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いつものように、老爺が竹を伐る。
何の変哲もない一本。 刃を入れる。
ぱきっと割れる。 その瞬間。
ーー重い音がした。
ころり、と。
地面に落ちたのは、小さな光。
「……なんだ?」
拾い上げる。 掌の上で、金色が鈍く光る。
丸くて 冷たい。
「……金、か?」
信じられない、という顔で呟く。
一本だけではなかった。
次の竹も。 また次も。
割るたびに、同じものが出てくる。
ころり、ころり、と。
まるで最初からそこに詰められていたみたいに。
「……これは……」
手が震える。 老婆も、隣で息を呑んでいる。
「どういうこと……」
答えは出ない。
ただひとつ、確かなのは。
“あの子が来てから”だということ。
二人の視線が、自然と少年へ向く。
少し離れた場所で、いつものように立っている。
風に髪を揺らしながら、こちらを見ている。
「……お前、これ……」
老人が言いかける。
少年は、静かに近づく。
落ちている金貨をひとつ拾い上げる。
しばらく見つめて――言う。
「きれいですね。」
ただ、それだけ。
価値も、意味も、分かっていない声。
老婆は思わず胸を押さえる。
「これはね、とても大事なものなのよ。」
「大事。」
繰り返す。 言葉として理解する。
けれど、その重さまでは届かない。
「……そうですか。」
そして、金貨をそっと地面に戻す。
執着がない。 欲しがらない。
それが、かえって不気味だった。
老人は、ゆっくりと周囲を見回す。
山。竹林。風。
何も変わっていないはずなのに。
「……恵み、なのか。」
ぽつりと呟く。 祈るように。
言い聞かせるように。
老婆は小さく頷く。
「きっと…そうよ。」
そうであってほしい、という声。
少年は、そのやり取りを黙って見ている。
何も言わない。
ただ、ひとつだけ 竹の奥を見つめていた。
ざわ、と音が鳴る。
まるで―
何かが、増えていくみたいに。
その日から
家は、少しずつ豊かになった。
食べ物が増え、着るものが増え
暮らしは楽になる。
けれど同時に 言葉にしない違和感も
同じように増えていった。