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sm side
そろそろ蝉の声もうるさい時期になってきた頃、
俺はたった一人のクラスメイトと過ごしてきた。
ある程度のわだかまりは溶けただろうか、今では一緒に帰ったり、遊んだりすることが当たり前のようになっている。
「スマイルー!」
彼はいつも笑顔で駆け寄ってきてくれる。
こんな日々も悪くはない。
そう思っていたある日、
彼は教室に入ってくるなり、いつもと様子が違っていた。
髪はボサボサ、制服にはシワが寄っていて、目の下にはうっすらと隈ができている。
「お、おはよ、スマイル…」
無理に上げたその口角は、明らかに作り物だった。
「……おはよ、」
でも、俺は気づかないふりをして、しばらく彼を観察することにした。
授業中もなかむはボーっとしたまま黒板を見つめていた。
ノートの文字もいつもより雑で、途中で止まっているところもある。
ふと、彼の腕に視線がいった。
制服の袖から少しはみ出たその傷は深く、何かで切りつけられたようだった。
不安と疑問が交差する中、俺は放課後、彼を呼び出した。
夕焼けに照らされた屋上。
俺は少し緊張していた。
普段だったら、こんなことはしない。
でも、今日はなかむと向き合わなければいけない、そんな気がした。
彼は一人、屋上の階段下で待っていた。
誰もいないはずの空間で、背中を丸めて壁にもたれかかっていた彼は、どこか小さく見えた。
「……やっと来た、遅いよ、スマイル、」
彼は無理に笑った。
「…ごめん、」
「…で…?話ってなに?」
俺は一つ深呼吸をする。
「なかむ、お前今日、様子が変だった。」
「っ…」
彼は顔を歪めた。
「そんなことないよ…、いつも通り…!」
彼の偽の笑顔は見ているだけで心が痛くなる。
俺は彼を強く抱きしめた。
「ッ…!」
「そんな顔するな。」
「……なんで?だって、笑顔はいいものでしょ…?」
彼はきっと、気づいていない。
自分がどんな顔をしているのか。
哀しみに満ちたような、絶望に暮れた顔。
「…今のは笑顔なんかじゃない。」
「…っ、」
そう言うと、彼は俺に体を預け、呼吸を乱す。
「あれ…おかしいなぁ…なんで僕、泣いてるんだろッ…」
「…何か辛いことがあるんだろ、?」
「お前は頑張り過ぎてる。」
「…隠さなくていい。辛かったら辛いって言えばいい」
「それで少しでも楽になるなら、何でも聞くから。」
「っ…スマイルッ…」
俺は何十分も、何時間も彼を抱きしめ、慰めた。
彼が安心するまで。
俺が、彼の居場所になれるまで。
そして、しばらくして俺は彼のすべてを知ることになった。
「…落ち着いたか?」
「うん、ありがとう…」
彼はもう無理に笑わなくなっていた。
「…ねぇ、スマイル…」
「なんだ?」
「…スマイルは、俺を認めてくれる…?」
「もちろん、」
「頑張ってるねって言ってくれる…?」
「あぁ、何回でも言うよ。」
「お前はよく頑張ってる。それは前と変わらない。」
彼は一呼吸置いてから話し始める。
「…俺ね、いつも頑張らなきゃって思っちゃうの、」
「親の期待に応えなきゃって、」
「でもね、そうやって頑張っていくうちに、」
「それが苦しくなってきちゃってね、」
彼の声は震えていて、絞り切るように言った。
「お母さんもお父さんも優しくて、喧嘩も滅多にしなかった。」
「でも、なぜかそれがプレッシャーに変わった。」
「今日のテストも100点取れるよ、とか、」
「テスト100点取れた?って聞かれて、」
「俺はもっと頑張らなきゃいけないんだと思った。」
彼はゆっくり顔をあげた。
「でも、俺には無理だったみたい。」
すると、彼は制服の袖を捲る。
「っ…!?」
そこには朝に見た、いや、それよりももっと酷い傷跡が残っていた。
その傷は大きく、そのうえとても深い傷だった。
その傷が彼の心情を悟っていた。
「最初は快感だった、」
「親の期待に応えられない俺には、」
「これぐらいがちょうどいいって、」
「でも、次第にそれが習慣になっていった。」
「こんな傷、どうってこと無かったのに。」
そう語ると、彼はゆっくり崩れ落ちた。
俺は、そんな彼を抱きしめた。
何処かに行かないように、離れて行ってしまわないように。
「俺ッ…バカだなぁ…自分の限界もわかってないやッ…」
「…もうそんなことするな。」
「お前が自分を傷つける義理はない。」
「何回でも言うよ、お前はよく頑張ってる。」
「その努力は偽物じゃない。」
「もし誰も気づかなかったとしても、」
「俺は全部見てるから。全部認めるから。」
「ほんと…?」
「本当。」
「こんな俺でも、友達で居てくれる…?」
「……あぁ、ずっと友達だよ。」
彼はまた、俺の胸の中で泣いた。