーーーーーーー・
「うぅ…」
「山本、大丈夫?!どうした?」
「うん、大丈夫…ちょっと夢を見てさ…」
「どんな夢か覚えてる?」
「…」
その時、ねっぴーは悟ってしまった。そして同時に後悔した。何故この様な質問をしてしまったのかを。この様に聞いてしまえば、確実に山本のトラウマをフラッシュバックさせてしまうと。
「や、山本!思い出さなくて良い!一旦水飲んで落ち着こう、水持ってくるからソファーに横たわってて」
山本は「うん」と頷いてソファーに横たわり、ねっぴーは水を汲みにキッチンへと向かった。その時のねっぴーは自責の念にかられていた。一瞬でも、忘れさせると決めた筈の事が出来なかった。山本にあのトラウマを思い出させてしまった。
「こんなの、友達失格じゃん…何してるんだろ俺…少し考えれば分かった事なのに…!」
ねっぴーはずっと後悔していても仕方がない、と気を取り直して水入りコップを持ち山本の居るリビングに戻っていった。相変わらず山本の顔は少し青色を帯びており、荒々しい呼吸をしていた。
「山本、水持ってきたよ。」
「ぅん…ありがとねっぴー」
山本は震える手でコップを持ち、水を身体に流し込んでいた。水を飲むと山本の息は整ったが、少し怠さが残っている為かまたすぐにぐったりとソファーに倒れるように寝た。
「ねっぴーごめん…ねっぴーが俺を元気にしようと、あの事思い出させないようにってずっと遊びに誘ってくれたり、一緒に大会に出てくれたり、今日みたいに家に誘ってくれてるのにそれを全部台無しにしちゃった…俺ほんっとに迷惑者で、最低野郎だ 」
「山本は何も悪くない…!迷惑者じゃないし、最低野郎なんて以ての外だ…!だって、あんな事あったんや、そりゃいつ思い出しても仕方ねーじゃん…!だから山本は本当に何も悪くない…!」
「…ねっぴーは優しいね、お世辞がうまいよ…」
「お世辞じゃねーよ…!山本が悪くねーのは本当だし!だからこれ以上自嘲すんなよ…!」
「…俺、本当に最低だ。ねっぴーにそんな顔させちゃった」
其の時のねっぴーの顔は、怒りと哀しみと言う負の感情が混ざり合って複雑な顔になっていた。ねっぴー自身はその時、後悔と自分の無力さに怒っており、そして山本が自嘲しているのを見て哀しくなっていた。
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結局、俺が何をしても山本を幸せには出来なかった。どう足掻いたって、どんなに無理矢理運命を捻じ曲げようとしたって、最期に辿り着くのは不幸なんだ。俺は…この目の前に居る大好きなこの男の事を一生を懸けたとしても幸せには出来ないのだろう。だとしても…俺は山本の事を幸せにしたい、と思う事は醜い事なのだろうか…。
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ーーー、俺はずっとねっぴーの優しさに甘えていた。ずっと甘えていたら駄目だ、これ以上一緒に居たら迷惑をかけてしまうと自覚していた。だけどねっぴーと居ると、あの”トラウマ”の事を忘れられる。そして何よりねっぴーといると居心地が良かった。だからと言って甘えっぱなしで良いと言うわけではない。けど本能はねっぴーといたい、と言ってくる…俺はこの感覚を知っている。多分…否、俺はねっぴーに惚れているんだって。
でも、俺が恋する事は赦されないのだろう。きっとまたあの時みたいに人を不幸にさせてしまうから。そんな事、絶対にさせたくないし何よりねっぴーにはこんな頼りない俺より、素敵な女性の方がお似合いだ。本当は気付いてはいけない想いなんだ、だから…この気持ちを切り捨てないとーー。
・ーーーーーーーーーーーーーー続くーー・
コメント
3件
話作るの上手すぎます😭✨ 続き楽しみに待ってます!
続きたのしみに待ってます!!今回の小説もすごく素敵でした、、、✨
続き待ってます!!