テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
145
階段を駆け上って部屋に近づくと、段々キルちゃんの声が聞こえてくる。叫んでいることは伝わるけど何を言っているかまでの判断はできなくて漠然とあぁ、警察案件かなぁ、なんてことを思う。
声の出どころは探すまでもなくドアががん開きの部屋で迷うことなくその部屋に足を踏み入れる。
「~~~~~~~!」
目に入ったのは叫んでいるキルちゃんとうつぶせに気絶している男。
状況からして間違いなく男を気絶させたのは追撃をしようとしているキルちゃんで、これ以上はまずい。直感的にそう思ったからドアを閉めるのも忘れてキルを止める。
「うぉ!」
趣味が筋トレと言うだけあって、筋肉には自信があったがそれでも興奮しきっているキルちゃんを止めるのは相当大変で心の中でせんせーとニキくんの到着を今か今かと待ち望む。
「これ、どういう状況?」
後ろからニキくんの唖然とした声が聞こえてきた。
まぁ、そう思うよな。俺もそう思う。
続けてすぐに鍵の閉まる音が聞こえた。やっぱりしろせんせーはこんな時でもれいせいだな、なんて考えていると、
「配信!」
というバカでかい声と共にニキくんが俺とキルちゃんの横を通り抜ける。さっきとは打って変わて、こんな時でもニキくんは配信者だなぁ、なんて失礼なことを考える。
「せんせー!キルちゃん何とかして!俺もう結構限界!」
しろせんせーにそう声をかけると、ゆっくりとした足取りで俺たちの正面まで移動してくる。
残念ながらせんせーが前に来てもキルちゃんは気が付いていないようでいまだじたばたと暴れている。
そのまませんせーはやけに優しい手つきでキルの頭を掴んで——
ゴンッ
「いったぁ!/え、せんせー!」
俺とキルちゃんの声が重なる。
気が付かなかったがどうやらしろせんせーも随分と動揺しているらしい。ニキくんならまだしもせんせーがこんな強硬手段に出るとは。
いまだ、というかいつの間にか興奮状態から混乱状態へチェンジしたキルちゃんにさっきからずっと気になっていたことを聞く。
「キルちゃん弐十くんは?今どこ?」
「え、え、せんせー?キャメさん?あれ、俺、」
「弐十くん!どこ?」
「あ、」
とたんにうつむくキルちゃんにもう一度声をかけようとしてやめる。
まだ、気絶している男に襲い掛かる可能性のあるキルちゃんを戻ってきたニキくんに預ける。
そして、気絶した男をどかすと思った通り、弐十くんがいた。
乱れた髪に中途半端に脱がされた服、そこから見えるまだ新しいキスマや痛々しい歯型。なにより、弐十くんの体の至るとこについた白いドロッとしたもの。
それらから導き出される答えを必死に頭から追いやって弐十くんに声をかける。
「弐十くん?おーい、弐十くん生きてる?」
押しつぶされていたせいで酸欠なのか、上半身を抱き起してもゆすってもいまいち反応のない弐十くんをどうしようかと迷っていると。
「あれ?キャメさん?どうしたの?」
急にスイッチを入れられたみたいに弐十くんが話し始める。
それはいつも俺が話していた弐十くんそのままで、今の状況との不釣り合いさが酷く、無機質に感じてしまう。
殴られたのか頬は赤くはれていて口の端が少し切れてしまっている。首元にうっすらと手の跡が見えるからもしかしたら首を絞められたのかもしれない。
そんな状況にもかかわらずいつも通りにこにこ笑っている弐十くんが、酷く痛々しく見えてしまう。
俺が動けないでいるといつの間にか普段の様子に戻ったしろせんせーが自分の上着を弐十くんにかける。そのままぐちゃぐちゃに髪をなでて声をかける。
「わっ!せんせーなに?どうしたの?」
「お風呂入れたから、入っててや」
「え、うん。わかった」
「俺ら掃除してるから、声かけるまで出てきたらあかんで」
せんせーに言われた通り弐十くんはそのままお風呂に向かう。
浴室のドアが閉まる音を聞いてから、一か所に集まる。床に落ちている男を中心にして。
「……これ、警察呼ばないとだよね」
誰も音を立てることができなかった。シャワーの音か聞こえた頃、ようやく口を開いたのはニキくんだった。
「いや、今は、まだ呼ばんとこ」
「は?なんで?お前この状況分かってんの?弐十くんがどこの誰とも知らないおっさんにおk」
「弐十ちゃんが!どうしたいのを聞いてから決めんと!」
決定的な言葉を言いかけたキルちゃんの声にかぶせるようにしてせんせーが声を荒げる。
「ボビー、それ俺達にもちゃんとわかるように説明して」
「警察を呼んだら、弐十ちゃんが自分で説明せないけんくなる」
「そんなの俺らが変われb」
「俺らで分からんとこは?俺らが来る前のことなんて説明するん?」
せんせーの言う通りでしかない。
弐十くんができるかできないかで判断するなら、問題なくできるだろう。でも、俺は、
「そんなこと、弐十くんにさせたくないな、」
再び部屋に静寂がおとずれる。その沈黙を破ったのはまたしてもニキくんだった。
「じゃぁさ、今俺たちができることってなんなの?」
「……とりあえず、そいつ何とかしなきゃじゃない?」
その疑問に、みんながうすうす思ってはいたが言えなかったことを言う。
この中で一番の年長者は俺だから。
「縛ってここに、閉じ込めとこう、どっちにしろ弐十ちゃんを長時間ここにいさせたないし」
「ボビーの言う通り、だね。うん。よし!キルちゃん買い物行こ!」
「なんで俺なの?」
「え~、だってなんかキルちゃんこいつ殺しちゃいそうだし」
「はは、そうかもね、ほんと」
物騒な会話をしながらニキくんとキルちゃんが部屋を後にする。
しろせんせーが残されたのは弐十くんのケアであることは明白で、俺が残されたのはたぶん、
「暴れたら何とかしろってことだよね、」
2人が帰ってくるまで近くにあった適当なもので男を縛る。
「なぁキャメ、そいつなんか持っとる?」
「ん?えっとね~」
ポケットを漁ってスマホやら財布やらを出す。せんせーにそれを投げて男の背中に腰を下ろす。
せんせーはそれを受け取ると財布の中から保険証やらなんやらを色々取り出して何やらパシャパシャしていた。一見、冷静に見えるけど全然そんなことないんだなぁ、というか、
「ねぇ、せんせーシャワーの音長くない?」
弐十くんがお風呂に入ってから一度もシャワーの音が途切れていない。せんせーもそれに気が付いたのか慌ててお風呂に向かった。
それにしても、
「なんで、こんなことしちゃったんだろうね?」
気絶したままの男の首に手をかける。ゆっくりと力を込めて、このまま殺せないかなぁ、なんてこれじゃぁさっきのキルちゃんたちのやり取りを物騒だなんて言えないな。
「キャメ?なんかしとった?」
「ん?何にも?」
少し顔色が悪くなって戻ってきた、せんせーにごまかすようにして聞き返す。
「弐十くんなんかあった?」
「多分やけど、吐いとった」
「そっか、まぁでも、そうだよね、」
せんせーは唇を噛んで、怒っているのは明らかだった。それはこの男にかもしれないし、自分にかもしれないし、はたまたそれ以外のものにかもしれない。
「ねぇせんせー、なんかこの近くにいいホテルあったけ?」
「ホテル?なんで?」
「今日はこの後みんなでいいホテルでも泊まろうよ、ね?」
「そうだね、」
そのまま雑談をしながらニキくんとキルちゃんの帰りを待つ。
俺がこの男を殺す前に戻ってきてくれますように!
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!