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苦しそうな顔を浮かべながらも、徳川は笑みを溢す。
「指揮官とやら……風の使徒も一緒だと聞いていたが、風の使徒にも裏切られたか……? 僕が今ここで殺されてもここにいる者たちは強い…………! 貴様一人、ここにいる者たちで倒してみせるぞ…………!!」
しかし、そんな言葉も嘲笑して答えた。
「何を言っている。 “風の使徒” なら…………そこにいるではないか…………」
そう、魔族軍指揮官 リムル=リスティアーナの指差した人物を、全員で振り返る。
「嘘…………だろ…………?」
「ごめんね…………ヒノトくん…………」
リムルと同じように、目は紅く輝き、髪は黒く変色していく。
「そんな…………!」
リリムも、口を抑えて涙ぐんだ。
「咲良…………!!」
咲良の目は、ギラギラと紅く変色しながら、その目からは涙を溢れさせていた。
「お前…………ずっと騙してたのか…………? 一緒に鍛錬してきた時間も……全部嘘だったのかよ!!」
しかし、そんな問答も虚しく、ユス・アクスと凪クロリエは、同時に風の使徒 風間咲良を囲う。
“水浄・斬舞”
“夕凪・薔薇”
ガッ!!
「やめてくれ!! 咲良は……仲間だろ!!」
必死に声を上げるヒノトだが、その声も虚しく、二人の剣撃は咲良へと襲い掛かる。
「ヒノト!! 状況を見極めろ!! 奴は魔族軍の一味だった!! それも風の使徒だ!! 私たちは騙されていたんだ!! 敵を見誤るな!!」
ルギアも、必死に声を上げた。
砂煙が立ち込める中、青白い光が咲良を覆う。
セノ=リュークと同じく、 “使徒” の名を冠する者。
それは即ち、強大なシールドに守られていると言うことを指す。
そして、風の使徒は風のシールドを張られている為、凪の攻撃の一切を受け付けなかった。
ユスの攻撃も、元々はキースの補佐とした役回りの魔法が多かった為、倭国の技を会得し、威力を上げられることが出来ても、風の使徒のシールドに影響するほどのダメージは出せていなかった。
「退いていろ」
困惑するヒノトのパーティ面々、不思議な花の相手で手一杯になっているキラやキース、他のキルロンド生たち、倭国兵たちの乱戦の中、一人の男が咲良の前に立った。
「明地拓真…………」
唯一の倭国からの代表の生徒にして、キラやキースにも及ぶ岩属性の斧使いであった。
「キルロンドでの使徒との攻防は聞いている。その為に、我々は強くなったのだ…………!!」
「その通りだ、明地くん…………」
そうして、隣に立つのは、教官として倭国兵の育成係も務める、雷属性の槍使い、伏見雷人だった。
「それに、これは “潜伏” ではない。倭国からの “裏切り” だ。倭国の人間が対処しなければな…………」
咲良の前に対応できる数人が集ったところで、ルギアはそのまま背後を向き、リムルへと襲い掛かる。
「ルギアさん…………!? 徳川さんが人質に取られているんですよ!?」
しかし、問答無用でルギアは拳に炎を込める。
「戦況を見極めろ!!」
“炎攻撃魔法・ブラストバーン”
ゴォ!!
そして、徳川を掴んだリムルへと業炎を放つ。
“闇魔法・代償”
ニタリと笑ったまま、リムルは徳川を爆炎に翳すと、闇魔法の力で全ての炎を徳川へと吸収させた。
煙が立ち込める中、徳川の焼死体が醸し出される。
「アハハハハ! なんと愚かな! 無策にも程がある! この統領を殺したのはそこの女だ!!」
高笑いを浮かべるリムルだが、ルギアは止まらない。
「この私と力比べか! 良いだろう!!」
“炎攻撃魔法・ブラストバーン”
ゴォッ!!
再び、ルギアが拳に炎を纏わせ、リムルに向かい合い、リムルもそれに相打とうとした瞬間。
“消炭・紅蓮”
ゴッ!!
リムルの背後からも、爆炎が吹き荒れる。
「何故…………貴様が…………!!」
そこには、先ほど消し炭にされたはずの徳川勝利が、巨大な爆炎を纏ったロングソードを振り翳していた。
「倭国の民は技巧派なんだ」
その背後には、息を切らした山本大智の姿があった。
ルギアと徳川によるリムルを挟んだ爆炎が舞い上がる。
「すっげぇ…………なんつー戦いだ…………」
ヒノトたちは、呆然と見ていることしか出来なかった。
そんな中、ヒノトの背後に押し寄せる、風。
「ヒノトくん、君の役目は “見物” じゃないでしょ」
ボン!!
背後の気配に、咄嗟に魔力暴発で空中回転し、臨戦態勢を取るヒノト。
「咲良…………! 明地も……伏見さんも気絶させられてる……」
剣を構えるが、その手は震えていた。
「どうしてお前が…………」
その言葉に、咲良はヒノトの目をそっと見つめる。
「僕………… “だけじゃない” よ」
「は…………?」
その瞬間、咲良と出会った方角の遠くの景色は、大きな爆発によって爆音を響かせた。
「この国はもう既に、この都市以外、全て侵略されているんだ。全員、魔族の一味だよ」
その言葉に、全員が目を見開く。
「それじゃあ…………この魔族強襲は…………。いや、その前から既に……終わっていた…………?」
「そう。この戦いは、最後の兵士と、統領、徳川勝利の首を取る為の最後の戦い。僕たち倭国民は、もう既に魔族に敗けているんだよ」
淡々と話す咲良の目からは、未だ涙が溢れる。
「じゃあ…………なんで泣いてるんだよ…………」
「ヒノト…………!」
ヒノトの髪は、灰色に変色していた。
「友達を…………殺さなくちゃいけないからだ……」
そして、一瞬の間にヒノトとの間合いを詰め、眼前で長槍を向ける。
「魔力暴発じゃ僕の攻撃は交わせない…………」
「クソッ…………!!」
“風魔・肆”
この攻撃は、坂本の元で一緒に習った長槍の技。
ヒノトは、一筋の涙を落としながら、剣を振り上げる。
“狐架・屏風”
ゴォ!!
ブン!! ブン!!
「違う!! ただ振ればいいってモンじゃない! 腰をしっかり意識して、叩き落とすんだ!」
「こんな長い槍……そう強く振れないです…………」
「ヒノト、お前は剣先を意識し過ぎなんだ。長槍は先端にしか刃がないが、何も傷を負わすことだけが戦いじゃあない。もっと上部を握って、力強く…………」
咲良と一緒に習った技を、互いに仕向け合う。
バァン!!
二人の技がぶつかり合った瞬間、二人同時に吹き飛んだ。
「どう言うこと…………? どうしてヒノトの剣に……風の魔力が集まってるの…………?」
今の一瞬、ヒノトの繰り出した技には、風の魔力が付与され、咲良の風魔力と互いに反発し合っていた。
ヒノトも、驚いた顔でジッと剣を見つめていた。
「そうか…………」
そして、再び泣き続ける咲良を見遣る。
「これは、咲良の風魔力だ…………。お前、本当は俺に止めて欲しいんだろ…………?」
その言葉に、咲良は少しだけ、ニコリと笑みを溢した。