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「…それでは、会議を始めましょう。」
落ち着いた声が、会議室に響く。
今日は、月に一度の大切な会議の日。
時が止まったこの“リーヴル”のこれからについて話し合うのだ。
どうして時が止まったか?
そんなの簡単よ、我らが創造神が“更新”をやめてしまったから。
私達登場人物は、創造神が居なければ動けない。
だから、創造神が更新をしない限りここは昼のままだし、時計の秒針だって動くことはない。
運命の出会いも、胸が熱くなるような友情も、創造神の更新なしには、一生訪れないのだ。
「ここ1ヶ月の間、創造神が更新した回数は、ゼロ。由々しき事態です。」
ゼロ回、この言葉を聞いて会議室はザワザワしだした。
特に、第三作目の荒くれ者たちの辺りが。
「そこで、本日はこの世界の最初の住民、
メシアが名案を持ってきてくれたようです。」
私に視線を移して、言った。
彼女はディア。私と同じ、第一作目が出身。
私は主人公、彼女は準主人公だった。
「そうでしょう?メシア。」
半分呆れたような、困ったような顔をして、私を見つめている。
周りの反応も同じ。
当然の反応だと思う。
私が会議で意見を出すのは、これで5回目。
10回ある会議で、こんなに案を出すのは私だけ。
他の人は、ほとんど高芯を諦めているけど、私は違う。
創造神はきっと、筆を握ってくれる。
自信たっぷりの笑みで、こう返した。
「はい、もちろんです!ディア」
「それでは、前に立って、みんなに説明してあげて。」
「はい!」
踊るような足取りで、真ん中にある舞台へと向かう。
会議室、というより劇場のようなこの部屋は、
円を描くように座席が並んでいて、2階席まで満員だ。
何かを期待してるような、そうでも無いような、そんな眼差しが私に降り注いだ。
お得意の魔法を使って、資料を空に映し出した。
咳払いをして、息を吸い込む。
「えー、私は…創造神が再び私たちの世界を更新し、いつものような日常が戻ってくると、心から信じています」
呆れたため息が、周りから聞こえる。
「しかし、指を咥えて見ているだけでは、時計の針は一向に動かぬまま。」
「そこで!私が創造神の世界に行って、彼女を説得するんです!」
肩で息を整えながら、周りの反応を伺う。
皆、驚きのあまり空いた口が塞がらない様子。
短い沈黙のあと、今までにないほど、周りがザワザワしだした。
眉間に皺を寄せ、抗議する者。
ディアといえば、眉間に手を当て、大きなため息を吐いていた。
「ね?ね?いい考えでしょ?」
「……。」
「お願い!」
返答に困るディア。
彼女の言いたいことを代弁したのは、召使いと共に会議に参加する王女様だった。
「無理だ。」
彼女の一声で、周りは一気に静まり返った。
「王妃、そんなにはっきり言っては…」
「この夢見がちなバカには、これくらい言わなければ効かないだろう。」
ディアが黙ると、彼女は追い打ちをかけるように続ける。
「このバカが、会議で意見を出したのはこれで5回目。1度でも、此奴が出した案が成功したか?」
次々と顔を見合わせる周りの観客達。
まずい、このままでは、負ける。
なにか、何か反論を。
「こ、今度こそは成功させるわ!」
「その言葉を聞いたのも、今回で五回目だ。」
「今回は大丈夫なの!」
「ほぉ?随分な自身だ。なにか証拠でもあるのか?」
「う…。」
助けを求めるように、ディアの顔を見る。
困ったような顔で私を見つめた彼女は、小さくため息を吐いた。
「王妃、あなたの言う通りです。
メシア、あなたの意見はよくわかったわ。貴重な意見をありがとう。」
「でも…!」
「しかし。」
私の言葉を遮ったディアが、鋭い目付きで私を射抜く。
「しかし、彼女の言う通りあまりに無謀な計画です。案を出すのだとしたら、他の案を出してちょうだい。」
「…わかった。」
拳を強く握りしめる。
待ってたって、時計の針は止まり続けるだけじゃない。
ハッピーエンドはいつまでも訪れないのに。
「これにて、会議を終了いたします。
私達は、これまで通り創造神の更新を待ち続ける。それだけです。」
本当に、それでいいって言うの?
「ありえないわ…」
初めに王妃が、呆れたような声をあげて、乱暴に開いた扇子を仰ぎながら会議室を出ていく。
それに続いて他の住民たちも、会議室を出ていった。
私はただ立ち尽くして、王妃の後ろ姿を睨む。
何よ、王妃のやつ。
なにか文句を言う前に、代案でも出したらどう?
「メシア。」
後ろから、片付けを終えたディアがそっと私の肩を持つ。
「王妃のこと、恨まないであげて。
彼女にも、守りたいものがあるのよ。」
「そんなのは分かってる…!でも…」
「皆、時が止まって焦っているの。」
「……。」
「最初の住民である私たちの役割は、皆をまとめ、治めること。」
私を正面に向かせて、真っ直ぐに目を見つめる。
私によく似たサファイアの瞳が、私の不満げな顔を映した。
「ねぇ、メシア。」
「なに?」
「あなたの案、斬新だったわ。皆、驚いていたの。でもね、あなたには__」
ディアの肩を押しのけて、キッと睨みつける。
「危険すぎる?もう何回も聞いた!私だって子供じゃないの!」
「待って、メシア…まだ__」
「もういい!」
ディアの返事を待つことなく、ヒールを床に叩きつけながら会議室を出ていった。