テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
準備を終えた深澤は、式場そっくりに作られたセットで一人待っていた。
正面には白い花で飾られたアーチ。
床には長く伸びるバージンロード。
柔らかな照明。
さっきまでバラエティ番組を撮っていたスタジオとは思えない。
「……やば。」
深澤は小さく息を吐いた。
右手には。
指輪の入った小さな箱。
何度確認しても、ちゃんとある。
なのに。
時間が近付くにつれて。
どんどん不安になってきた。
(本当に大丈夫かな。)
散々、断れない状況を作ろうと考えてきた。
スタッフまで巻き込んで。
ウエディングドレスまで着て。
それなのに。
いざ本番を前にすると。
そんな作戦はどうでもよくなっていた。
もし。
照が困った顔をしたら。
もし。
今じゃないと言われたら。
「……。」
想像しただけで泣きそうになる。
「深澤さん。」
スタッフが声を掛ける。
「もうすぐです。」
「はい。」
「緊張してます?」
「めちゃくちゃ。」
「大丈夫ですよ。」
「絶対成功します。」
「本番入りまーす!」
声が響いた。
深澤は姿勢を正す。
「……よし。」
もう。
やるしかない。
___________
撮影が始まった。
別室にいたメンバーが、何も知らないままスタジオへ案内されてくる。
最初に入ってきた佐久間が。
「え!?」
大声を上げた。
その後ろの康二も固まる。
「何これ!?」
渡辺はセットを見回して。
「いや、待て待て。」
宮舘も目を丸くする。
阿部は。
バージンロードの先にいる深澤を見つけて。
さらに驚いた。
「ふっか!?」
目黒も思わず笑う。
「ウエディングドレス?」
ラウールは数秒固まってから。
「え、結婚式?」
深澤は。
そんなメンバーの反応に少し笑った。
(よかった。)
本当に。
誰も知らなかったらしい。
「ちょっと待って。」
渡辺が周囲を見る。
「これ罰ゲーム?」
「違う。」
深澤は笑う。
「じゃあ何?」
「それは……。」
言おうとして。
深澤は違和感に気付いた。
(……あれ?)
一人。
足りない。
阿部。
目黒。
佐久間。
渡辺。
宮舘。
康二。
ラウール。
七人。
そして自分。
「……照は?」
深澤の顔から笑みが消える。
メンバーも初めて気付いたらしい。
「確かに。」
阿部が後ろを振り返る。
「照いない。」
「さっきまで一緒だったよな?」
渡辺も首を傾げる。
「スタッフさん?」
深澤が助けを求めるように見る。
しかし。
スタッフは。
誰も答えない。
「……え?」
嫌な予感がした。
(何かあった?)
突然呼ばれた?
体調悪くなった?
まさか。
企画に気付いて。
(……帰った?)
それだけは。
本当に立ち直れない。
深澤の顔が少し青くなる。
その時。
スタジオの照明が落ちた。
「え?」
メンバー全員がざわつく。
そして。
正面。
深澤とは反対側にある扉へ。
スポットライトが当たった。
音楽が流れ始める。
「……何?」
深澤は完全に混乱していた。
ゆっくり。
扉が開く。
そこから現れた人を見て。
深澤は目を見開いた。
「……照?」
岩本だった。
でも。
いつもの衣装ではない。
全身を白でまとめた。
華やかな衣装。
ジャケットには繊細な装飾。
まるで。
深澤のウエディングドレスに合わせて用意されたような。
新郎衣装。
「……。」
深澤は声が出なかった。
そして。
驚いていたのは深澤だけではない。
「ええええ!?」
佐久間が叫ぶ。
「なんで!?」
康二も大混乱。
阿部がスタッフを見る。
「これどういうこと!?」
渡辺も。
「ちょっと待て!」
「照知ってたの!?」
ラウールが笑いながら叫ぶ。
「何これ!?」
唯一。
落ち着いているのは。
岩本本人と。
スタッフだけ。
岩本はゆっくりバージンロードを歩いてくる。
深澤は呆然と見つめることしかできない。
「……照。」
近付いてきた岩本が。
少しだけ笑った。
「びっくりした?」
「……。」
「ふっか?」
「いや。」
深澤はやっと声を出す。
「待って。」
「うん。」
「何で?」
岩本は答えず。
スタッフを見る。
すると。
ディレクターが笑いながら説明した。
「実はですね。」
「はい……。」
「深澤さんからサプライズプロポーズのご相談をいただいた後。」
「岩本さんにもお話ししました。」
「は!?」
深澤が叫んだ。
「なんで!?」
「必要だったので。」
「サプライズじゃないじゃん!」
メンバーが爆笑する。
しかし。
スタッフの話には続きがあった。
「そうしたら。」
ディレクターが岩本を見る。
「岩本さんから。」
「『ふっかに言わせるのは嫌です』って。」
深澤が。
ゆっくり岩本を見る。
「……。」
岩本は少し照れくさそうだった。
「どうしても俺から言いたかった。」
「だから。」
岩本はスタッフへ相談した。
深澤のサプライズプロポーズを。
そのまま利用して。
逆に。
岩本からのプロポーズに変えてしまおう、と。
「……。」
深澤の頭が追いつかない。
自分は。
この二週間。
誰にもバレていないと思っていた。
クイズでわざと負けて。
ウエディングドレスへ着替えて。
指輪まで用意して。
照を驚かせようとしていた。
でも。
その裏では。
照も。
スタッフと一緒に。
自分を驚かせる準備をしていた。
「ずっと知ってたの?」
深澤が聞く。
「うん。」
「今日俺がわざとクイズ間違えてたのも?」
「知ってた。」
「……。」
岩本が笑う。
「下手だったよ。」
「最悪!」
全員が笑った。
「俺、一生懸命だったんだけど!」
「知ってる。」
「じゃあ『今日調子悪い?』って聞いたのも?」
「演技。」
「騙された!」
深澤は頭を抱える。
阿部が隣で笑いながら言う。
「ふっか、完全に騙されたね。」
「うるさい!」
目黒も楽しそうだった。
「サプライズ返し。」
「笑うな!」
でも。
怒っているはずなのに。
深澤の目には。
もう涙が溜まっていた。
岩本が目の前まで来る。
「ふっか。」
「……何。」
「その指輪。」
岩本が。
深澤の手に握られた箱を見る。
「あとで見せて。」
「……。」
「俺も。」
岩本は自分のポケットへ手を入れた。
そして。
小さな箱を取り出した。
「用意してきたから。」
「……。」
深澤の涙が。
とうとう。
一滴落ちた。
自分が。
絶対に断られないように。
必死に作ったプロポーズ。
それは。
始まる前から。
完全にひっくり返されていた。
しかも。
一番嬉しい形で。
コメント
1件
みらさん、よかった……本当によかったです……😢✨ 深澤くんの「照に言わせるのは嫌だ」っていう気持ち、全部ひっくり返されて、しかも一番嬉しい形で返ってくるの、泣きそうになりました。スタジオの演出も、メンバーのリアクションも完璧で、完全に引き込まれました。そして照くんの「演技」って一言で全部バレてたってわかるの、笑ったけど愛しかったです。逆プロポーズ、最高の形で決まりましたね……!🥀🤍
kaede🍁
4,612
りゅず
4,788
78