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暑かった夏が終わりを告げる晩夏の頃、彼と二人で私の実家を訪れることになった──。
「お母さん、今度、結婚のお相手をそっちに連れて行くけれど、決して驚いたりしないでね」
電話でそう事前に連絡をすると、
「まぁ、おめでとう。そんな驚くわけなんかないじゃない。楽しみにしてるから」
と、話していた母だったが、玄関口でいざ政宗先生を目にすると、「いっ……」と、言ったきり固まってしまった。
一方の父は、「よ…」と、口にして動かなくなって、
「あっ、あの…母は『いらっしゃいませ』と、父は『ようこそ』と言おうとしたんだと思います」
顔から火が出そうなくらいに真っ赤になりながら、彼に説明をした……。
「はじめまして。政宗 一臣と言います」
頭を下げる彼に、「あっ、いえ頭なんて、そんな大丈夫ですから!」母が手を何度も振って、動揺を顕わにする。
ぺールグレーの三つ揃いのスーツを上品に着込なした政宗先生はいつにも増して魅力的な姿で、やっぱり驚かない方がおかしいようにも感じられた。
部屋へ上がってもらっても、まだバタバタとして慌てふためいているようにも見える母に、
「驚かないでって言っておいたのに…」
キッチンで食事の手伝いをしながら、そう耳打ちをすると、
「……あんな素敵な方だなんて、びっくりするに決まってるでしょ?」
と、声をひそめて返された。
「だけど、大丈夫なの? クリニックの先生だなんて、智香と上手くいくの?」
心配そうな母に、「うん、大丈夫」と、答えた。
「政宗先生とはいろんなことがあったけれど、でもそのおかげでより強い絆で結ばれるようになったから。先生とならきっと大丈夫だと私は思ってるし、それは彼もいっしょだと思うから」
「……そうなのね」と、母が頷いて、
「よかった。そんなに信頼し合っているのなら、何も心配はいらないわね」
にっこりと微笑んだ──。