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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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――私の自由はなくなった。


「一生幽閉……」


皇女としての幸せも望めず、皇宮から一歩も外へ出られない。

皇宮の片隅だけが、私の居住場所と決められてしまった。


「普通の人間なら、気が狂うだろうな」

「食事も下働き以下のものだそうだ」


出入り口を固める監視の兵士たちが、そんなことを言っていたけど、私は違った。


「ここの土地、すべてが私のものになったんですね」


畑とハーブ園、それから井戸。利用できる草木も多いし、土には太いミミズがいたのを確認済み。


「ミミズがよく育つということは、豊かな土だという証拠だと、本に書いてありました! 大事なのは土! 土づくりからなんですよ!」


すでにイモ、ハーブは増産済み。

そして、外でお茶を楽しめるよう設置した石材のテーブルと椅子。

帆布で作ったタープが風に揺れている。

これらすべてが、私の物になるとは思ってもみなかった。

感動のあまり両手を胸の前に組み、目をキラキラ輝かせてしまった。

今までの狭い部屋と大違い!


「私、これで財産持ちになりました……! 広い庭付きの部屋なんて贅沢ですね!」


兵士たちがひそひそと話している声が聞こえた。


「財産!? いや、ただのゴミじゃ?」

「落ち着け。あれは、ただの強がりかもしれない」

「あ、ああ。そうだよな。そうに決まってる」


与えられたドレスは、以前よりずっと粗末なものだけど、逆に動きやすくて助かるし、部屋は自分好みに改造できる。

作りかけだった庭には、置いたままの資材が山ほどあるし、木の実がなる木もあった。

地面には木の枝が大量に落ちているだけでなく、|剪定《せんてい》された後の木の枝が、片付けられることなく、庭の隅に積まれている。


「火を使う時の燃料はばっちり確保できましたね」


片付けられていない去年の落ち葉が、腐葉土を作っている。


「ああ、天の恵みよ……! これが噂の腐葉土というものですか!」


なにもかもが、私にとって目新しいものばかり。

皇宮の図書室には、帝国が持つ知識が記された書物が大量にあり、農業はもちろん医療、政治、法律、歴史などの書物が幅広く収蔵されていた。

禁書がある書庫には入れなかったものの、図書室の本はすべて読み尽くし、頭の中に入っている。


「食事も出るようになって、すごく助かります。牢屋に入れられなくて、本当によかった……」


幽閉生活が始まり、数日は食料確保のため、畑を中心に活動した。

そんな生活を送ること数日。

私に専属の侍女が一人、与えられた。

私の世話をするのは、老いた侍女だけと、お父様は決めたようだ。

でも、彼女は優秀だった。

黙々と仕事をするベテラン侍女は、手際よく部屋を整え、食事を運び、衣服を用意し、余計なことは一切口にしない。

そして、私が畑仕事をして、泥だらけになっても文句も言わず、お湯や石鹸を用意してくれる。


「大変な仕事を引き受けていただいて、ありがとうございます」


私がお礼を言うと、侍女は小さくお辞儀し、去っていく。

ベテランだけあって、何事も控えめだ。

監視の兵士たちはというと、私を空気のように扱い、不自然に避けている。

侍女も兵士も、私と口を利かないよう皇帝陛下から命じられていた。


――でも、無視しきれてないですけどね?


「おっ! とうとうパン焼き窯が完成したぞ!」

「パンを焼きながら、その上で、スープを保温するという優れもの! 焼く前には調理もできるのか!」

「一台で複数の性能! くっ……! 俺の実家の母親にも作ってやりたい!」


庭が改造されていく様子を飽きずに眺め、毎日、感心している。

私の庭に、なにか新しいものが出来上がるたび、興味津々だった。

まだ小麦は手に入らないので、たまに出るパンをスライスし、とれた甘い果実を細かく刻んで上にのせ、さらに焼く。

とろっとした果実が甘くなり、ジャムの代わりになる。


「美味しそうだな……」

「お、おい。果物を干してるぞ!?」

「芋もな」


天日干しされた芋や果物は、私のおやつ用。

風に揺れるおやつ(予定)を眺め、うっとりした。


「早く乾燥してね。私のおやつちゃんたち」


庭へやってくる小鳥たちには、パン屑を分け与える。

可愛い小鳥をそっと手のひらにのせた。

素手では、小鳥が危険なので、もちろん手袋をして触れている。

食事が終わったら、小鳥たちは飛び去っていく。

小鳥たちを見送り、空を眺めていると、滅多に見かけない大きな鳥が飛んでいた。


「あれは鷹?」


翼を水平にし、皇宮の上空を真っ直ぐ飛ぶ。

いつもと違う鳥を目にしたからか、今日が特別な日に思えた。


――確かに特別な日になった。


いつもはゆるゆるな空気でいる兵士たちが、甲冑の音をやかましく鳴らし、私がいる奥の部屋の通路を塞ぐ扉を開けた。


「ラドヴァンお兄様……」


久しぶりに現れたお兄様は、以前と変わらず、黒髪とマントをなびかせ、堂々とした姿を見せた。

なぜ、そんな堂々としていられるのか、不思議だった。

私がロザリエに嫉妬して、剣で切りつけたなんて嘘をついたのだ。

お兄様には罪悪感があるでしょう――と信じたい。


「シルヴィエ。久しぶりだな。これは土産だ。生活に困っているだろう?」


そう言ったお兄様の手には、甘いお菓子と可愛らしいリボン、ドレスがあった。


――これは、お兄様が私に与える施しなのでしょうか?


私はそれを冷めた目で眺め、すっと手で押し戻す。


「けっこうです。こちらは、すべてお持ち帰りください」

「俺がロザリエを庇ったから、怒っているのか?」

「いいえ。お兄様はロザリエを庇ったわけではありませんわ。次期皇帝の地位を守っただけです」


お兄様の表情が険しくなった。

私を裏切っても、お兄様は痛くも痒くもない。

でも、ロザリエやお父様の機嫌を損ねれば、難しい立場になる。


「仕方ないだろう。父上はロザリエを可愛がっている。俺が皇帝になるためには、二人の機嫌を損ねるわけにはいかない」

「では、お聞きします。お兄様は妹を貶め、卑怯な真似をした自分が、レグヴラーナ帝国の皇帝に相応しいと、胸を張って堂々と言えるのですか?」


お兄様は言葉に詰まり、なにも言えなくなった。

このお土産は、いわば、私への口止めとご機嫌取り。

お兄様は私が赦せば、自分の嘘はなかったことになると思っている。


「どうぞ、お引き取りください」


今の私に必要なのは、贅沢品ではなく、お父様に真実を告げ、ロザリエの嘘を正すことだ。


「処刑されるところだったお前を助けてやったのは俺だぞ! ロザリエに頼み、父上のご機嫌をとるよう言ったのは誰だと思っている……!」

「そうですか。ご苦労様です」


にっこり微笑み、出口を手で示す。


「お兄様。私にご機嫌取りは必要ありません。必要なものは、自分で手に入れます」


純粋な贈り物であれば、受け取っていたけれど……

これは違う。

お兄様が罪悪感をなくすためだけのもの。

それに大事なのは、達成感です!

今の私が夢中になっているのは、荒れ地の大改造!


――見てください! 私の庭を!


コツコツ作り上げた立派な住まい。

草を編むのもうまくなり、ザルやカゴ、壁掛けまで!

畑にはサラダに入っていた野菜を植えてみた。

ちょうど根っこのついた野菜が混じっていたから、ラッキーだった。

この間なんて、生の豆がスープに入ってたし、神様の贈り物かと思って浮かれてしまった。

もちろん、豆は畑に植えた。

私の成長が感じられる庭というか、すでに農園。

なにか、感想があるでしょうと思っていたら、お兄様はチラッとも見ずに、私から顔を背けた。


「一生、お前をここに閉じ込めてやる。俺が皇帝になっても許さん。死ぬまで皇宮で過ごすがいい!」


大激怒させてしまったようだ。

マントを翻し、お兄様は一度もこちらを見ずに去っていった。


「私の庭になんの感想もないなんて残念です……。そうです! 次はお茶を淹れられるようにしましょう」


お茶をここで飲めば、さすがのお兄様も感想を口にするはずだ。


『おお、シルヴィエ! なんて素晴らしい庭だ。パンが焼けるのか。だが、さすがに小麦は育てられないだろう』

『いえいえ。これから、小麦栽培も考えますから、ご心配なく』


小麦を育てる私を想像し、にやりと笑ってしまった。


「でも、さすがに小麦を植えるスペースはないかも」


残念に思いながら、空を仰ぐ。

空には、ずっと鷹が飛んでいて、大きな翼が太陽を遮る。


「気持ち良さそうに飛んでいますね」


しばらく、鷹を眺めてから、視線を下に向けた。

そこには、お兄様が持ってきた私への贈り物が置いてあった。


「持ち帰るのを忘れたのでしょうか?」


お兄様の贈り物を拾い上げ、それを監視の兵士に渡す。

兵士たちは困った顔をして、私を見た。


「ラドヴァン様の贈り物を受け取られたほうが、よろしいのではありませんか?」

「今夜、盛大なパーティーが開かれるんですよ。きっとそれで、シルヴィエ様を気遣ったんですよ」


見張りの兵士たちは、私の暮らしぶりをよく知っている。

贅沢品などは与えられず、お兄様が持ってきたお菓子やドレスは、目にすることもできない生活を過ごしていた。

きっと可哀想にと思ったに違いない。

くっ……!

同情されるなんて、私もまだまだです!


「私は惨めとは思ってません。パーティーに出席できないのも以前と同じですし、なにより、この生活は、私にとってやりがいがあります!」

「はあ、やりがいですか」

「人から与えれるものではなく、(食物を)自分の力で手に入れた時の感動!」


干し芋と干し果物を兵士たちが眺める。

懐かしい食べ物に故郷を思い出したのか、兵士たちはしみじみと言った。


「そういえば、俺の田舎の母ちゃんも言ってたな。育った作物を収穫するのが楽しいんだって……」

「俺のために用意してくれた芋の蒸したお菓子……うまかったな」


しんみりしてしまい、なんだか申し訳なくなった。


「干した芋が完成したら、一緒に食べましょう。ちょっと焼いて食べると美味しいんですよ。でも、焼くのはご自分たちでなさってくださいね。私が触れたものを口にしたくないでしょうから」


そう私が言うと、兵士たちは首を横に振った。


「そんなことはございませんっ! シルヴィエ様の呪いを受けるのであれば、この御身! 毒でも呪いでも食らいましょう!」

「美しいシルヴィエ様が、お手自ら、干し芋を焼かれ、我々に手渡してくださるのであれば、何度でも噛みしめ、口の中で消える瞬間まで|咀嚼《そしゃく》いたします!」

「ただの干し芋ですから、普通に召し上がってください……」


毎日、顔を合わせるからか、私に対して、兵士たちは(おかしな方向に)情が湧いてしまったらしい。


「それで、今日はどんなパーティーが開かれるのですか?」


兵士たちは言いにくそうにしていたけど、私の顔が明るかったからか、教えてくれた。


「ロザリエ様の誕生パーティーです」

「十五歳になられたので、結婚相手を探すとか。他国の王子たちも招待されたらしいですよ」


年頃になったなら、結婚を考えるのは当たり前だ。

皇女なら、なおさら嫁ぎ先も相手も、厳選されたものになる。

結婚はともかく、帝国の外から招待される異国のお客様たちに興味があり、うらやましく感じた。

もっと広い世界を見て、知識を得たいと思っていたから。


「そう……」


呪いを受けた身であるから、人に触れてはならない。

なにかあっては困るから、人前に出てはいけない。

そう言われて育った私は、パーティーに出席しようと思わなかった。

でも、自由になりたいと思っている自分がいることに気づいた。


――皇宮の外を見てみたい。


空を見上げ、鷹を探す。

けれど、鷹はどこへ行ってしまったのか、空にその姿を見ることはできなかった。

壁と鉄格子に囲まれた場所にも、楽隊がパーティーの曲を練習する音が聴こえてくる。

ロザリエの誕生日を祝うパーティーが始まろうとしていた。

呪われた皇女の結婚~敵国に嫁がせていただきありがとうございます!~

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