女性たちは茫然自失で座り込んでしまっていた。
シロからの知らせで崖の上に居るオークどもが騒いでいるらしいのだ。
オーク共は鼻が利く。
おそらく血の匂いを嗅ぎつけたのだろう。
さて、あまり時間がないぞ。――どうする。
トラベルを使ってここを離れるか? いや、俺たちが居なくなったらオークどもが街道に出ばってくるかもしれない。
不可抗力とはいえ、それはそれで拙い。
では、迎え撃つしかないのか?
それらのことをアーツに伝え、俺はオークの亡骸をイベントリーに回収していく。
そして、女性の一人を抱え川向こうへジャンプして移動する。
もう一人の女性を抱えてアーツも俺に続く。
その場に女性二人を下ろし治癒と結界の魔法をシロにお願いした。
それから浄化も……だな。
女性たちは手や足に何ヶ所も傷を負っていた。
それに、抱えあげた時に気付いたのだが粗相をしていたのだ。
力なく座っている女性たちに俺は片膝を突いて、
「すぐに終わらせてくるからここで静かに待っていて欲しい。ここには結界を張っているから虫1ぴき入ってこれないので安心するといい」
不安げな顔をしている女性たちにニッコリと笑って伝えた。
そして、女性たちが頷くのを確認したのち俺たちは再び川を飛び越えた。
洞窟のある場所に向かって静かに進んでいく。
洞窟の前にある広場が見えてきた。俺たちは草むらに身を沈めながら様子を伺っている。
見張り台で騒いでいるオークに反応したのだろうか、洞窟の中に居たオークがわらわらと外へ出てきている。
そして、目の前の広場に集結していく。
俺は横に控えているシロに小さな声で、
「シロ、これからオーク共をやつけるぞ。ウインドカッターの最大出力でいくからな」
俺はそう言うと頭を一撫でしてから、左手をシロの背に置き右掌を洞窟へと向けた。
横に並んでいるアーツに目で合図を送る。
アーツは長剣を抜き放ちいつでも出られるように待機すると、ゆっくりとこちらに頷いてきた。
俺は大きく深呼吸をしたのち……タメをつくり、
「――ウインドカッター!!」
俺の発した大声にオーク共がこちらを振りむいたが、
次の瞬間にはウインドカッターがオーク共の体を切り刻んでいく。
広場に出ていた20頭程のオークは全てが四散し崩れおちた。
そして、さらには洞窟がある崖をも一緒に切り崩していた。
これにより、崖の上に居たオーク共は一瞬で瓦礫にのまれる結果となった。
「…………」
「…………」
あれれっ! ちょっとやり過ぎたかなぁ?
肩を窄めて隣を見やるとアーツがジト目で俺を睨んでいた。
と、その時である。
土砂と瓦礫で塞がれていた洞窟から ――ガバッ! とデカい手が飛び出してきたのだ。
さらに周りの土がだんだん盛り上がっていく。
そして、そこに姿を現したのは身の丈3mはあろうかという巨大なオークであった。
おほ――、デカいなぁ! あれが『オークキング』かなぁ。
顔もデカいし、あそこもデカい! ――獰猛そうだ。
って、この辺のオークは腰みの付ける文化はないのだろう。ヤツらは皆ふりチンだった。
さて、どうする?
シロに頼めば秒で終わらせるだろうしなぁ。
実力も見てみたいし、ここはアーツに行ってもらうか。
そこで俺は、前から一度言ってみたかったセリフをここで口にした。
バスターソードを引き抜き、巨大オークを睨みつけたまま…………。
「先生! お願いしやす」
するとアーツは俺の横から飛び出しオークキングに向かって突撃していった。
あ~ぁ、ホントに行っちゃったよ。ただの越後屋あそびだったのに……。
ここは俺の頭にゲンコツを落として、『おまえ何言ってんだぁ!』の場面だろうよ。
先生と呼ばれたのがよっぽど嬉しかったんだろうね。――もう言わないけど。
巨大オークキングはアーツに任せるとして、俺は地を這って藻掻いているオークに止めを刺していく。
そして、さっき斬り刻んだオークもインベントリーに入れいく。
あれから10分程過ぎたがアーツはまだ戦っていた。
暇になった俺はシロを連れ、あちらこちらとまわって浄化を掛けていく。
さっきのオークジェネラルが持っていた男性の首も適当な所に埋めてあげた。
あの女性たちも変わり果てた首なんか見たくないだろうしな。
んっ! そろそろ決着がつくのかな。
まぁ、最後ぐらいは見届けてあげよう。
そうしないと、
”どうだ。見たか!” と言われたとき、目を逸らしてしまいそうだ。
「これで、とどめだぁああああああああああああああああっ!」
アーツ渾身の一撃がオークキングの首に叩き込まれる。
すると、オークキングは首から真っ赤な血を吹き出しながらゆっくりと後ろに倒れていった。
何やらアーツはかっこよく残身を決めている。
だけどな~、『先生』と呼ばれる人はほとんどが切られ役なんだけどねぇ。
なのに勝ってるじゃん。
これでは越後屋が大喜びして悪が蔓延ってしまうじゃないか。
現実は斯くも厳しいものだよな。
俺は倒されたオークキングの横へ行くとささっと亡骸を回収、踵を返した。
「おおい! 何かこう……ないのか?」
後ろで何か言ってるようだが、労いの言葉は後まわしにする。
アーツには悪いが待ってる人がいるのだ。
俺たちは救出した女性たちの元へ戻った。
「オーク共はすべて始末してきたよ。……それにしても今回は大変だったよねぇ。歩るくことはできそう?」
そのように俺が聞くと女性たちはコクンと頷いた。
俺たちはとりあえず街道まで出てきた。
しかし、帰るまえに彼女たちが襲われたという場所も見ておく必要があるだろう。
それで話を聞いてみると。
彼女ら4人を乗せた馬車は今朝方街道を移動中、森に隠れていたオーク共の待ち伏せにあい襲われてしまったようだ。
場所はラファール領方面から山を下ってきて、村を過ぎたあたりらしい。
それなら、ここからそう遠くはないだろう。
街道を北へ向かって進むこと30分、街道脇に壊された馬車を発見した。
争った形跡はあるものの、馬も人の死体もそこには残っていなかった。
ついてきた二人に馬車を見てもらったが中の荷物は全て持ち去られていた。
それで二人に『これからどうする?』と聞いてはみたのだが……。
当の本人たちは涙を流しながらその場にうずくまってしまった。
俺はアーツと目を合わせ、これはどうしたものかと困り果てていた。
それから、しばらくして二人はふらふらと立ち上り、昼食をとっていた俺たちのところまでやってきた。
「私たちはこの辺のことは全くわかりません。できれば近くの町まで連れていってもらえないでしょうか?」
女性の一人がやつれた顔でそんなことを言ってきた。
「まあ、こんなところに放ってはいかないよ。私の住んでる町までは連れて行ってあげるから」
「お腹が空いているでしょう。固いですが良かったらこれをどうぞ」
俺とシロが昼食として食べていた干し肉を彼女たちに少し分けてあげた。
そして、皆で干し肉を齧りながら彼女たちの話を聞いていった。
なんでも、彼女たちが住んでいた村は農地も少なくとても貧しかったそうだ。
そこで体力のある若者は村を離れ、仕事を求めて近くの町に出稼ぎに行っていたという。
今回襲われた4人も村を出てからは仕事を求めて町から町へと渡っていくなかで、『そこに行けば仕事や働き場がたくさんある』との噂を聞きつけた。
そして最終的には王都にたどり着こうと4人で頑張っていたのだとか。
移動をする際は護衛を雇う余裕がないため、常に怯えながらの移動であったそうだ。
こうして話を聞いてみると、ラファール領には魔獣が少ないのかもしれない。
とはいえ不用心にも程があるいだろ。街道には盗賊だっているのだ。
………………
しかし、まあ、せっかく助かった命である。
俺たちの町まではしっかり送ってあげるから、これからも頑張って生きてほしい。
馬車を見てみると少し直せば使えそうだよな。
そこで馬車を大銀貨4枚、4000バースで買い取ってあげることにした。
それから馬車をインベントリーに収納するのだが彼女らには大型のマジックバッグということにしている。
まあ、アーツにはオークジェネラルを見せた時点で説明しているので問題はなかった。
俺たちは町へ帰るため来た道を引き返していく。
途中で一晩野営を行ないはしたが、何事もなくモンソロの町へ帰還した。
依頼報告のため冒険者ギルドに入っていくと、そのままギルマスの部屋に通された。
それでガンバ・ラルさんに詳しい事情を話していく。
すると今回はオークキングの討伐報酬も一緒に出してくれるという。
もちろん、証拠品としてオークキングとオークジェネラルの亡骸を見せることになったわけだが。
「んん、ほとんど傷んでないようだが……」
ガンバ・ラルさんに突っ込まれる場面もあったのだが、そこはアーツがうまいこと話してくれた。
それで今回の報酬になるのだが、
オーク襲撃現場の確認と住処の発見。オークキング1頭、オークジェネラル2頭、及びオーク30頭の討伐手当を合わせて金貨2枚。
また、オークキング1頭とオークジェネラル2頭の素材買い取り額が金貨3枚にもなった。
それで、合計が金貨5枚で50,000バースとなかなかの報酬になった。
分け前としては俺が金貨2枚をもらうことにした。
するとアーツは、
「いやいや、ここは普通に折半だろう!」
そう最後までゴネていたのだが、
「スラムの炊き出し費用にでも使ってくれ」
そう押し切って、俺はシロを連れ冒険者ギルドをあとにした。
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