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4月の下旬。
桜の木もすっかり新緑に変わり、頬を撫でる風が気持ちの良い本日。
逆神家が収監されます。
まず、六駆たちは家を出て探索員協会の本部へと向かう。
そこで南雲たちと最後の打ち合わせをするのである。
「六駆。とりあえず【黄箱】をこれだけ用意したからの。半分はお前が持っといてくれるかいな」
「了解。煌気がまったく出てないのはすごいね。さすがだなぁ、じいちゃん」
準備万端。
さあ、早いところ庭に門を生やしてくれ。
「……親父は?」
「ちょ、待てよ! オレ、どのジャージ着たら良いと思う!? だってほら、探索員協会本部ってよ、若い子もいっぱいいるだろ!? やべぇ! セカンドラブストーリー始まるかもしれねぇ!! なぁ、六駆! どっちのジャージが良いと思う!?」
「そう言えば、お袋に電話するんだった。じいちゃん、親父を殺すつもりでぶん殴っといてくれる?」
「息子がバカで孫が血も涙もないとか、ワシはどうしたらええんじゃ……」
六駆は母と定期的に連絡を取っていた。
主に、ダメな親父についての報告と、異世界転生周回者を終えてからの近況で話題の8割が占められている。
なお、まだ別居を解消するつもりはないらしい。
それでも離婚しないのは何故なのか。
六駆には分からないので、「理由聞いても意味ないや!!」と判断し何も聞かない。
電話を終えると、大吾がまだジャージを持ってしょうもない事を言っていた。
「ふぅぅぅんっ!! 『古龍拳』!!」
「おんべっしゃあぃっ」
早く出発してくれないか。
◆◇◆◇◆◇◆◇
本部建物の前に生えて来た門。
最近は六駆の『門』も市民権を得ており、協会の上層部に隠す必要もなくなったため、割と適当にその辺から生えて来る。
「やあ。おはよう、逆神くん。よく眠れたかな?」
「おはようございます! 南雲さん!! もうバッチリですよ!!」
南雲は「結構なことだね」と応じて、次に四郎の方を向いて頭を下げた。
「四郎さん、今回の作戦にご協力感謝します。ご無理のない範囲で結構ですので、よろしくお願いいたします」
「ワシのような老骨がお役に立てるか分かりませんがの。引き受けたからには精一杯やらせてもらいますじゃ」
南雲は「本当に助かります」ともう一度丁寧にお辞儀した。
「ところで逆神くん」
「はい。なんですか?」
「どうして大吾さんは作戦始まる前からボロボロなのかな?」
「ちょっとうるさかったんで、強めに殴ってしまいました!!」
「なるほど。それは仕方がないね。30分くらいで回復するかな?」
「15分で回復させます」
南雲修一。逆神大吾の扱いに少し慣れて来る。
それからピクピクとたまに動く汚いブルドッグを眺めつつ、南雲の淹れたコーヒーを楽しむ祖父と孫。
「ほぉ。こりゃあ美味しいですのぉ。南雲さんのコーヒーの味はよく六駆から聞きますが、これでお店が開けそうじゃわい」
「はははっ。これは恐縮です。実は今日のコーヒーは私にとっても久しぶりの会心作でして。いやぁ、出撃前にお出しできてよかった!」
南雲コーヒーの占いは凶と出ている。
なお、誰にとっての凶兆なのかは現時点では不明であった。
「おい。南雲。やはり私も逆神に一言……。いや、やっぱり良い」
「おおっ! 京華ちゃんじゃねぇか! 久しぶりだなぁ! また綺麗になったんじゃねぇの? いやー! オレが剣術の指南してやってた時は、ピチピチしてて可愛かったけどなぁ! こんな美人になるんなら、オレ交際を申し込んどけば良かったよ、マジで!!」
五楼京華、汚いブルドッグの再起動とバッドエンカウントする。
南雲のコーヒー占いはその場にいない者の凶兆すらも当てるらしかった。
「……ナグモ。ああ、間違えた。南雲。作戦の説明は任せた。私は後ろで控えている。お前の背中を見つめさせてくれ。若さゆえの過ちの根源を視界に入れたくない」
「わ、分かりました。……あの、私は気にしませんよ?」
五楼は「私が気にするんだ……」と言って、目を伏せた。
六駆はその様子を見て「大変だなぁ」と小学生のような感想を抱く。
「……さて。大吾さんも復活された事ですし、もう一度作戦の概要についておさらいをさせて頂きますが、よろしいでしょうか?」
「はい!」
「へへっ!」
「よろしくお願いしますじゃ」
「うん。じゃあ、四郎さんの方を向いて説明しようかな」
「えっ!? ワシですかいのぉ!?」
南雲の危機管理シミュレーション能力は、逆神四郎を選んだらしい。
指揮官は説明を始めた。
「3人には、スキル犯罪者としてカルケルに収監されてもらいます。罪状は、逆神くんがスキルを用いた傷害。ケンカですね。四郎さんはスキルを用いた刀の作成。銃刀法違反です」
「はい! 大丈夫です!」
「ワシも資料には目を通して来たので、問題ありませんのぉ」
大吾が目を輝かせて「オレは!?」と南雲に尋ねる。
南雲は六駆に「本当に良いんだね?」と確認して、大きく頷く様子を見てから言った。
「殺人です」
「なんでぇ!? オレだけ犯罪重すぎじゃね!? ひでぇよ、南雲さん!!」
これは六駆の提案だった。
カルケルでは、犯した罪の重さで収監される階層が変わる。
つまり、スタート地点はなるべくばらけた状態の方が、監獄ダンジョンの全容を把握するのに都合がいいと言う判断によるものである。
四郎に重犯罪者の汚名を着せるのは六駆の心が憚り、かと言って、自分がそれを着るのも嫌だった。
ふと視線を移せば、普段から汚いブルドッグ着ている親父がいた。
六駆は考える。
「どうせろくなもの着てないんだから、今さら汚名の1つや2つ!!」と。
ちなみに、これは既に作戦の決定事項としてカルケル防衛任務に携わる全ての者が共有している情報なので、今さらキャンセルはできないのである。
「まあまあ、親父。2000円あげるから。これで我慢してよ」
「えっ!? マジで!? じゃあ我慢するわ!!」
「逆神くん。君も大概にはお金に弱かったけど、お父さんはもう弱いとかそういうレベルじゃないね? 2000円って。小学生のお小遣いかな?」
「何言ってるんですか、南雲さん! 親父に与える金額としては大きすぎるくらいですよ!!」
南雲は不毛な会話をヤメて、作戦の説明を続けた。
「3人は監獄内の犯罪者にアトミルカからの刺客がいないか探ってもらいます。恐らく、いるとすれば収監されてから比較的日が短いはずですので、その辺りを参考にしてください。それぞれの近くにステルスサーベイランスを飛ばしておきますので、連絡はそちらを」
「ちょいとええですか? もしアトミルカの刺客と戦う事になったらどうすりゃあええもんじゃろか?」
「四郎さん……。逆神くんのおじい様とは思えない建設的な意見ですね」
少し感動しながら南雲は「現場の判断を優先しますが、無理はしないでください」と答えた。
続けて六駆が言う。
「敵さん見つけたら僕に言ってよ! すぐ駆け付けるから!」
「よし、分かったぞい」
その後の詳しい説明は、その都度サーベイランスを通して行われる旨が伝えられたのち、南雲は六駆に【稀有転移黒石】を手渡した。
「これでカルケルに転移できるからね。あっちでは川端さんが待っているから。最後に、この作戦の期間は不定期ですので、無理だと感じたら遠慮せずにおっしゃってください。すぐに対応します」
「親父、じいちゃん。リタイヤだけは僕が絶対に許さないからね!!」
「逆神くん。君は身内が相手でも悪魔のスタイルは崩さないんだね」
それから六駆は【稀有転移黒石】を使い、ちょっと近所のコンビニに行くような感覚で「んじゃ、行って来ます!」と言って消え去った。
五楼と顔を見合わせた南雲は、静かにコーヒーを飲む。
その味についてこの場で言及するのは無粋だろうか。
コメント
1件
いやあ、またやってくれましたね、五木さん! 第364話、めちゃくちゃ面白かったです! 「どうせろくなもの着てないんだから、今さら汚名の1つや2つ!!」という六駆の理屈、完全に納得してしまいました。確かに大吾さんならいくら汚名を着せても大丈夫そう。そして南雲さんのコーヒー占いが五楼さんに当たる流れ、最高でした。あのコーヒーの味、最後まで明かされないのがまた良い。 収監されに行く話なのに、この軽やかさ。シリアスとギャグのバランスが絶妙で、次の話が待ち遠しいです!