ボヤァ~っとした視界。そのボヤァ~っとした視界には茶色い世界が広がっている。
「…んんっ…。ん?」
「おぉ!起きた!」
元気のいいダインの声がする。
「おぉ!そうか!」
これは武器屋のおっちゃんの声。2人の声が鮮明に聞こえ視界も鮮明になった。
朝見た景色と同じ。そう。ヲノはダインの家のソファーに寝かされていた。
「ほれ。これ飲め。元気になるぞ」
武器屋のおっちゃんが木でできたコップに入った飲み物をヲノに差し出す。
「あぁ…ありがと」
飲むヲノ。
「ブー」
吹き出すヲノ。
「かぼちゃジュースとでも思ったの!?」
「あぁ、汚ねぇな」
「なんだこれ」
「それはムスコル族が風邪引いたときに飲む飲み物(のみもん)だ。オレも小さい頃よく飲まされてたなぁ~」
匂いを嗅ぎ、眉間に皺を寄せ恐る恐る飲むヲノ。
「うげぇー~…。まっず」
「そりゃーな。良薬口に苦しってやつだ」
眉間に皺を寄せながら、チビチビと飲み進める。
「あの後、オレ、どうなった?」
「あの後お前気絶したんだよ。ビックリしたよ!変なキノコでも食ったのかと思って」
「おめぇじゃねーんだ」
と笑う武器屋のおっちゃん。
「そっか。…さすがにビビった…な」
と苦笑いするヲノ。
「まあ、初心者にあの血の量はな」
と仕方ないと腕を組んで頷くダイン。そこで「?」と思うヲノ。
ヲノが自分の記憶にあるのはダインが手を差し伸べてくれて
ダインの後ろに頭から血を流したムガルルがいたというところまで。ということを説明した。
「マジかよ!?あのときのヲノ、めっ…ちゃカッコよかったのに、覚えてないのか!?」
「カッコよかった、の?オレが?」
「らしいぞ?オレも見たかったぜ。おまえさんがダインを使って高く飛び上がり
ムガルルの脳天にそのブレードを突き刺した瞬間をな」
「…」
ポカーンとするヲノ。
「…あぁ~…。なんか、ビミョーに思い出したかも。ただ無我夢中であんま記憶にないわ」
「んじゃま!とりあえず飯行くぞ!」
「おー!!」
「お、おぉ~」
前行った居酒屋へ3人で行った。
「かんぱーい!」
「かんぱーい!」
「かんぱーい、いった!」
乾杯するときに腕を伸ばしたヲノが腕を押える。
「どーした。怪我でもしてんのか」
「いや…。これは…」
「ふぃんうぃううーあろ」
「食べながら喋るな」
武器屋のおっちゃんに怒られるダイン。
「んで?なんだって?」
口いっぱいに含んでいたのを、ゴクンッ!っと飲み込み
「筋肉痛じゃね?」
と言った。うんうんうんとブンブン頷くヲノ。
「なるほどなぁ~。普段運動してないからだろ」
骨付き肉を食い千切りながら言う武器屋のおっちゃん。
「…ぐうの音も出ない」
肩を押さえ、プルプルしながらお酒を飲むヲノ。相変わらずムシャムシャ食べているダイン。
「あのでっけーメモトゲ城ではなにしてたんだ?」
「なにって…特に何も?シアタールームで映画とかアニメ見たり、ゲームしたり、中庭散歩したり…かな」
「悠々自適だな」
「まあ、人からしたら羨ましい生活かもな」
「そりゃーな?金の苦労なんてねぇーだろーしな?」
「なかったね。買いたいものは勝手にバンバン買ってたわ」
「いい生活を手放したもんだな?オレなんて自分へのご褒美なんて年に1回だぜ」
「えも、おっひゃんはいいひゃん」
「だから食い終わってから喋れ」
また口にパンパンに詰めたものをゴクンッっと飲み込み
「でも、おっちゃんはいいじゃん」
「なにが」
「ほら。武器1個高いじゃん?その分儲けデカいっしょ」
「バカか。作んのにどんだけ期間必要だと思ってんだよ。あとな、ダイン。お前ハンマー買い替えたか?」
「ん?いや?まあ強化はしてもらったけど」
「な?武器はポンポン売れるもんじゃねーんだ」
「なるほどな」
「隣の鍛冶屋のエルフのねーちゃんのほうが儲かってるよ」
と冗談を言って笑いながらご飯を食べた。
「そういえばマナトリアって、ここら辺にはスポーレとムガルルだけなのか?」
とヲノがフォークで上品にお肉を食べながら聞く。
「んなわけねぇーだろ」
と武器屋のおっちゃんが笑う。ダインも肉をカッ喰らいながらうんうんと頷く。
「どんなのがいんの?」
とフォークで上品にお肉を食べながら聞くヲノ。
「たとえば蛇のようにウネウネとしているが機械で出来ているマキネークロ。
牡鹿のような見た目で立派な角をしているが、その角が我々ムスコル族のように筋肉でできており
その角を自由自在に使って攻撃してくるカカシジ。鷲のような姿で自在に空を飛び回るイグニル」
「お。スポーレみたいに簡単に狩れるやつか」
「んん~。ムガルルとー…どっちが強い?」
武器屋のおっちゃんがダインに聞く。
「…オレは…イグニルの方が…苦手…」
食べて、咀嚼の合間に喋るダイン。
「だそうだ」
「ダインが?あのスポーレをかち上げ一発で仕留めるダインが?」
「イグニルはその翼に魔法を使えてな?自分の翼を何倍にも大きくして燃やしたりできるんだ」
「それを先に言えよ!」
「すまんすまん」
笑いながら謝る武器屋のおっちゃん。
「とにかく。この世界にはかつて数多く存在した動物に似たスポーレが数多く存在する。
お前も見たことあるだろ?この世界に人間が生まれる前
自然豊かな世界に溢れていた動物たちの映像なんかを」
「あぁ。かつて存在したアニマルの痕跡!みたいな番組とかでな」
「その動物たちは今や希少生物だ。本物のキリンや蛇なんかは
サーカスなんかで厳重な管理体制の下、公開されたりする」
「うちの城に猫はいるぞ」
「おぉ!猫はな。ニャルニラ族が大切にしてるから、割と多く残っているらしい」
「へぇ~」
その後も武器屋のおっちゃんはこの世界にいるマナトリアのことを話してくれた。
多種多様。スポーレやムガルルのように肉体のみで勝負するマナトリア。
マキネークロのように完全に機械や半機械のマナトリア。イグニルのように一部に魔法を施せるマナトリア。
「そんなに種類いんのかよ」
「当たり前だ。2、3種類ならとっくにマナトリアなんていない平和な世界になってるさ。
前も言ったが、マナトリアの起源はオレたちだ」
「おう」
「おまえさんはなんだ?」
「なんだ?なにが」
「種族だよ。ベーサーだろ?」
「あぁ。種族の話ね。そうだ」
「でオレとダインはムスコル族」
ダインがムシャムシャと肉を食べながら頷く。
「でエルフ。エルフは魔法を扱うのが得意だ」
「おう」
「で、さっきも話に出たニャルニラ族。あいつらは動物と話せる。そしてなにより猫のようの素早い」
「あぁ。あんま知らないけど」
「そしてニッポンジン。あいつらは手先が器用で、生まれつき読心術が備わっているという」
「はいはい」
「そして工業地区のマキナ族。あいつらはどこかしらに機械が入っている。完全に機械のやつもいれば
見た目こそおまえさんたちみたいにベーサーみたいに見えるが中身が機械とかな?」
「はあぁ~」
「そして水民(みずたみ)。あいつらはその名の通り、基本的に水の中に拠点を持つ。
もちろん地上でも暮らせるが、水の中のマナトリアを狩るのが使命だな。
ちなみにスライムと親戚だ。だからスライムと共に暮らしてる。らしい」
「僕は悪いスライムじゃないよってやつだな」
「そして鳥人(ちょうじん)。こっちもその名の通り、鳥だ。
ま、喋れる、二足歩行のデカい鳥って考えていいな。
こいつらもニャルニラ族と同じく動物と話せる。素早さ、そして風を読む能力。
そして風魔法が得意中の得意だ。ま、手がドデケェ羽だから不器用なんだけどな」
と笑う武器屋のおっちゃん。
「くらいだな。あとは職業だ。剣士だって種類があるからな。
おまえさんみたいにブレード使いもいれば、大剣使いだっている。
レイピア使いだって、コピシュとショテルの2刀使いっていう変わり者もいる」
「剣士でもそんないるのか」
「そうだ。剣じゃなければレイピア使いとかな。メイス使い。ダインみたいなハンマー使い」
ダインがムシャムシャと肉を食べながら太い親指を立てる。
「弓使い、銃使い。銃使いの中には銃と剣の2つ使いもいる。
カッコいいけど、剣1本の者、銃1本の者と比べるとさすがに熟練度は落ちるがな」
「なるほど?」
「あとは魔法使いだな。ヒーラー、召喚士、呪術師」
「ヒーラー?召喚士?呪術師?」
「おまえさんほんとなにも知らず生きてきたんだな。ヒーラーは要は魔法のお医者さんだ。傷を治してくれる」
「スゲェ」
「召喚士は文字通り、…なにかを召喚する」
「なにかってなんだよ」
「そっ、それはオレも知らねぇ。見たことねぇからな。
なんか仲間呼ぶんだよ。魔法で。んで呪術師は呪いで相手を苦しめる」
「怖っ」
「ま、毒みたいなもんだな。相手をじわじわと嬲り殺す」
「怖いこと言うなよ」
「あと忍者、和心(わご)、サムライ」
「それは知ってるぜ。忍者は手裏剣とか使ったり、和心は番傘っていうイカした傘で戦う。
サムライは日本刀で戦うんだ。居合い切りって技が強いらしい」
「よく知ってんじゃねーか」
「アニメで見たんだ」
「あとは気使いだな。各属性、火、水、氷、電気、雷…電気と雷は一緒か?
風、大地。そして遊人(あそびと)。こいつはぁ~…よくわかんねぇ」
「よくわかんねぇ?」
「あぁ。ならないとどういうことするのか、点でわからん」
「ほお?」
「そして素手のみで戦う格闘家。ま、気使い兼格闘家ってのもいるがな」
「なに?まさか拳に炎纏わせて攻撃!とかすんの?」
「そのまさかだ。これくらいか?しかもさっき言ったみたいに、気使い兼格闘家とか
なにか兼なにかっていうのもある。兼用できないもんもあるがな。
てなわけで、こんだけの種族がいて、こんだけの職業があんだ。それでもマナトリアは根絶できねぇ。
それだけマナトリアも多種多様で、種族、職業によって得意不得意があんのさ」
「なるほどな」
武器屋のおっちゃんからこの世界のマナトリアのこと
そしてそのマナトリアと戦う人々のことを聞き、夜ご飯を3人で食べ終えた。
その日は狩った10体のスポーレと1体のムガルルのお金
つまりヲノが人生で初めて自分で稼いだお金で支払った。
が、ダインがムシャムシャ食べたお陰で足が出たので、結局、ヲノが城から持ってきたお金も使った。
「んじゃーな」
「んじゃ、また明日」
「おう。また明日」
武器屋のおっちゃんは自分の家へ、ダインとヲノはダインの家へと帰った。
ダインは自分のベッド、ヲノはソファーで寝転がる。
「んじゃー電気消すぞー」
「おぉー」
ヲノが豆電球から出ている紐を引っ張り、明かりを消す。
「明日はスポーレ狩りは無理かな」
ダインが言う。
「明日治ってたらいいけどな」
「さすがに早すぎるだろ」
「ヒーラーに治してほしいわ」
「そんなことにヒーラー使うなよ」
笑うダイン。
「明日治ってなかったら体力付けだな」
「体力付け?」
「そこら辺走っとけ」
「雑だな」
「本当は腕の筋肉つけるのがいいんだろうけど…無理だもんな」
「腕振れんならスポーレ狩るわ。そっちのほうが効率良いだろ」
「それもそうだ。じゃ、明日はオレの浄めに付き合って体力付けだな」
「わかった」
「ん。じゃー…あぁ…あぁ…あぁ…」
大あくびをするダイン。
「あぁ…はぁ…」
ダインのあくびが感染る。
「おやすみぃ~」
「おやすみ」
ということで2人は眠りについた。