現在時刻午後2時54分
俺の人生は残り19時間と6分
赤「じゃあ俺帰りますね。」
兎「えーもう?」
赤「はい、やらなきゃいけない事ができたので。」
兎「そっか、じゃあねあかーし」
嫌な感じがするな…木兎さんに言われるじゃあねが嫌な言葉なんて知らなかった
赤「じゃあねなんて言わないで下さい、明日の夜の6時に迎えに来ます。」
じゃあねなんて言われたら木兎さんがパッと消えそうで怖いんだ。
兎「うん、分かった。あかーし好きだよ。」
赤「…俺もです、愛してます。」
心の底から。
兎「…来世でも見つけてね、約束だから。」
赤「はい。」
少し寂しい台詞を背に病室を出た、とりあえずどっかによってレターセットを買いに行こう。本屋あたりに売ってるだろ。
遺書の内容も考えておかないとな…
5枚入りのレターセットを7つ買って家に帰った。財布からはお札が2枚消えたけどどうせ使わないだろうしいいか。
赤「ただいま」
赤母「京治おかえり、お見舞い行ってきたんでしょ?手洗って来なさい。」
赤「はーい」
洗面所で手を洗い、部屋に向かって廊下を歩く、すると居間の母さんに手招きさる。
赤母「京治、背伸びたわね。」
そう俺の頭に手を置く母さんの踵は浮かせている。いつかは分からないけど気付けば母さんはすごく小さくなっていた。
赤「うん、高校上がってからすごい伸びたよ。」
赤母「そうよね、昔はこんくらいしか無かったのに。」
そう言いながら母さんは指で豆粒程度の大きさ隙間を作って見せてくる。その動作に思わず笑みが零れる。
赤「アハハꉂそんなに小さかったの?」
赤母「そうよ、昔はその位に思ってた。でも今の京治は少し大きくて遠く感じるの。」
寂しそうな表情の母さんにはなにか見透かされている気がする。
赤母「ずっと近くにいたいなんて我儘は言わないわ…」
今日の俺も似た発言をしたな…
赤母「でもなにか躓いたら頼ってちょうだい。否定はするかもしれない、でも京治の気持ちを蔑ろにはしないわ。」
でも俺なんかと全然違う、優しい言葉、自己中心的な俺の言葉とは比べるのも烏滸がましい。
赤母「忘れないで頂戴、私はあなたのお母さんだからね。」
赤「うん」
分かってる、一番近くで支えてもらってきた。だからバレてるんだろう、でもごめん。
大丈夫、忘れないよ。
沢山、いや、ずっとそばに居てくれたから
赤「ありがとう。」
赤母「ご飯にしましょ、今日はシチューよ。」
赤「準備手伝うよ。」
赤母「ありがとう」
トントンと母さんの包丁の音と俺の鶏肉を炒める俺がキッチンに響く。
本当は包丁も手伝いたいけど、ほぼ無意識に避けていた、指を怪我するということは指の感覚が狂うのと等しい。それで正確なトスをあげれないのが怖い。
なんて思うけど、もうトスをあげることは無いのにな…
赤母「どうしたの京治?目にゴミでも入った?」
赤「え?」
目を元を触ってみたが涙が零れた訳ではない、ただ眉間にシワが寄って目が強ばっている。
赤「…うん、ちょっと油が飛んで。」
目頭が熱くなるけど涙は出ない、不快だ。きっと泣きすぎて枯れたんだろう。
赤母「涙が出ないなら水で漱ぎなさい、少しは楽になるわよ。」
赤「うん」
蛇口から零れる水を両手で掬うと自分の醜い顔が映る、こんな顔したくないのに。
バシャバシャ音を立てて目元を漱ぐと、スっと目元が冷えた気がする。
少なくとも不快感は無くなった。
赤母「大丈夫?」
赤「うん、良くなったよ。」
赤母「そう、あと煮込むだけだから座って待ってなさい。」
赤「わかったよ」
リビングに向かいながら時計を見る。
残り時間17時間20分