メンチから課された課題は、スシ…と呼ばれる、極東の島国の食べ物だ。なんなんだそれは。当たりを見回せば他の受験者たちも皆同じように首を傾げ、頭の中でスシという言葉を必死で探しているようだった。だが、まぁ時間の無駄に終わったのだが。
「はぁ。あんた達は寿司も分からないわけェ?いいわ、ヒントをあげる。」
メンチの言葉に傾げていた首を元の位置に戻し、言葉の続きを待った。
「寿司って言うのわね、魚と米を使った料理のことよ。いい?わかったわね?じゃ、速く作ってらっしゃい。」
半ば強引に話を区切り、メンチは受験者たちを急かしに掛かってきた。…魚と米を使った料理と言われても、いまいちピンとこない。もはや考えても無駄だと判断したクラピカは魚を得るために川へと向かうことにした。
「…取り敢えず魚を捕まえないことには話にならないな。私は川へ行くがお前たちはどうする。」
「海はある程度進まなければないから、川へ行くしかないな。俺も同行しよう。」
安定にクロロはクラピカに付いていく。これはまぁ承知の上だ。
「クラピカ達があっちに行くなら、俺はこっちの方で魚を採るよ!釣竿あるしね!」
「ゴンがこっちに行くって言うんだったら俺もこっち。」
ゴンとキルアはクラピカ達とは逆方向の川で魚を探すようだ。4人の視線はレオリオに集中した。
「俺は…」
レオリオは何となく雰囲気で察してはいるのだが、恐らくクラピカとクロロの間には特別な関係が築かれている。ならば、この2人の空間には居づらい。そんな空気に長時間当てられたら、体がむず痒くなって大変キツイのだ。かといってゴンとキルアに付いていけば、何やらトバッチリに合う気がしてならない。ガキのお守りなんてゴメンだね。自ずと1人という選択になるのだが、魚を捕まえる自信はレオリオにはない。レオリオは、顔を顰めながら唸るが一向に決まらなかった。はてさてどうしたものか。
「俺は一人で行くわ…なぁ、頼む出来れば魚を多く採ってきてくれねぇか?頼むって。」
レオリオの心情を知らない4人は、彼の他力本願の姿勢を見て肩をすくませた。けれどレオリオにだってこれは譲れない。心の安寧が掛かっているのだ。負ける訳には行かない。
「レオリオは魚取ったことないんだ?」
クロロの問に、レオリオは肯定の言葉を返した。
「コツ掴めば簡単なんだけどな、良ければ教えようか?」
ありがたい申し出だが、丁重にお断りさせて頂くことにした。だってこの2人、ナチュラルに甘い雰囲気漂わせ始めるんのだ。教えて貰っても頭に入ってきやしない。澄み渡る蒼空を遠い目をして見つめるレオリオの顔はどこか…疲れ切っていた。
「このような浅い川に魚はいるものなのか?」
クラピカの視界にある川は水深が3、40センチメートル程の浅い川だ。幼い頃、魚を捕まえていたクルタの森付近を流れる川はもう少しだけ深かったような気がするな、思いクラピカはクロロに問いかけたのだ。
「種類は多くないだろうが好んでこの場所に棲息する魚も居ないことは無いだろうな。…そうだな、オイカワやカワムツなどが挙げられると思うよ」
「お前は物知りなのだな。…美味しいかどうかは分からないが…。」
「そうだな、美味いのかどうかは食べてからじゃないと。」
クロロの博識さに感心しつつ、クラピカは即席の釣竿を作るために太めの木の棒を拾い集める。この地帯は生き物の種類が豊富だ。釣り糸になる部分は、蜘蛛の糸を代用することに決める。普通の蜘蛛の糸とは違い、強度も太さも申し分ない物だ。
「取り敢えず釣竿は出来たな。そろそろ捕まえ始めないと間に合わなくなるぞ」
クロロはクラピカを一瞥した後、袖を捲り始めた。
「お前は釣竿じゃないのか?」
「手の方が速いからな。クラピカも素手で捕まえればいいのに。」
そう言われてみれば確かにそうだ、とクラピカは思った。こんな浅い場所で釣竿を垂らして魚を待っている光景など滑稽極まりない。時間の無駄でもある。ならば、素手で捕まえた方が良いに決まっている。
「クロロが言った通りだ。私も素手で捕まえよう。」
クラピカは、特徴的な青の貫頭衣のような服を畳み、岩場の上に置いた。そうして、袖と裾を丁寧に捲り川の中へと足を踏み入れた。水の冷たさにビクッと体を震わせたが直ぐに体は慣れたようで魚を探しに歩き始める。そうして、小さな魚影を発見した。狙いを定め、慎重に魚との距離を詰めていく。
「ッ!!」
身を乗り出して、両手で魚を捕まえる。しかし、魚特有のヌメりのせいで魚が手から溢れ落ちそうになるのを必死に堪えた。
「はぁ…クロロ!私は魚を捕まえたぞ!」
クロロの方へと体を向けたクラピカは、口を尖らせた。クラピカとクロロの捕獲した魚の数の差は歴然であった。やっとの思いで1匹のクラピカに対して、クロロは現在6匹目の捕獲に差し掛かっている。
「私はやっとの思いで捕まえたというのに…」
クラピカは溜め息を付かずには居られない。そんなクラピカを知ってか知らずかクロロは、クラピカに話しかけてきた。
「お、1匹目捕まえたんだな。これで目標は達成されたが、まだ捕まえるだろう?腹も減ったことし。」
クラピカは何故だか無性に反抗したくなった。
「ふん…私は別に腹など減っていない。食べたければお前一人で食べておけ。私は先に行く。」
「ちょ、なんで怒ってるんだ?…ふーん、そう。俺の方が採るの上手くて拗ねちゃったんだ。」
「別に不貞腐れてなど居ない!バカにしているのか?」
完全にペースを呑まれたクラピカは、盛大な溜息をひとつ。先程の幼稚な考えも霧散してしまった。気に入らないだけで。
「…悪かったな。私は魚を獲るのがあまり上手くないようだから、先程集めた木の棒で火を起こしておく。獲れたらこちらに来い。」
そう言って、クラピカは川からあがる。ここで、クロロの悪戯心が疼いた。
「それ。」
クラピカの腕を引き、こちら側に抱き寄せたのだ。すかさずクラピカは反論の意を唱えな。
「何をする!!離せ。でないと川に沈めるぞ?」
「減る物でもないしいいじゃないか。」
クラピカは青筋をこめかみに浮かべると、クロロの腕の中で激しく抵抗を始めた。
「ちょ、暴れるなって。落ち着け落ち着け。ッて、うおッ」
クロロの体幹でもこの足場の不安定な川の中では無力なようで、そのままバランスを崩し2人揃って川の中へとダイブした。
「貴様…許さん」
クロロの平謝りも相まってクラピカの顔は大変怒り狂っていた。クロロも流石にマズイと思ったのか本気の謝罪を見せてくる。が、その程度の物でクラピカの怒りが静まるわけでもなく、数時間は口を聞いて貰えなかったとか。
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