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「……後輩? 僕に……後輩ができる……?」
自室でPCの画面を見つめながら、僕は呆然と呟いていた。
引きこもり無職から勢いでVTuberになり、気づけば「イケボ事故」「デスソース」「ホラゲー殺意」「セーラ先輩の玩具」として散々な目に遭ってきた僕(天使ミラ)。
そんな僕が所属するルミナスプロから、ついに新しい新人ライバーがデビューするという。
しかも、マネージャーの坂田さんからの指令は——
『未来さん! 先輩として、新人ちゃんの初配信を「同時視聴(ミラー配信)」して温かく見守ってあげてくださいね!』
「さ、先輩として……見守る……!」
その言葉に、僕の胸の中に少しだけ誇らしい気持ちが芽生えた。
そうだ。僕ももうデビューしてしばらく経つ。幾多の地獄を潜り抜けてきたんだ。
今度こそ、頼れる先輩として「天使のような慈愛」で後輩を包み込み、温かく迎え入れてあげるんだ!
スマホがブルッと震える。
『三日月茜:後輩に見本を見せるチャンスです。今回は絶対に地声を漏らさず、可憐で優雅な先輩天使として振る舞ってください。失敗したら後輩の前で腹切りです』
『金城空斗:お前が先輩とか世も末だな。後輩に速攻でナメられる未来が目に浮かぶわ』
二人の雑音はシカトだ。
僕はボイチェンを完璧にセットし、後輩の初配信画面を自分の配信にキャプチャした。
【同時視聴配信開始】
[リスナーA]ミラちゃんが先輩面してるwww
[リスナーB]大丈夫か? 後輩に事故見られない?
[リスナーC]どんな後輩なんだろワクワク
「みなさん、こんミラ〜……♪ 今日は、ルミナスプロ期待の新人ちゃんの初配信を、ミラと一緒に見守っていくのです……♪(完璧な裏声)」
画面内の天使ミラちゃんが、優しく微笑む。よし、立ち上がりは完璧だ。
そして、運命の19時。
画面の中で、後輩の配信枠が【ライブ中】に切り替わった。
画面に現れたのは——
ダボッとしたパーカーを着て、頭にはピンと立ったクマ耳。眩しいサングラスをかけ、首にはゴツい金ネックレスを下げた、チャラさ1000%のアバター。
**【熊田ベアー(18歳・設定上はパリピの熊妖精)】**
・ルミナスプロ待望の新人。
・自称「コテコテの関西出身パリピクマ」。
・語尾は「〜やで!」「〜まんねん!」。だがイントネーションがどこか不自然。
『イエーイ!! みんなー! 聞こえてるか〜い!? 浪速のパリピ熊妖精、熊田ベアーちゃんで〜〜〜す!! ウェイウェイ〜〜〜っ!!(クラブ風の爆音BGM)』
「ひっ……!? 音が大きい……っ!?」
画面越しに押し寄せる圧倒的な「陽キャの波動」に、陰キャ引きこもりの僕は思わず後ずさりした。
[リスナーA]うわ出たパリピwwww
[リスナーB]サングラス眩しいwww
[リスナーC]……ん? この関西弁、なんか変じゃね?
『今日はな〜! うちの初配信っちゅーことで! めっちゃごっつごつに盛り上げていくで〜〜〜! ぶっちゃけ、ルミナスプロの先輩らとか、全員うちがブチ抜いてトップに立ったるねん! ギャハハ!』
「ご……ごっつごつ……?」
聞いたこともない謎の関西弁(?)が、スピーカーから爆音で流れてくる。
『特にあの「天使ミラ」とかいう先輩な〜! ネットで切り抜き見たけど、イケボでパニックになってデスソース舐めとるだけやんけ! プレイスタイルクソザコすぎて草生えるわ〜! うちがほんまの配信ってやつを教えたるわ〜〜〜!』
**ズドン。**
画面の向こうで、初配信開始2分でダイレクトに煽られた。
「な……っ!? く、クソザコ……!?」
[リスナーA]ミラちゃん煽られてて草wwwww
[リスナーB]後輩にイキられてるぞwwwww
[リスナーC]煽り性能高めのクマ来たwww
「う、ううん……っ! ミラは天使ですから……後輩ちゃんの元気な発言も、温かい心で包み込むのです……っ♪(必死に引きつった笑顔を維持)」
そう、僕は先輩だ。ここで怒ったら三日月さんに怒られる。慈愛だ、慈愛を持つんだ彼方未来……!
だが、熊田ベアーの暴走は止まらなかった。
『ちゅーことでな! 今日はうちの特技見せたるわ! 【似非関西弁ラップ】いくで〜! マイク音量MAX! ウェイ!!』
ガンガンに鳴り響くチープな重低音BGM。
そして、マイクに乗って叩きつけられる、崩壊した関西弁の謎ラップ。
『アニキも姉ちゃんも寄ってらっしゃい見てらっしゃい! うちが浪速のクマやで〜! たこ焼きお好み焼き串カツ食うて〜! めっちゃすきやねん! 儲かりまっか〜! ぼちぼちでんねん〜〜〜!!(激しい音割れ)』
「……っ!?」
あまりの音割れと、狂ったようなテンション、そして「関東人が想像だけで作ったような酷すぎる似非関西弁」の嵐に、僕の繊細なコミュ障脳のキャパシティが限界を迎えた。
頭が痛い。耳が壊れる。
ていうか、イントネーションが全部おかしい!! 「儲かりまっか」の「か」が上がってる!!
『イエーイ! 先輩のミラちゃん見てる〜〜〜!? うちのラップ、ごっつイケてるやろ〜〜〜!? 泣いて喜んでるんちゃうか〜〜〜!?』
「あ……あ……」
パニックになった僕は、耳を塞ごうとして手元を滑らせ、キーボードの上のエナジードリンク(2本目)を豪快に倒した。
「わあぁぁぁっ!??! 倒れた! キーボードが水浸しに——」
藤塚 太陽
6
27
五木友人
10,300
耀聖(ようせい)
1,145
バチバチッ!!
「ひいっ!?」
ショートしたキーボードが謎の怪光を放ち、PCの音声設定が勝手にリセットされた。
ボイチェン、強制解除。
『どうやミラちゃん! 感想聞かせてくれや〜〜〜!!』
音割れパリピクマの煽りが、スピーカーから響く。
キーボードから煙が上がり、エナジードリンクでドロドロになった手を見つめ、脳のネジが完全に吹き飛んだ僕は——
マイクを引き寄せ、低音のドスを効かせて、静かに呟いた。
**「……おい」**
『……え?』
[リスナーA]出たあああああああああ!!
[リスナーB]スイッチ入ったwwwwww
[リスナーC]低音殺意モード突入!!
**「お前……さっきから聞いてりゃ……『ごっつごつ』だの『儲かりまっか』だの……関西弁のイントネーションが全ッ然合ってねぇんだよクソグマが(地獄の底からの極上低音ハスキーボイス)」**
『ヒッ……!??!?』
画面の向こうで、熊田ベアーの声が一瞬で引きつった。
**「『儲かりまっか』の『か』は音を下げるんだよ……『すきやねん』も『き』にアクセント置くな……。あと全体的にイントネーションが埼玉なんだよ……出身どこだ言ってみろ……」**
『さ、埼玉……じゃなくて! うち、浪速の……っ!』
**「埼玉の秩父あたりだろお前!! 似非関西弁でイキって先輩煽ってんじゃねぇぞクソガキが……後で事務所の裏に呼び出すからな……(吐息混じりの超絶低音)」**
『ひいいぃぃぃぃっ!?!? ご、ごめんなさいぃぃぃぃ!!(素の男子高校生みたいな高音悲鳴)』
[リスナーA]ギャアアアアアアアアアアッッッ!!!
[リスナーB]埼玉県民バレてて草wwwwwwww
[リスナーC]【朗報】天使ミラちゃん、後輩の似非関西弁を完璧な低音で論破
[リスナーD]熊田ベアーちゃん、初配信でガチトーンで脅されて泣くwww
[スパチャ¥100,000](アーク):神の教誨……! 偽りの言葉を喋る愚者を正す天使様、神々しすぎます!!
配信終了後。
水浸しのキーボードの前で、僕は頭を抱えて泣いていた。
「うぅ……またやっちゃった……後輩を脅しちゃった……僕、先輩失格だ……」
スマホを開くと、通知の嵐。
『熊田ベアー:ミラ先輩すみませんでしたぁぁぁ! 実は埼玉出身です! 関西弁勉強し直します! 弟子にしてください!!(平伏するスタンプ)』
『三日月茜:後輩を「埼玉の秩父」と特定して低音で詰める天使がどこにいますか。反省文2000字です』
『坂田:未来さん! 「後輩を分からせる地声イケボ天使」として同時視聴の切り抜きが急上昇1位です! 次回は熊田ちゃんとの「関西弁矯正コラボ」で決定ですね!』
「なんでそうなるのぉおおおおお(泣)」
こうして、僕の「頼れる先輩天使」への道は、後輩をトラウマに叩き落とすという最悪の形で潰れ去ったのだった。
コメント
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うわっ第6話、最初っから最後まで笑わせてもらいました😂「儲かりまっか」の「か」が上がってる、とか埼玉の秩父って言い当てるところとか、関西人の私としてはツボすぎて……!つい感情移入して「またやっちゃった」ってなるミラちゃん、もう先輩面してる時点で可愛いのに、結局低音イケボで後輩を分からせちゃう流れ、最高でした。熊田ベアーちゃんの「弟子にしてください」でほっこり。次回の関西弁矯正コラボ、楽しみにしてます🤍