テラーノベル
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また、同じ夢だった。
息を吸うたびに、喉の奥が 焼ける。
空気が重くて 肺に入ってこない。
目を開けても、何も 見えない。
暗いのか、煙なのかも 分からない。
「稜久!」
名前を 呼ばれている。
はっきり、聞こえる。
返事を しなきゃいけないのに、
声が出ない。
足も、腕も、動かない。
助けなきゃいけないのは、
僕なのに。
――そこで、目が 覚めた。
体が跳ねるみたいに 起き上がって、
息を 大きく吸い込む。
苦しくて、
でも煙は なくて。
ここは、自分の 部屋だった。
額から汗が流れて、
シーツが 少し濡れている。
心臓の音が うるさい。
耳の奥で、ずっと鳴っている。
…まただ。
夢だって 分かっているのに、
しばらく動けなかった。
目の奥が 熱くなって、
気づいたら涙が 溜まっていた。
理由は 分かっている。
僕の両親は
火事で 亡くなった。
原因不明の火事だった。
詳しいことは ずっと分からないまま。
深夜だった——
僕たちは、眠っていた。
もし、僕が 起きていたら。
もし、音に 気づいていたら。
もっと早く、
誰かを 呼べていたら。
そんな もし が、
頭の中に 何度も何度も浮かぶ。
両親は
自分達がいた部屋のドアを 閉めた。
炎が 来ないように。
煙が 入らないように。
そのせいで、
二人は 逃げられなかった。
僕を守るために。
それが、
たまらなく 苦しい。
「稜久、朝ご飯できてるよ」
おばあちゃんの声が、
廊下から 聞こえた。
「今 行く」
ちゃんと返事は できた。
声も、震えてない。
顔を洗って、 鏡を見ると
泣いた跡は、
できるだけ 分からないようにした。
ご飯を食べた後
部屋に戻って、スマホを 手に取る。
無意識に、名前を探している。
――颯太。
火事の 日のことを、
知っている人。
忘れたくても、
忘れられない夜——
救急車の音
人の声
赤く光る、回転灯
毛布に 包まれて、
外に出された。
寒くて、怖くて…
でもそれ以上に、
状況が 分からなかった。
目の前で、
僕の家が 燃えていた。
屋根が 崩れて、
火が、空に 伸びていた。
足に力が入らなくて、
その場に 座り込んだ。
泣きたかったのに、
声が 出なかった。
胸が 痛くて、
息が できなくて…
その時、
走ってくる足音が した。
「稜久!」
颯太だった。
息が 切れていて、
靴もちゃんと 履けていなかった。
僕の前にしゃがみこんで、
何も言わずに、抱きしめてきた。
ぎゅっと、
逃がさないみたいに。
「…うぅ、…」
その腕の中で、 やっと声が 出た。
喉が 痛くなるくらい、
泣いた。
颯太も泣いていた
理由は分からないけど。
二人とも 子どもだった。
何も できなかった。
それでも
颯太は 来てくれた。
僕は…
違う。
本当は、
僕が 起きていれば。
僕が、
眠っていなければ——
両親は、
助かったかもしれない。
ベッドの上で、
僕は 膝を抱える。
何年経っても、
答えは 変わらない。
助けられなかった。
守られただけ。
何もできない自分が嫌い。
「これが、僕の罪だ。」
コメント
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りくの過去に触れることができた話で、最後のカッコの意味を今日は理解できました。颯太のなぜ泣いたのかそれがすごく気になります。