テラーノベル
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「敵は、想定以上です」
ベルシュタイン家の偵察兵が戻ったのは、朝日が昇る前だった。
前線に近い作戦本部では、アレクが壁に張られた地図を前に立っていた。
偵察兵は息を乱しながら報告する。
「ウィステリア軍の数は、こちらの五倍以上。……王妃派の私兵も混じっています」
室内の空気が重く沈む。
だが、アレクは表情を変えなかった。
「予定通りに配置につけ」
***
ウィステリア軍の先頭を歩く若い兵は、空腹に耐えかねて足元をふらつかせていた。
つい数日前まで、畑を耕していたただの農民だ。
領主代行ベラドンナの徴兵により、満足な食料も与えられぬまま戦場に引きずり出された。
後ろからは、王妃派の私兵たちが睨みを利かせている。逃げれば、即座に斬られる。進めば、戦場で死ぬかもしれない。
そんな地獄のような行軍の最中、前方が騒めいた。
「……備蓄倉庫だ!」
街道脇に、石造りの倉庫が見えた。扉を開けると、小麦袋が山積みにされている。
「小麦袋があるぞ!」
「薬草に、干し肉まである!」
兵たちの目の色が変わった。
ここ数日、まともな食事にありつけていなかった者たちにとって、それは宝の山に見えた。
兵たちは雪崩のように倉庫へ駆け込んだ。
――が。
最初に小麦袋を切り裂いた私兵が、言葉を失う。溢れ出たのは、小麦ではない。ごろりと石が転がった。干し肉と薬草の箱も空。
「……罠だ」
誰かが叫んだ、その瞬間。倉庫内の魔灯が一斉に消えた。
「な、なんだ!?」
「明かりが消えたぞ!」
「出口はどこだ!」
闇の中で、怒号と悲鳴が入り乱れる。さらに、換気口から白い煙が室内へ流れ込んできた。
「火事だ!」
「外へ出ろ!」
「押すな!」
「どけ!」
罵声が飛び交う中、ひとつだけ開いた出口に外光が差し込んだ。
「あそこだ! 出口がある!」
兵たちは、光に縋るように殺到する。そして外へ飛び出したとたん、彼らは足を止めた。
そこに立っていたのは――。
コメント
1件
編集の仕事が一段落ついて、一気に読ませていただきました! 第66話、めちゃくちゃかっこよかったです……! アレク様の「得意だ」の返し、思わず笑いました。でもあの倉庫の罠、本当に効率的で現実的で、バイオレッタ様の知略が光ってますね。特に、無理やり連れてこられた農民兵が槍を落とすシーンが胸に響きました。戦わない勝利、素敵です。次なる冬の戦い、どう動くのか楽しみです🌷