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真の夫婦として結ばれ、あの激動の夜から数ヶ月。
魔王城には、今日も今日とて賑やかな───
いえ、少し騒がしすぎるほどの日常が流れていた。
「オーロラ様! 大変です、裏庭の薬草たちが大変なことに……っ!」
「まあ、どうしたの?」
慌てて駆け寄ってきたのは、以前私が治療したあの少年の魔物だ。
今ではすっかり元気になり、私の薬草園の手伝いをしてくれている。
「大変なこと」とは、魔界特有の『成長促進の雨』が降ったせいで、マンドラゴラたちが巨大化して合唱を始めてしまったことだった。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」と地響きのような歌声(?)を上げる植物たち。
私が苦笑いしながら聖女の力で彼らを鎮めようとした、その時だった。
「───オーロラ、下がっていろ」
空気を切り裂くような凛とした声と共に、漆黒のマントが視界を遮った。
愛しい旦那様、ディアヴィル様だ。
彼はマンドラゴラたちを一瞥すると、指先から微弱な衝撃波を放ち、一瞬で彼らを大人しくさせてしまった。
「ディアヴィル様、ありがとうございます。でも、これくらい私一人で解決できましたよ?」
私が少し頬を膨らませて言うと、彼は私の方を向き、その大きな手で私の腰をぐいと引き寄せた。
「ならん。お前はすぐ無茶をするからな、俺の目が届く範囲にいろと言っただろう」
相変わらずの過保護っぷりだ。
あの日の喧嘩以来、彼の溺愛にはさらに拍車がかかっている。
少しでも私が躓けば風のような速さで抱き留め、少しでも顔色が悪いと言えば、魔界中の高級食材を買い占めてくる始末。
「もう……過保護すぎます。みなさん見ていますよ?」
周囲を見渡せば、掃除をしていた侍女たちや
訓練中だった兵士たちが、ニヤニヤとした笑みを浮かべて私たちを見守っている。
「いいじゃないかニャー、仲良きことは美しきことニャー!」
不意に背後から聞こえた声に、ディアヴィル様がピクリと肩を揺らした。
そこには、以前私がイタズラでディアヴィル様に飲ませた【キャット・ウィスパーティー】を密かに気に入り、今や常習犯となっている側近の魔物たちがいた。
「貴様ら……通常業務に戻れと言っているだろう」
「硬いこと言わないでほしいニャ。魔王様がデレデレなのは魔界の平和の象徴ニャ」
「……っ、殺されたい奴から前に出ろ」
ディアヴィル様が顔を赤くして凄むと、魔物たちは「ひえー!」と笑いながら散っていった。
本当に、恐ろしい魔王城が嘘のよう。
ここは今や、笑い声の絶えない私の「家」なのだ。
◆◇◆◇
その日の夜
二人きりになった寝室で、窓から差し込む穏やかな紫の月光を浴びながら、私は彼の隣に腰掛けた。
「ねえ、ディアヴィル様」
「なんだ」
彼は私の髪を一房掬い、愛おしそうに指に巻きつけた。
市場で買ったワックスはもう付けていないけれど
今の私の髪は彼の瞳にはどんな宝石よりも輝いて見えているらしい。
「あの時、私を助けてくれて……ここへ呼んでくれて、本当にありがとうございました。私、今が人生で一番幸せです」
私が胸に頭を預けると、彼は少しだけ力を込めて私を抱きしめ返した。
「……礼を言うのは俺の方だ。お前がここに来るまで、俺はただの『力』という殻に閉じこもった孤独な怪物だった」
「お前が笑うたびに、この呪われたような魔界が、美しい場所に思えてくるんだ」
彼は私の額にそっと唇を寄せ、囁く。
「オーロラ。もしお前が許すなら……下界の連中の記憶からだけでなく、俺の魂の奥底まで、お前の刻印を刻んでほしい。───永遠に、俺の隣で笑っていてくれ」
「ふふっ、約束します。もう、どこへも行きませんからね」
私は彼の首に手を回し、自分から唇を重ねた。
不器用で、けれど誰よりも温かい私の魔王様。
魔界の市場で買った【瞬間・発光ワックス】がなくても。
私の心は、彼への愛しさだけで、いつまでも神々しく輝き続けている。
賑やかで、甘くて
少しだけ騒がしい魔王城の夜は、これからもずっと続いていく。