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第一話、読み終えました。夏の北海道、底辺配信者の日常から一転してトンネルで起こる異変――地に足のついた導入と不気味な空気感が上手く混ざっていて、引き込まれました。特に三人の性格のバランスが良くて、上崎の狂った中にある優しさと鈴木のギャップが効いてますね。「なぜ武田だけ狙われなかったのか」はぜひ回収してほしい伏線です。続きが気になります。
第一章 長身の影
七月の夏。北海道のとある田舎町のマンション。古びた外装に、狭く暑苦しい部屋の数々、外はセミの声がうるさくて、何をするにも集中できない。
大学生であり底辺配信者の武田正雄は、「タケダ」という名前で配信者をやっている。同接数は最大で十人程度、別にファンもいる訳では無い。そんな絶望状態の中、迫り来る夏休みの終わりが無慈悲にどんどん武田に近付いてくる。夏休みは特段何もしていない。スマホをいじって、ゲームをして、配信をして、偶に友達と会ったり、近くへ旅行へ行ったり、一言で言えばつまらない夏休みだったと後悔している。だが、後悔しても遅い。夏休み中に、一回でも良いから配信をバズらせなければならない。
夏のトレンドと言えばやはり心霊スポットだろうか、だが、近くに心霊スポットがある訳でもないし、武田は幽霊を信じない性格だった。武田は机の上に置いてあるスマホを手に取り、親友である二人に連絡を取ることにした。
一人目は上崎隆太。小学生かいう一言では表せない狂人ぶりで、何十年も一緒にいるのに、上崎の思考や行動を読み取れた事は一度もない。それほど異質な存在だった。
上崎にメッセージを送った。
「よお上崎、元気してるか?予定が空いてたらでいいんだが、明日心霊スポットに行かないか?」
直ぐに返信が返ってきた、余程上崎も暇だったのだろう。
「元気だせ!童貞なお前と違って、俺は愛しい愛しい彼女ちゃんと毎日同じベットで寝たぜ!心霊スポットは別にいいけど、他の奴らも誘うぜ!ほら、鈴木とか」
鈴木蓮、大学一モテると言われてるイケメンで、武田や上崎とは住む世界が違う。大抵イケメンには何か裏があるのが普通だが、鈴木は内面もイケメンである。
鈴木と知り合ったのは高校生。上崎と一緒に帰っていると、沢山の女子から言い寄られてる鈴木を発見した。上崎の狂人ぶりを発揮して鈴木から女子を追い払って、そこから仲が良くなった。武田、上崎、鈴木。この三人は全員、それぞれ性格がまるで違う。武田は平凡でビビりな性格。上崎は狂っていてどこかミステリアスな性格。鈴木は根っからの聖人で優しい性格。一見会合わなそうに見えるが、人間関係という物は不規則でよく分からない。
その後鈴木にも連絡を取り、無事約束をする事ができた。心霊スポットの場所は車で3時間の廃トンネル。在り来りな場所である。明日の十二時に武田のマンションに集合という事で、武田は配信をしながら心霊スポットを巡ろうと計画していた。どうせバズらないと分かっていつつも、ほんの一割だけ希望を感じてしまう。人間とはそういう物なのか。武田は若干興奮しつつも、やはり何処か怖い。幽霊を信じていないのは本当だが、トンネルのジメッとした空気、暗い雰囲気、まるで何かに飲み込まれそうな感覚。
時間はもう夜八時を過ぎている。明日に備えて早く寝なければならない。風呂を済ませ、歯を磨き、布団を用意して眠りについた。明日が楽しみと言えば嘘では無い。ただ、人間には少なくとも 「勘」 が存在する。悪悪い勘も良い勘も存在するのが厄介だ。武田はそんな勘が働いていた。何か良くない事が起こると、所詮勘に違いない。どうせ何もないまま終わるはずだ。ただ、夏休み中に夏らしい事を一つでもしたかっただけなのだから、そのまま武田は深い眠りについた。明日、どんな悲劇が起こるとも知らずに。
二
武田はカバンの中に懐中電灯、水、念の為御守りを入れて、ラフな格好でマンションから出た。七月特有の日差しが肌を黒くする。武田はそこまで肌が黒いという訳では無い。どちらかと言えばインドア派だ。既にマンションの駐車場に上崎と鈴木がいた。上崎はピチピチのアロハシャツに下は短パン。ムダ毛処理もしない。ビーチでも行くのか?という装備だった。丸い大きい顔でニチャニチャ笑いながらこっちを見て手を振っている。なぜあんな男に彼女ができるのだろう。
一方で、鈴木は違った。心霊スポットに向かうというのに気合いが入りすぎてる。金髪が風でサラリと揺れて、異様に整った顔立ちがこちらを見てさわやかに微笑んだ。これは女子が惚れる理由もわかる。
上崎が叫ぶ。
「早く来いよ!お前が車出せよ!」
武田は小走りで自分の車に乗った。助手席にす、後ろには上崎が横になって陣取っている。完全に寝る気満々である。
鈴木が問いかける。
「そのトンネルは何時間くらいで着くの?」
武田は答えた。
「ざっと二時間くらいだよ。途中コンビニとか寄る予定」
エンジンを入れ、車を走らせた。北海道特有の自然が見える。こんな晴天で気持ちがいいのに、今から向かうのはジメッとした廃トンネル。
途中途中でコンビニなどに寄って、ようやくトンネルがある山に到着した。後ろで横になって爆睡している上崎を武田が叩き起して、車を降りた。
マンションの前に居た時とは違い、空は雲で覆われ、何処か肌寒く、ジメッとしている。謎の虫の鳴き声が聞こえるし、小さな虫が飛び交ってる。草は伸び放題で、こんな場所数十年手入れされて居ないだろうと推測できる。
武田はスマホを取り出し、配信モードをオンにした。勿論同接が来るはずも無く、上崎と鈴木と一緒にトンネルへ向かう。ビビりな武田が先頭という、頼れない配陣であった。
「俺が先頭行くよ。お前じゃ途中で漏らしそうだ」
上崎がつかつか武田の横に並んだ。武田は素直に従い、上崎の後ろでちびちび着いていく、カメラは今の所北海道の綺麗な自然を移すだけのつまらない配信であった。同接数はゼロ。当然だ。
山を進むと、トンネルの入口らしき物が見えた。苔むした石でできたトンネル。草は一段と伸び、トンネルにはスプレーで描かれた落書きが沢山存在している。
上崎は落書きに目を止めた。
「見ろよこれ。『将来の夢は美人と付き合うする事。』だってよ、コイツとは仲良くなれそうだ。まあ、俺は既に経験済みなんだけどな。」
上崎の話を無視して、鈴木と武田はトンネルへ入っていく、コンクリートで閉鎖されている訳でもなく、普通に入る事ができた。上崎が走って着いてくる。
トンネルの中は薄暗く、ジメジメが増した。ぴちゃぴちゃと歩いた所で水の音がする。上崎が急いで先頭に行き、武田のカバンから懐中電灯を奪って電気をつけた。
トンネルは先が見えない。完全なる闇で包まれていた。武田は一瞬ビクッとして、それを上崎は見逃さなかった。ニチャニチャ気味の悪い笑い方をしながら、武田を指さした
「もうビビってんのか?言い出しっぺクン。これだから童貞なんだよ」
「うるせえ!」
ついカットなってしまった。自分が童貞である事は認めているが、やはり彼女が欲しい。
鈴木が二人を慰めるように優しい声で語りかけた。
「まあまあ。落ち着いて、今はとにかくトンネルの先へ進もう。僕だって彼女はいない。」
そう、なんと、あのハイスペックの鈴木には彼女がいない。あんなに大学で沢山の女子から告白されているのに、全て華麗に断ったらしい。武田にはその意味が分からない。なぜ断る。人の告白を。やはり住む世界が違うと実感した。
上崎を先頭にどんどん進んでいく、こんなに奥に進んだ人は自分らが初めてではないのだろうか。空気がひんやりしてきて、妙な恐怖を覚える。不自然と圧迫感が胸を襲い、妙に居心地悪い。鈴木も何処か顔色が悪い。武田が声をかけた
「鈴木、顔色悪いけど、大丈夫か?」
鈴木が震える声で。
「いや…なんか吐き気がする。」
上崎が振り向いて。
「なら先車に戻ってろよ。つーか、このトンネルなんも無いし戻ろうぜ」
武田と鈴木は上崎に言われるまま、行った道を引き返した。
その時、鈴木が唸り声をあげた。吐き気が限界を迎えたようだ。
上崎が妙に優しい声で。
「ここで吐いちまえよ。もう誰も来ねえし」
鈴木が首を横に振った。
「吐き気じゃない……なんか…こう、胸が締め付けられて…身動きが取れないんだ」
武田も同じ感覚だった。上崎はケロッとしているが、武田と鈴木の顔色が明らかにやばい。
上崎が慌てて
「おい、すっげえ顔色悪いぞ、立てるか?早く戻ろうぜ」
鈴木は上崎の身体を借りて立ち上がり、何とか歩き出すことができた。
武田はその後を着いて行く、やはりおかしい。この圧迫感。背後の視線。妙な緊張感と寒気、本当に幽霊はいるのかも、いや、これが幽霊の仕業だと決まった訳では無い。武田は心に訴えかけ、早足で着いていく。
突然、上崎が声をあげた。もうトンネルから出る少しした所だ。
「誰がいるぞ!すっげえ背が高い!」
武田と鈴木が上崎の視線の方を見た。確かに、全長3メートルはありそうな、黒い影があった。しかし、それは影だけだった。実体が何処にもない。
鈴木がまた震える声で
「あれ……幽霊じゃねえのか……」
武田は遮るように
「幽霊なんているわけないだろ。そんな非科学的なこと信じるな!」
大声がトンネルに響く、その声が影に届いたのか、影が霧のような白い煙に包まれ、姿を消して行った。三人は安堵して、トンネルを出ようとした、しかしその時だった。
上崎が声を上げた
「うわっ!」
上崎の下から、無数の長い影が出てきた。壁、地面、天井から、上崎を狙って、影が襲ってきた。上崎は鈴木を支えているため、咄嗟に素早く動く事ができなかった。武田はその光景を前にして、ただ震える事しかできない。今起きている事が現実なのか。自分の腕をつねった。痛い。これは現実だ。信じたくなかった、親友が目の前で影に襲われてる所を、ただ立ち尽くす事しかできない自分に嫌気がさした。そんなんでいいのか、上崎は確かに狂っている、ただ、その裏は常に仲間を気遣っていた。皮肉や罵倒を浴びせながらも、いつもそばで助けてくれたのは上崎だった。そんな親友を捨てる事はできない。
スマホを投げ捨てて、咄嗟に上崎の方へ走った。足が震えてるのに、本能か何かのせいで足が速かった。鈴木を掴んで引き寄せ、上崎を一人の状態にした。
武田が叫んだ
「上崎!逃げろ!」
上崎は転びながらも、何とか影から逃れる事ができた。先にトンネルから抜け出し、車に乗り込んで行った。
影は留まることを知らない。腕のような、触手のような影が、至るところから伸びていく、今度は鈴木を狙い始めた。武田は全力を尽くしてトンネルから出ようと走ったが、鈴木を支えているため足が動きにくい、遂に、長い影は鈴木の頭を掴んだ。その瞬間、鈴木の頭が急に影に包まれ、そのまま鈴木の身体全体を覆っていった。鈴木は元からそこにいなかったかのように、鈴木が消えてしまった。
武田は声も出ない。これは夢ではないと、さっき試したはずだろう。なのに、これを現実と思いたくない。信じたくない。いきなり人が消えるなんて有り得ないだろう。そのまま長い影は鈴木を消したまま、一緒に消えていった。トンネルには静寂が戻り、武田の車がトンネルに入ってきた。上崎が運転をしている。
上崎が叫ぶ
「早く乗れ……おい!鈴木は!?」
武田は突っ立ったまま、何も出来ない。手の震えが止まらない。親友を一人助けることができなかった罪悪感と情けなさ、そして、あの影に対する怒り、もう一つは、これをまだ夢だと考えてる愚かな自分。声を出そうと思っても、出ない。歯がカチカチ噛み合うだけ。
上崎が車から降りて、無言で武田を掴み、助手席に乗せた。
上崎が真剣な声出話しかける
「おい、喋れるか!おい!」
上崎に身体を揺さぶられ、ようやくハッとなった。助手席に乗せられている。何とか声を出す事ができた。
「おう……」
上崎が真剣な顔のまま、武田の肩を掴んだ
「鈴木はどこに行った。俺は車に走ってたから見えなかったけど、説明、できるか?」
説明。あれを、あの影、消えた鈴木、説明できる訳無い。あんなのどうやって言語化する?「壁から影が這い出てきて鈴木の頭目掛けて襲ってきた」。そんなの誰が信じる。でも、それしか言えない。武田は震える声で説明を始めた。
上崎は真剣な顔で聞いている。武田の説明が終わると、上崎は武田から車の鍵を奪い、エンジンをかけた。バックして来た道を帰っていく、車内は二人とも無言だった。武田は考えた。車に乗ってトンネルに入れば良かったんじゃないか。いや、無謀すぎる。上崎と鈴木が狙われたんだぞ、二人で車で突っ込んでもまた震えて身動きが取れず、二人とも死んでいくだけだ。ただ不思議だったのは、なぜ武田を狙わなかったのか、あの長身の陰はなんなのか、色々な不思議が込み上げてくる。幽霊や心霊なんてそんなものだ。言葉や科学、物理では解説することができない。人間がまだ知らない未知の領域かもしれない。あるいは……。武田は運転している上崎の顔を見た。あのおチャラけ者が黙っている。無理もない。親友がいきなり消えたのだから。そんな上崎の目から、涙がポロポロ溢れている。初めて見た。小学生から一緒にいたのに、一度も涙を見たことがなかった。見た事があるのは、欠伸をした時に出る涙だけ、悲しみや感動、怒りで上崎の涙を見たのがこれが初めてだった。武田はカバンを開けた。スマホをトンネルに投げ捨てたのも覚えていない。カバンに入っていた御守りを強く握りしめた。すると、なぜか居心地が良くなった気がした。
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azibanzi
#ギャグ
ガイコツ番付
71
桜城
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