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翌朝。
僕――ほとけは、ベッドの上で勢いよく起き上がった。
(今日は……ちゃんと向き合うんだから!)
いふくんに「好き」って伝えるだけじゃなくて、
ちゃんと、彼がどう受け取るのか、どんな不安を抱えているのか……それを知りたい。
昨日、初兎ちゃんの話を聞いて、胸が苦しくなるほど気づいた。
いふくんは僕のことを“拒絶してる”んじゃなくて、
“僕の幸せを願って距離を置いている”だけなんだ。
(そんなの……ますます好きになるに決まってるよ……!)
頬が熱くなって、枕でごろんと転がった瞬間――。
ガチャァァン!!
「お嬢様ぁぁぁ!!!」
「ひゃあっ!?」
ドアが勢いよく開き、青髪の執事――いふが飛び込んできた。
「な、なんでカーテン全部閉めてベッドで転がっとるんですか!?
メイドさんが『お嬢様がまた悶えてはる』って……!」
「悶えてない! 恋の準備してただけ!」
「準備!? なんの!?」
「いふくん攻略の……」
「ゲームみたいに言うたぁぁ!!」
朝から騒がしい。
けれど今日は、ちゃんと言葉で伝えるんだ。
「いふくん。今日ね、話したいことが――」
「ま、待って! その前に……これ!」
彼が差し出したのは、ピンク色の大きな箱。
「お嬢様の誕生日、ほんまは昨日渡すつもりやったけど……
あまりに暴走しすぎてたから時期をずらしたんや」
「ほ……誕生日プレゼント?」
「せや」
僕の心臓が跳ねた。
いふくんの手から渡されるプレゼント……!
「あ、あけてもいい?」
「お嬢様のもんやからな?」
箱をそっと開けた。
中に入っていたのは、薄い青色のリボンで結ばれた――
手作りの髪飾りだった。
「……っ」
白い小花を模した飾りが散りばめられていて、
僕の髪色に合うように、柔らかい色でまとめられている。
「いふくん……これ……」
「ほとけお嬢様の雰囲気に合うように、俺が作ったんや」
「――っ!!?」
心臓が爆発した。
「え、いふくんが!? 手作り!? 僕のために!? 僕のために!? 僕の――」
「三回言うた! 三回言うたで!!」
彼の方が顔を赤くしている。
「お嬢様……そんな喜ばんといて……俺まで死ぬ……」
「死んじゃだめ!」
「ほな、落ち着いて!!」
手を握られた。
ふっと力強くて、優しい手。
(あ……)
唐突に胸がぎゅっと鳴った。
「――いふくん」
「ん?」
「今日、庭で話したいの。ちゃんと……大事な話」
僕の声は震えていたけど、いふは真っ直ぐうなずいた。
「……わかった。仕事片付いたら行くで」
「うん!」
◆
その日。
初兎ちゃんは部屋に来るなり、僕の髪飾りを見て目を丸くした。
「えぇぇぇ!? いふに手作りもろたん!? それもう告白やん!!」
「ち、ちがうよ……ただの誕生日プレゼントで……」
「ただの? あんたの髪色に合わせて作って、花の種類ぜんぶ“幸福”の花言葉のやつやん。
めっちゃ意味深やで?」
「ひぃぃぃ……!」
心臓が忙しすぎる。
初兎ちゃんは僕の頬をむにっとつまんだ。
「ほとけちゃん、今日告白すんの?」
「する! というか、向き合うの。いふくんの気持ちもちゃんと聞きたい」
「……ええ子やなぁ」
ぽんぽんと頭を撫でてくれた。
「せやけど、ひとつ覚悟しときや」
「覚悟?」
「いふ、ああ見えて……めっちゃ不器用やで?
ほんで、お嬢様のこと守るために、自分の気持ち後回しにするタイプや」
「うん。わかってるよ」
「せやから、お嬢様の方が、一歩踏み込んだらええ」
踏み込む。
その言葉に、胸が熱くなる。
(そうだ……僕から逃げてばかりじゃだめだ)
(ちゃんと言葉で、触れられる距離で、伝えなきゃ)
「ありがとう、初兎ちゃん」
「うち? 応援するだけや。長年の友達やからな」
にこっと笑うその顔は、いつもより優しかった。
◆
夕方。
庭の灯りが少しずつ灯り始めた頃。
いふが姿を見せた。
「お嬢様。待ったか?」
「ううん。今来たところ」
僕は深呼吸しながら、ベンチに座る。
隣にいふくんが座ると、夕風がふんわりと流れた。
「……どないしたん? 今日のお嬢様、いつもより静かや」
「ちゃんと話したいから。大事なことだから」
「……そっか」
いふが姿勢を正した。
僕は胸を押さえながら言う。
「いふくん。昨日ね……聞いちゃったの。
初兎ちゃんと話してた、あの……」
いふの肩がぴくっと震えた。
「あ……あれは、その……!」
「僕が“幸せになってほしいから言えない”って言ってたでしょ?」
「…………聞いてもうたか」
いふは苦く笑った。
「ほとけお嬢様。俺はな……ほんまは……」
「ほんまは?」
視線が絡んだ。
いふは拳をきゅっと握って、言った。
「お嬢様のこと……好きや」
空気が止まった。
「……でも、好きやからこそ……俺は言えへんかった。
だって俺は執事で、お嬢様は主様や。
お嬢様の人生はもっと広いし……俺なんかでええんかって……」
胸がぎゅうっと締めつけられる。
(そう……そんな理由で……)
僕はそっと、彼の手に触れた。
「いふくん」
「っ……!」
「僕はね。ただの“お嬢様”じゃない。
あなたが守るべき“仕事”じゃない」
ゆっくり、手を握る。
「僕の人生に、あなたが必要なの」
いふは息を呑んだ。
「だから……執事とか身分とかじゃなくて。
僕自身を見てほしい」
「……!」
「僕は、いふくんが好き。
恋とか、憧れとか、そんな生易しいものじゃないよ」
そっと顔を寄せる。
「僕はね。あなたを、愛してる」
いふは目を大きく開き、震えた。
「お、お嬢様……!?」
「ほら、また“お嬢様”って呼んだ」
僕は彼の手をぎゅっと握ったまま言う。
「名前で呼んで?」
「な、名前……!?」
「うん。恋人に――なりたいから」
その瞬間、いふは顔を真っ赤にして叫んだ。
「む、無理やぁぁぁぁ!! 心臓死ぬぅぅぅ!!!」
「死んじゃダメ!」
「無理ぃぃぃ!!」
椅子から転げ落ちた。
「いふくん!? 大丈夫!?」
「だ、大丈夫ちゃう!!
お嬢様やのに名前で呼べって……ハードル高すぎるぅ……!」
「じゃあ……ゆっくりでいいよ」
僕はそっと彼の肩を抱いた。
そこへ――。
「――おっと。ええところ見てもうた」
初兎ちゃんが木の陰に立っていた。
「ごめん、こっそり見守るつもりやったんやけど……
思いっきり転がってて草生えたわ」
「草生やすな!! 初兎ぉぉぉ!!」
いふが叫ぶ。
「でも……良かった。
二人とも、本音で向き合えたんやな」
初兎ちゃんは柔らかく笑った。
「ほとけちゃん、幸せになり。
いふ、お前も幸せにならなあかんで」
「…………」
いふは伏せていた顔を上げ、僕を見つめた。
「……ほとけ」
「!?」
名前――!
「……俺も、ゆっくりでええなら……
その……恋人……になってほしい……」
僕は笑って涙があふれた。
「うんっ……! 僕でよければ」
「よけるわけないやろ……大好きや……!」
いふがぎゅっと抱きしめてくる。
「お嬢様……いや、ほとけ……
俺、幸せにする。絶対に」
「僕も……」
胸が重なって、涙がこぼれる。
(こんなに苦しくて、あったかい気持ちが恋なんだ)
◆
その夜。
僕の部屋に響き渡る叫び声。
「――ひぃぃぃ!!! なんで俺のぬいぐるみ捨てようとしてるんですか!!」
「もう本物がいるからいいの!!!」
「やめてぇぇぇぇ!!!!?」
初兎「うわぁ……恋は人を狂わせるわ……」
ほとけといふの恋は、
ようやく始まったばかりだった。
コメント
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えぐい、幸せワールドすぎる💞😭 毎回世界観最高すぎるんだよな😭👏✨ やっぱし、青組は世界を救うな! 神作ありがとうございます!
いやかわいい…かわいい…きゃわいい、 投稿頻度すごすぎてすごい