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「流来(るうら)の彼女だと思ったんですか」
と笑う明空拝(みくば)。
「ま、たしかに女の子っぽい顔してますもんね」
納得の流来。
「そうなんです。でも真実田(まみた)くんだなんてビックリしました」
汝実(なみ)が笑う。
「でもほんと女の子みたいですね」
杏時(あんじ)が明空拝の顔を見ながら言い、芽流(める)も頷く。
「いやいやいや」
と否定しつつも照れる明空拝。
「でもそのメイクってサロンかなんかでやってもらったんですか?」
汝実が興味津々で聞く。
「あ、いえ…。なんというか…」
もじもじする明空拝。流来をチラッっと見る。流来は首をクイッっとして無言で「言えば?」と言う。
「実は自分で」
「自分で!?」
めちゃくちゃ驚く汝実。
「すご」
静かに驚く杏時。無言で驚く芽流。
「マジか」
驚く希誦(きしょう)。
「え。ほんとに?」
もう一度聞く汝実。
「はい。まあ…そうですね」
「え。すごくない?ですか?」
「え。えぇ」
照れる明空拝。
「え。メイク男子だったんだ?真実田くんって」
「まあ。はい。そうっすね」
「あさおんしたのかと思うレベルで女子だなぁ〜」
とまじまじと明空拝の顔を見る汝実。
「あさ、おん?」
「あさおん?」
そこにいる誰もが
「あさおん」ってなに?
と思ったが誰も深く突っ込まなかった。
「真実田くん元々女の子っぽい顔してるもんね」
「そ、そうですかね?」
「うん。アンニュイな顔だったなぁ〜とは思ってた」
「あ、ありがとうございます?でいいのかな?」
「どういたしまして。でいいのかな?」
と笑う汝実と明空拝。
「それにしてもなにをあぁ〜んしてたの?」
「あぁ〜んって。いや、溶けて無くなるティラミスってのが、ほんとに溶けて無くなるって驚いてたら
流来が「そんな訳ないだろ」って言うもんで、じゃあ食べてみ?って食べさせたところだったって訳です」
「なるほどね?で、流来くん、どうだったんですか?」
「ん?うん…。正直覚えてないっすね。食べた瞬間、ドアが開いたんで全然、食感とか味とかなんも」
「あらら」
「覚えてないってことは溶けて無くなったってことじゃん?」
明空拝がニヤニヤしながら流来に言う。
「覚えてないんだから審議不能」
「なんでそんな認めないん?」
「誇大広告ってマジで多いから」
「誇大広告じゃないから」
「仲良いですね」
と笑う汝実。流来と明空拝は顔を見合わせて、明空拝は笑顔、流来は肩を竦める。
「にしても美術室なんてあったんだ?」
美術室内を見回す汝実。
「それ自分も思いました」
頷く明空拝。
「2人はいつもここで溜まってるんですか?」
「はい!流来が絵描いてて、んで自分はゲームしてたりちょっかい出したり」
「へぇ〜」
と言いながらも明空拝の顔を見る汝実。
「にしてもメイク上手いな」
「上手いよね」
「わかる」
頷く芽流。
「ありがとうございます」
やはり照れる明空拝。
「え。自分で研究して?」
「そうーですね。MyPipeとか見て」
「すご。できるんだ?私もMyPipe見てやろうと思ってみたことあったけど
うまくいかずに挫折したからなぁ〜」
「いや。わかります。自分も挫折しかけました」
「でもここまでいったんだ?」
「まあぁ〜〜…ここまでというとあれですけど、はい。そこそこうまくはなりました」
と汝実と明空拝はメイクの話で盛り上がり、希誦(きしょう)はただジッっと明空拝を見ていたので
杏時と華音は流来の後ろに行って流来の前のキャンバスの絵を見る。
ただなにも言わずに画廊のように絵を眺める2人。杏時、希誦、汝実、芽流が来てから
なんとなく絵を描くのを中断して、キャンバス前でスマホをいじっていた流来。
背後で絵を覗いている2人の気配を感じて、なにか言うのかというのをしばし待つ。しかしなにも言わないので
「キャンバスに絵描いたことあります?」
と流来から話しかけた。杏時と芽流は互いに顔を見合わせて
無言で、顔だけで「どっち?どっちに聞いてんの?」 「どっちから喋る?」みたいなやり取りをして
「ないですね」
と杏時が先に喋ることにした。
「私もないです」
「美術の時間はー…。そうか。学校によっては選択授業か」
と言いながら後ろを向く流来。
「ですね。私は美術と音楽の選択で音楽を選択しました」
杏時が軽く手を挙げる。
「私も選択授業でした。私は美術選択しましたけど」
芽流も杏時に合わせて軽く手を挙げる。
「おぉ」
と全然驚いていないのに驚いたような声を出し、立ち上がる流来。
先程、杏時と芽流が座っていたイスのほうに歩いていって
2人が座っていたイスを持って杏時と芽流の側に置く。
「あ、ありがとうございます」
「すいません。ありがとうございます」
と言って座る杏時と芽流。無言でコクリと軽く頭を下げ、流来もイスに座る。
「…。あ、そうか。自分とこは選択授業じゃなかったんですけど、美術はそうか。
画用紙的なものに描いてたっけな」
「あ、そうです。なんかちょっと分厚めの紙に描いてました」
「ですよね?あ、そっか。高校の授業ではキャンバス使わんか」
頷く芽流。
「ちなみにキャンバスっていくらぐらいするんですか?」
杏時が聞く。
「うぅ〜ん。ま、大きさとこの布の質とかによりますけど
自分が使ってるのは1枚5、600円くらいですかね」
「あ、思ったよりも安い」
「ま、素人なんでそんな高いの使わなくていいし。
それに有名な画家さんでも価値があるのはキャンバスじゃなくて絵ですからね」
「そっか」
「たしかにそうですね」
「…。ま、そう言った手前あれですけど、キャンバスによって絵の具の乗りが違ったり
伸びも違ったりするんで。…ま、それも好みですけどね」
「あと慣れとか?」
頷く流来。
「それ。それが大きいです」
なんて話して女子4人は講義があるということで美術室を出ていった。
先程まで6人いて、明空拝は汝実とメイクの話で盛り上がっていて
流来は杏時と芽流と高校のときの話や絵の話をしていた。
なので美術室はそこそこに会話が飛び交っていたのだが、2人きりになり急に静かになる。
「え。なんか寂しくね?」
サティスフィーでゲームをしていた明空拝がバッっと顔を上げて口を開く。
「ビックリした。手元狂うわ」
流来が明空拝を振り返る。
「いや、さっきまでキャッキャウフフだったじゃん」
「キャッキャウフフ」
「さっきまで可愛い東京女子と楽しかったじゃん!」
「東京女子」
「まあ多部満(たべみつ)さんは愛知県出身だけどさ。そこはどうでもいいんだよ!急に静かになって寂しい!」
「…。まあ、急に静かになって物足りないのはたしか」
「だしょ!?」
「ま、オレは気兼ねなく絵描けるからいいけど」
「僕は1人寂しくゲームですよ」
「いいだろ別に」
「流来とはメイク談義できないし」
「さーせんね、メイク必要ないくらいイケメンで」
「そうなんよなぁ〜」
「…。いやツッコんで?否定して?さすがに思ってもない自画自賛をスルーされるのはキツいわ」
「思ってないん?」
「思ってる訳なくね?」
「いや流来イケメンよ?」
「…。あぁ。はい。ありがとうございます」
その後も流来はキャンバスに絵を描き、明空拝はサティスフィーでゲームをし
でもお互い無言というわけではなく、たまにちょくちょく話して過ごしていた。
一方、杏時、希誦、汝実、芽流は横並びで講義を受けていた。
杏時と芽流はちゃんと授業を聞いていたものの、希誦と汝実はスマホをいじっていた。
希誦はスマホを持つ右手の親指を動かすことなく
スマホを支える人差し指の爪でカツカツカツカツとスマホの背面を叩いていた。
「やっぱモンナン(モンスターナンバーの略称)は携帯機じゃね?」
「さあ。モンナンなんて当分やってないから」
「マジ?ワールド買ってないん?」
という明空拝の何気ない言葉に心臓がギュッっとなる流来。
急に空気に質量を、重く感じ、いつものように気軽に
なにも考えず呼吸をすることが難しかったので、深呼吸をするように息を吸う。
「あぁ…。買ったわ」
深呼吸をしながら、でも明空拝に心配をさせないようにいつも通りを装って答える。
「ま、オレもワールドは違うなって思ってすぐやめたけどね。
あれは?XX(ダブルクロス)とかサンライズとかは?」
その言葉でまた心臓がギュッっとなる。深呼吸で肺を膨らませる。
「買った。やってたけど今はやってない」
「あ、そうなん?今XXやってんだけど、やっぱワールドはグラだけって感じ?
断然XX、サンライズのほうがおもろい。やらん?」
「んー…。考えとく。てかどこいったかわからん」
「そうなん?…てか招き玉が全然出ん。上位で出んのか?マスターででしか出ないとか?」
と言いながらサティスフィーを一度太ももに置く。
「なに使ってんの?」
「片手けーん」
「珍し」
「強いからマジ。そーゆー流来はなに使ってたん?」
「…。忘れた」
「ふーん?…あ、そうだ。招き玉招き玉。上位ででるんか確認しないと。
マスターででしか出ないってなるとー…キツいかなぁ〜」
と言いながらスマホを取り出す。画面をつける。
「えぇ!?」
思わず大きな声が出て、思わず立ち上がる明空拝。その大きな声にビクッっとなり筆を落としてしまう流来。
「ビックリしたぁ〜。なに」
筆を拾って振り返る。明空拝は2歩ほど歩いて振り返り、また2歩歩いて振り返りと行ったり来たりしていた。
「…な、なにしてん」
「あ、え。え。あ、どうしよ」
「は?」
「あぁ〜えぇ〜」
と言いながら両手でスマホを胸に抱えたかと思ったら頭上に掲げて
また胸に抱えて、頭上に掲げてを繰り返していた。
なんかの儀式か
と思うほどに。
「あ。えぇ。どうしよ」
「なに。どうしたん?」
「え。見せていいんかな。あ、ダメか。あ、どうなんだろ」
「知らんけど」
「で、で、出掛けませんかって言われた」
「誰に」
「…。苗字忘れた」
「…名前は?」
「希誦さん」