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124
蒼月
766
グリルタ
72
審判の宣言が静まり返る中、クロードは教官の膝から血が流れる錬兵場をあとにし、薄暗い中央廊下へと向かっていた。拳銃の弾倉(マガジン)を外し、残弾を確認しながら装填し直す。カチリと硬質な金属音が響いた直後、背後から氷を滑らせるような冷ややかな靴音が近づいてきた。
「――待ちちなさい、クロード」
足を止める必要すら感じなかったが、前方から立ち込めた尋常ではない冷気が廊下の床を白く凍りつかせていく。やむなく足を止めると、そこには腕を組み、冷徹な双眸で自分を射殺さんばかりに見つめる少女が立っていた。
セリス・フォン・ヴァルハイト。
名門ヴァルハイト家の血を引く純血魔族であり、クロードの異母姉にあたる存在だ。
「なんの用だ、セリス」
「用? 決まっているでしょう。先ほどの醜態についてよ」
セリスは蔑むような視線をクロードの手に握られた拳銃と、外套の隙間に覗くナイフへと向けた。彼女の周囲で、微細な氷の結晶がピキピキと音を立てて弾ける。
「魔王候補生選抜の実技試験……全校生徒と教官陣が見守る大舞台で、あんな泥泥した小細工を披露するなんて。魔王の血を引く者としての誇りはないの? 詠唱も試みず、得体の知れない鉄の道具で教官の隙を突き、挙げ句に爆薬で脅迫? 支離滅裂で、美しくなさすぎるわ」
「美しさ、か」
クロードは表情一つ変えず、拳銃をホルスターへと収めた。そして、まるで今日の天気を語るかのような平淡なトーンで言い放つ。
「なら、その美しく気高い『重力障壁』を誇っていた教官は今、足から血を流して膝をついている。……負けた方が悪い。それだけの話だろ」
「~っ! 貴様……っ!」
完璧な正論――それも「勝ち負け」しか存在しない魔界において最も残酷な事実を突きつけられ、セリスの美しい眉が跳ね上がった。氷結魔法の冷気が跳ね上がり、廊下の壁面にびっしりと霜が走る。
「教官が倒れたのは、単にアンタの卑劣な不意打ちに対応しきれなかっただけよ! 本来の魔導の果たし合いであれば、あんな小細工など私の『氷結魔法』が一瞬で凍てつかせて粉砕するわ!」
「そうか。じゃあ、次の『魔道王闘技会』で試せばいい」
クロードはセリスの威圧を完全に受け流し、彼女の脇を通り抜けようと一歩踏み出した。すれ違いざま、セリスの耳元に聞こえるか聞こえないかほどの低い声で呟く。
「大雑把な詠唱と、威圧感だけに頼った魔法。お前のその自慢の氷も――俺の弾丸と爆薬の前でどれだけ持つか、楽しみにしている」
「っ……!」
セリスはハッと息を呑み、振り返ってクロードの手元を見た。
すれ違ったほんの一瞬。クロードの左手には、いつの間にかセリスの制服の胸元から掠め取られた『ヴァルハイト家の紋章ピン』が握られていた。
(いつの間に……!? 魔法の気配すら、一切なかったのに……!?)
もしこれがナイフだったら。もしこれが爆薬だったら。自分は今、詠唱すら許されずに首を断たれていたのではないか――。
ゾクりと、背筋を駆け上がる強烈な悪寒。
セリスが言葉を失って立ち尽くしている間に、クロードは一度も振り返ることなく、暗い廊下の奥へと消えていった。
「……なんなのよ、あいつは……っ!」
握りつぶしそうなほど強く拳を握りしめ、セリスは去っていったハーフの弟の背中を睨みつける。
胸の奥で渦巻くのは、激しい不快感と……絶対に認めたくはない、底知れぬ「恐怖」と「惹きつけられる何か」だった。
コメント
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第2話、めっちゃ痺れたわ…!クロードの「負けた方が悪い」のセリフ、あれ完全に魔界の真理だよな。それに、すれ違いざまに紋章ピンを掠め取るシーン、一瞬で空気変わった。魔法じゃなくて技術と判断力で姉を黙らせるスタイル、かっこよすぎる。セリスの「惹きつけられる何か」って感情、すごくわかる…二人の関係がどうなるのか、続きが気になる🔥