「よかった…泣く事ができましたね、やっと、やっとできましたね」
介護士さんに言われた母の顔は、さっきまでと違って、明らかに血が通っていると感じた。
「涙には、癒やしの効力があるといいますが…霧島さんは入院以来、ずっと泣くことができなかったんです」
それは、私も知らなかった事実だ。
…知らなかったというより、知ろうとしなかった。
私は母が恐ろしくて、理解しようとしてあげられなかった…
「これから少しずつ…で、いいんじゃない?」
嶽丸は私の心の言葉に気づいたように言う。
私も父も、あの日から十数年ぶりに互いを見つめ合う事ができた。
嶽丸の言うように、少しずつ。
私も母を、父を理解していきたいと思う。
きっとできる。
それはきっと、でっかいハートの嶽丸が、私のそばにいてくれるから。
「父さん、母さんが住むあの家のそばに、戻ろうと思うんだ」
しばらくして父から来た連絡は、とても意外なことだった。
「戻るって…」
「母さんが許してくれるかは、わからんがな」
いきなり同じ家に住むことは無理でも、近くに住んで、少しずつ交流していきたいという。
「母さんの心の病は、美亜…お前のせいじゃない。原因は、俺だ」
今度こそ逃げずに、母を支えていきたいと…
また、一緒に暮らしていきたいと…
そうなったらどれほど嬉しいだろう…
それはきっと、お母さんだって。
離れていた年月を思えば、以前のような家族の形を取り戻せるか…不安はある。
でも、少しずつ、一歩ずつ…
大人になった私も、両親の間に絡まる糸をほぐす手伝いができたらいいと思う。
いつの間にか、私の心に重くのしかかっていた母への恐怖は薄らぎ、父への思いも変化しているのを感じる。
もちろん、すべてまるっと解決したわけじゃないけど…確実に家族の姿を変える手助けをしてくれたのは…
嶽丸だ。
嶽丸が全部…私の重たい荷物を、取り払ってくれた。
「ありがとう…嶽丸」
今日も私の隣に当たり前にいてくれる。
「ん…お礼なら、体でして?」
その胸に飛び込む私を包み込みながら、相変わらず妖しい顔で笑う。
…さすが嶽丸。
ブレないそういうところも…
大好き…。
【私のポチくんと俺のタマ】
END
それなのに、しばらくして…
嶽丸が意外なことを私に告げた。
「俺、この家出るわ」
ずっと2人で暮らしてきた私のマンション。
また2人で暮らし始めたばかりなのに…なんで?
…番外編に続く
コメント
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番外編お待ちしてまーすo(*>▽<*)o