コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「降りそうやなぁ」
パソコンの周辺機器を見ようとひとり出掛けていたttは曇天の空を見上げた。
暦上は春、と言われてもそれを全く無視した冷たい風が吹いている。
天気予報は見ていなかった。
遠くで鳴り出した雷に胸騒ぎがする。
(はよ帰ろ)
ここから家までは歩ける距離だ。
早足で歩き出したのも束の間、いきなり大粒の雨が体を叩く。
傘を持たなかったttは、近くの店先で雨宿りをした。
昼過ぎにも関わらず、住宅街には人通りがなかった。
後ろを見ると、『close』と書かれたイタリア料理店の看板が風にカタカタと揺れている。
どこか心細さを感じつつ、もう一度空の様子を伺った。
少しずつ雷は近づいてくる。
胸騒ぎも大きくなっていた。
雨に濡れた手先は冷たくなり、力も入れにくい。
その時、パシャパシャと跳ねる音がして、ttは視線を向けた。
嫌な予感は的中する。
呼吸が浅く、早くなる。
散歩帰りであろう、ずぶ濡れの若い男性と小型犬が目の前をかけていった。
男性と犬をつないでいる、黒い首輪。
取り憑かれたように目を離せないttの頭上で、大きな音を立てて雷が鳴った。
刹那、ttの視界は暗転した。
「tt、どこいるんだろ…」
2LDKの白い賃貸マンションの一室。
土砂降りの中、家に帰って来たjpはttがいないことに気づく。
今日は久しぶりに事務所に顔を出した。
グループについての謝罪と後始末をするためだった。
手に持ったスマホをもう一度見る。
何度も電話したものの、呼び出し音がなるだけ。
LINEのメッセージも既読がつかなかった。
雷鳴が聞こえる。
ttはひとり街に出ると言っていた。
胸騒ぎを覚え、家を飛び出した。
あの事件後、二人は真に想い合う事ができた。
ttも幸せだと笑っていたし、自他共に認める程仲睦まじかった。
しかし、二人しか知らない事がある。
ttはトラウマを抱えていたのだ。
jpはもちろん、ttでさえもはじめは気づいていなかった心の傷。
ttは雷を怖がるようになっていた。
それと首輪や縄、ベルトなど、何かを縛り付けるもの。
それぞれ単体であれば、どこか落ち着かない、くらいでコントロールできる。
しかしそれらが偶然重なった時にttはパニックを起こす。
先ほどのように、揃ってしまうとダメなのだ。
心が通じ合ってしばらくの頃。
晩秋には珍しい大雨が雷も連れてきた。
頭痛がする、とソファにもたれていたttを気にかけながらも、 引越しの後片付けでダンボールをまとめていたjpはttの元へ向かった。
「ttー、調子悪いときにごめんけどさ」
「ん?」
顔を上げたttに、ピンと張ったビニールテープを向ける。
「これくらいで切ってくんない?」
その瞬間、窓の外で雷が激しく鳴り響く。
「、、、ッ!」
ttは大きく目を見開いたままこちらを見ている。
呼吸は浅く早い。
「tt!?」
肩に手を置いたjpに、ttはビクりと身体をこわばらせ、呟き始めた。
「、、、!」
「ごめん、なさい、、! 俺逃げへんから、、、! ur、yaくん、、!」
ガタガタと震えるttを見て、jpは血の気が引いた。
jpがurとyaに暴行したあの日は雷が鳴っていた。
首輪で支配されていたttは、涙ながらに懇願し、縋りつき、jpに堕ちていった。
jpはこの大きすぎる罪を忘れているわけではない。
心に刻み込んだ上で、大切に大切にttと向き合ってきた、はずだけど。
思わず体を離したjpの前で、ttは意識を飛ばした。
愛おしい人が自分の過ちのせいで苦しんでいるのに、何もできなかった。
埋めることのできない隙間。
不純な手でttを壊したのは、紛れもない自分。
…
暗い家の中
玄関も窓も開ける事ができない
縮こまるttに、細長い手が伸びてきた
jp!やめろや!
なんで
頼む、やめて、外して
ur?yaくん?
二人を傷つけないで、お願いjp
ごめんなさい
ごめんなさい
俺はお前のそばにいるから、、、
だから二人を助けて、、、
…
…さん!
…tさん、ttさん!
「ttさん!!」
汗だくで目を覚ます。
見知らぬ白い天井。明るいライトが眩しい。
(…ここ、は…?)
「ttさん、大丈夫ですか、、?」
その声の主はぼんやりとするttを覗き込むように視界に入ってきた。
青い瞳に青い髪、懐かしい声。
「…no、さん…?」