「ちょっ!マジ、何聞いたの!?」
そんな風に反論してくる透子が可愛いと思いつつ、修さんに何バラされてるのか急に不安になって、つい動揺して反応してしまう。
「フフッ。樹に初めてこの店で声かけられた時の話聞いてただけ~」
いやいや、その頃のオレはカッコ悪いでしかないでしょ。
「えっ、それってオレ隠しておきたいヤツじゃないの? 修さん」
修さんがどこまで話したのか気になって、つい問い詰める。
「ん? あぁ~そうだな~お前的にはな~。でももう結婚して何の問題もないんだし、奥さんがまだ知らないお前のこといろいろ伝えておこうと思って(笑)」
「何? 知られちゃマズいことまだあるワケ?」
「そんなのもうないけど。ってか別に隠してることとかないし」
隠してることなんてもちろんない。
だけど、昔のオレを今更知ったところで透子にもっと好きになってもらえるとも思わないし、この店でのオレは、適当に遊んでるか透子にずっと片想いしてたか、とにかくカッコよくいたいオレの姿はほとんどない。
「へ~。でもそう言いながら私のこと周りには隠してたんでしょ?」
「ん? なんの話?」
透子が返した来たその言葉の意味が思い当たらなくて聞き返す。
「あの結婚披露パーティーの時、あんまり周りに紹介してくれなかったのはそういうこと・・・?」
ん? えっ?
結婚披露パーティー??
透子なんのこと言ってるんだろ。
確かに籍入れてからこの店で自分らの仲いいメンバーだけ呼んで軽くお披露目みたいなことはしたけど。
ホントはちゃんとした結婚式をしたかったけど、お互いの仕事がずっと忙しいのが続いてて、ゆっくり相談する時間も日程も取れなくて、それならせめて軽いパーティーくらいはって言ってそれは確かにした。
うちの両親は世間的に名前は知れてるモノの、大々的に二人が夫婦だったってことは言ってないだけに、結婚式となるとちょっと影響ありそうだからって二人でそこも決めて呼ばずに納得したはず。
だけどそれも元々は透子が気を遣ってくれてそうしようって言ってくれたから、今更そんなこと気にしないはず。
なら何?
修さんと話しててなんとなく透子がそう言い出したとなると・・・。
周りに隠してた・・・って、オレが修さん以外には透子のことあえて言わなかったことに関係してるとか・・・?
「透子。なんか勘違いしてる?」
「えっ・・・?」
「オレの周りの連中に紹介するのはオレがあれ以上限界だった」
オレには修さんしか相談出来なかった。
透子のことだけは、昔から知ってる修さんだけ。
「そういうことだよね・・・。そっか~やっぱりこんな年上の相手とかって紹介しづらいよね~。よかった。結婚式なんてしてたら、それこそ樹困っちゃってたよね!」
・・・え?
透子の言ってる意味がわかんなすぎなんだけど。
「透子。ちょっと待って。年上とか・・・何? ただオレはあの時の透子があまりにも綺麗だったから、他のヤツらに必要以上にそんな透子見せたくなかっただけ」
ただのお披露目パーティーだからと思って気楽に考えてた。
透子と結婚出来る嬉しさにオレは舞い上がって周りの連中にも自慢出来るって喜んでた。
だけど。
いざ当日になって透子の姿を見た時、失敗したって思った。
当の姿を見た瞬間、やっぱり誰にも紹介したくなくなった。
思ってた以上に、透子は着飾っていつも以上に綺麗で。
嬉しそうに笑ってる姿がまたそれも綺麗で。
だけど、きっとそんな顔させているのはオレのはずだから。
そんな笑顔でさえも誰にも見せたくないって思った。
透子の魅力をこれ以上誰にも気付いてほしくなかった。
「あんなのオレの周りの連中に見せたら透子に興味持っちゃうし、そんなヤツらに透子狙われるのとかマジ勘弁」
「それ・・が・・理由?」
「それ以外何がある?」
透子はきっとあの場だけでも喜んでくれるってわかってはいたけど、これはただのオレの独占欲。
「いや・・私はてっきり、私紹介するのに抵抗あるんだろうなと思って・・・」
「え? なんで?」
「こんな年上だし、樹に釣り合う相手じゃないよな・・・って」
「は?? 透子・・そんな風に思ってたの?」
「あの時はそれで全然嬉しかったんだよ。それでも全員に樹、私のこと紹介してくれたし。実際そんな風な心配に思う暇もなかったくらい幸せな時間だったし」
「なのに・・・? なんで・・・?」
「さっき、修ちゃんと話してた時にさ、なんかふと思い出しちゃって」
「どういう話からそういうことになったワケ?」
「樹が私のこと好きになってから修ちゃん以外相談しなかったって・・・。実際それって私が年上だしそんな相手とかだと、今までの樹のイメージに合わないし、それで知っている人には言いづらかったんだろうなぁって」
「なるほどね。そういうことか。それで透子は心配で今更不安に感じちゃったと」
「はい・・・」
また透子は相変わらず自分の綺麗さも魅力もわかってない。
オレら同年代にとっちゃ、透子の美しさなんて憧れ以外何者でもない。
それどころか軽い連中の野郎どもから見たら、透子を邪な目で見られるとか十分考えてそれも耐えられなかったし。
だけど、ずっと適当な相手としか付き合ってこなかったオレがこんなにも素敵な女性と結婚出来たことは何よりも自慢で何よりも幸せで。
それをそいつらに見せつけてやりたかったっていうのも事実。
男なんて綺麗ごとだけじゃなく、そんな浅はかな気持ちを持ち合わせていること、とても透子には言えない。
それどころかオレのそんな気持ちじゃなく、透子は純粋にその場を喜んで幸せに感じてくれていたのに。
なのにオレの小さな器とただの独占欲だけで、結局はまともに連れに透子と話させることもなくマジマジと見られることも嫌で、軽い挨拶程度で済ましていた。
まさかそれで透子が気にすることが出てくるなんて思ってなかった。
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