我ながら最低なことをしていると思う。
俺は別に相手のことを好きじゃなくたって付き合える人間だ。それっぽく取り繕うのは得意だし、相手がカワイければそれでオッケー。
そのせいで別れたことなんてないし、これからだってそうだ。
でも。
「カワイイ後輩の純情弄ぶなんてなぁ」
話は少し前に遡る。
いつもの面子で暴れたあと、飲み足りなくね?と家へ誘った。
彼の好意は物凄くわかりやすく、この時だってわかっていて誘った。普段すぐちょっかいをかけてくることへの軽い仕返しだ。
「MEN、ほら飲もうぜ」
買ってきたコンビニ袋を起き、中からアルミ缶とツマミを取り出す。
「美味そうっすねぇ」
「だろ?これ、この砂肝美味いから。」
「いただきます」
ちゃんと手を合わせるとこ偉いよなぁ、俺しかいないしお互い酔ってるのに。こういう所に育ちの良さが垣間見える。
「MENさぁ、最近好きな子とかいないの?」
「ゲホッ…な、なんすか急に」
「んー?ホラ、先輩としてはね?気になるでしょ、カワイイ後輩の恋愛事情」
カワイイと言われたことに納得いかなさそうに口をモゴモゴさせているが、別に嘘は言っていない。馬鹿正直なところも青臭いところも、そうやって隠そうとはしているがわかりやすく動揺しているのもカワイイ。
「…いませんよ、そんな相手」
フーン?嘘つくんだ?
「ほんとかぁ〜?モテないにしても恋くらいするでしょうよ」
「一言余計っす…ぼんさんは、いないんですか?好きな人」
露骨に話題逸らしたなこいつ。
そんな聞きたくなさそうな顔するんなら聞かなけりゃいいのに。もっと自然な話題の逸らし方だってあっただろ。ゲームだと器用になんでもこなすくせに、ほんとこういうとこ不器用なんだよなぁ。
「俺はねぇ、いるよ。好きな子」
「えっ…」
笑いながらじっと目を合わせると、慌てて目が逸らされる。
「MEN。」
「は、はい!」
「MENは?」
好きな子、いるんだろ?
言わずとも伝わるであろう言葉は飲み込んで、MENの返答を待つ。
「…ッ、います…けど」
「けど?」
「脈、無いので。いないのと同じです」
「そんなんわかんないじゃん」
「いえ、絶ッ対ないです。断言出来ます。」
「ふーん。ま、今はなくとも落とせばいいんじゃない?」
これだけ餌を撒いてるのにかからないなんて、頑固だなぁ。面白くなくなって酒に向き合う。
「……簡単に言わないでくださいよぉ…」
涙ぐんだ声を聞きながら、ツマミに手を……ん?涙ぐんだ声?
「ちょっ、なんで泣くのよ」
「泣いてないれす……」
「泣いてるでしょうよ、あーもうティッシュ…」
「すみません……」
「いやいや、俺こそごめんね?」
あんたそんな涙脆かったっけ。
MENに恋バナはNGだということを頭の中に書き留め、泣き止むまで背中をさすりながら待つ。
「……もう大丈夫です」
「そう?」
鼻をかんだ後ありがとうございますと言われ複雑な気持ちになる。泣かせたの俺だし。
「…男なんですよ。俺の好きな人。」
「…そう、それで叶わないって?イマドキ珍しくないでしょ」
えっ話すの?俺に?
少しびっくりしたが、話を中断するのも変だしそのまま大人しく聞く。
「歳もめちゃくちゃ離れてるんです。」
「児ポはまずいって」
「どこで知り合うんすかw 上ですよ上。」
「上なら別にいいんじゃない?」
「でも、絶対向こうはそういう目で見れませんよ、俺のこと」
「そんなもん色仕掛けでもなんでもして見させりゃいいのよ」
「色仕掛け?俺が?」
本気で眉を寄せてものすごく不細工な顔になる。
「…は、厳しいか」
「ですよ。無理っす」
「うーん。じゃあ、告白しちゃえば?」
「いやいやいやいや。怖いっす」
「ハァー、我儘だねぇ」
「どこがっすか……… そもそも、俺の好きな人、好きな人いるらしいので。俺がなにをやったってダメですよ。」
自嘲的な笑みが浮かぶ。
好きな人がいるなんて真っ赤な嘘なのに、信じちゃって可哀想に。
…というか、意外とイケるかも。
「ねぇ、MEN」
自分はノンケだと思っていたが意外と男もイケるらしい、この歳になって新たな発見があるなんて。正直しょぼくれてるMENにグッと来てしまった。
返事しようと口を開くMENに近づき、
「俺じゃ駄目?」
と唇を奪った。
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