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ガラス戸を押して教室に入る。暖かい。コルクボードに画鋲で貼ってある座席表を見ると、健太の席は塾長のデスクの近くだった。

塾は各机ごとに仕切り板で区切ってある個別指導式だが、塾長は「仕切りはボーダレスの時代だから、思い切って取っ払う。君達は新しい時代に生きるんだから」というのが口癖だ。そのくせ、結局そのままになっている。上着と襟巻き、手袋をはずし、背もたれが直角の椅子に座る。すぐに始業チャイムが鳴った。

「さあ、はじめよう」

藤田先生が突然現れ、健太の席の横にある丸椅子に尻を半分ほど乗せた。健太は落書きだらけのノート、ゲームキャラクターのシールが貼られた筆箱、ぷうぎの下敷き、社会のテキストを鞄から取り出し、机の上に積む。宿題については、間違ったノートを持ってきてしまったと言い訳した(ちなみに、間違ってない方のノートは買ったばかりで白紙のままだ)。先生はちゃんとやってこいよぉと職務だがあまり効き目のないことがとっくに実証されている台詞を洩らしたあと、ページを指定する。

テキストを開けると、一番上の行に「民主主義と選挙」とある。藤田先生の三色ボールペンは指でつまむ部分の塗装が剥げていて、下から金属が見えていた。先生がこれで字を書いているのを見た人はいない。中のインクはすでに固まっている。上下にふにゃふにゃ揺らしながら、話のリズムを取るためだけに使う。

「ところで先週話した絶対王政っていう時代は、王侯貴族だけが国のあり方を決めて、数多くのその他農民は、ただ決まったことについていくだけだった。憶えてるかな」と先生が言うと、健太はあいまいにうなずいた。先生はメガネをはずし、シャツの胸ポケットからティッシュを引き、それで手垢のついたレンズを拭きだした。眉毛には、よく見ると白髪が混じっている。ティッシュは使い終わると腰のポケットに丸め込まれた。

「貴族になるには普通、貴族の家に生まれなきゃならない。どこの家に生まれたかでその人の役割が決まってたんだ。例えば、健太君はうどん屋に生まれたからうどん屋、松田さんは貴族の家に生まれたから政治家」

しゃれになってない。父は将来、健太を祖父の製麺会社に入れたがっている。もっといい例はないのか。

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