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風夜は考え込んでいた。Mr.すまないの魔導書の再生したページをどうするか。ページが再生すればすまない先生の記憶は戻るかもしれない。しかし、その分悲しかった、辛かった記憶も思い出す事になる。その時、すまない先生がそれを受け入れられるのか。またあの時の様に精神崩壊寸前の状態になるのでは無いか。その考えが頭の中から離れない。次あの様になったら精神崩壊を止める術は無い。今度こそ完全に壊れてしまうだろう。
「……僕は……どうすべきなんだ……」
Mr.すまないの魔導書をギュッと抱き締めて蹲る。人の心を失いかけていたあの頃の風夜でさえ酷く心を痛めたあの時のMr.すまない。
『もう、“疲れた”……!……疲れたよぉ……ッ!』
あの叫びが心を抉る。
「……辛かったなんてもんじゃない……」
何せすまない先生は人間なのだ。呪いによって不老不死になってしまっただけのただの人間だったのだ。
「……言い表せないほどの苦しみを、悲しみを味わったんだ……」
その時に戻りたいなんて誰が願うだろう。
「……どうする……すまない君なら……」
答えはほぼほぼ決まってる。それでも、それでも風夜は僅かに願ってしまったのだ。あの頃のあの日々が自分だけしか知らないものでない事を。
「……ダメだって知ってる……僕と違って人間は受け入れられない……」
決断する時だ。涙を拭う。
「……すまない君に全てを委ねるよ……」
風夜は立ち上がってテーブルの上の本を手に取ると、Mr.すまないの魔導書とその本を持ったまま大図書館を出る。この決断はすまない先生自身に任せるモノだ。風夜が干渉出来る範囲では無い。
「……どうすれば……」
この決断はすまない先生に任せると決めたのにその思考をやめられないのは何故だろう。ふわふわと空を飛びながらすまないスクールを目指す。初めてドアからすまないスクールに入る。
「うわっ!?風夜、珍しい……ってか初めてじゃないか!?」
銀さんにめちゃくちゃびっくりされたが今はそれにどうこう言ってる場合じゃなかった。
「銀さん、すまない君は?」
「教室」
「ありがと」
風夜は教室へと足を進める。
(……もう後戻りは出来ない……)
階段を登る。
(……すまない君がどんな決断を下そうと……)
角を曲がる。
(……僕はそれを後押しするだけ……)
教室の前に立つ。大きく息を吸ってゆっくりと吐く。
ガラッ……
バサッ
パラパラパラ……
「っ!?……嘘……」
風夜の持っていたMr.すまないの魔導書が空に浮き上がり、一気に失われた筈のページが再生していく。
「……まだ……決めてないのに……」
抜けていた部分がどんどん埋まっていく。教室に居たすまない先生も目を見開いている。自分が消したくて破り捨てたページが再生していくのだから当然だ。
ついに僅かな隙間を残してほとんどのページが再生した。
ぽろっ……
すまない先生の目から涙がこぼれる。風夜はすまない先生に縋り付き
「ごめん……ごめんなさい……」
と謝る事しか出来なかった。
「……謝らなくて良いよ、風夜君……」
すまない先生は微笑み
「……全部、思い出せたんだから」
と言ってその場に倒れた。
「……どう……したら、いいの……?」