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武器屋のおっちゃんに揺すって起こされるヲノ。
「おはようさん」
「…おはよ」
ソファーから起き上がる。
「いてててて…」
腕の筋肉痛はやはり治っていなかった。
「耳塞いどけ」
と言われ、筋肉痛の腕をゆっくり上げて耳を塞ぐヲノ。
武器屋のおっちゃんはベコベコのフライパンに大きく振り上げたおたまをぶつける。
カーン!カーン!カーン!耳を塞いでいても
「うるさっ」
うるさいくらい。しかし、それでも相変わらず目覚めないダイン。さらに大きな音でようやく目覚める。
武器屋のおっちゃんが朝ごはんを作ってくれている間に
ヲノとダインは並んで洗面台で歯を磨き、顔を洗った。
武器屋のおっちゃんの作ってくれた朝ごはんを3人で囲んで食べる。
「今日はどうすんだ?」
「今日はヲノが筋肉痛まだ治ってないって言うもんだから、ま、体力付けかな」
「体力付け。なにすんの?」
とヲノが聞くと口元にご飯を付けながらニヤッっする。
「はあぁ…はあぁ…」
「こっちだー!」
ダインがご自慢のハンマーを地面に置いて、走るヲノに向かって大きく手を振る。
「はあぁ…はあぁ…」
「よいっしょ」
ダインが大きすぎるハンマーを持ち上げる。
「避けろ!」
というダインの掛け声でグッっと左に避けるヲノ。
ヲノを追いかけるムガルルの顔面をダインのハンマーがとらえる。
ムガルルの顔面にハンマーがめり込み、仰向けに倒れる。
「お腹に」
もう一度ハンマーを振り上げる。
「ドーン!」
ムガルルの無防備なお腹に向かってハンマーを振り下ろす。
「よしっ。ナイス!ヲノ」
大きく太い親指を立て「Good」とヲノを称賛するダイン。
「死ぬ…死ぬ死ぬ…」
先程のムガルルと同じように仰向けになっているヲノ。
「いいだろーこれ。ヲノが走ってムガルルを引きつけて、オレがハンマーでドーン!
ヲノの体力もつくし、単価の高いムガルルも割と簡単に狩れる」
「枯れる枯れる…オレの体力が枯れる…」
「お!うまいこと言うねぇ〜」
「冗談じゃねぇ…」
しかしその日はその狩猟法で陽が落ちる寸前までムガルルを狩り続けた。
町に戻るヲノの脚はプルプル、ガクガクになっていた。
しかしムガルルを狩り続けたお陰でその日の報酬は結構なものだった。
いつものように武器屋のおっちゃんと合流して、居酒屋で夜ご飯を食べた。
「腕の筋肉痛の次は下半身全体が終わりそうだわ…」
「そんな走ったのか」
「“走らされた”ね。走んないと死ぬ状況に追い込まれて」
「オレ頭良いんだぜ?ムガルルにヲノを追いかけさせてさ」
とダインが今日の狩猟法について武器屋のおっちゃんに説明した。
「ガハハハ!そりゃーいい」
お酒も入り、陽気になり、豪快に笑う武器屋のおっちゃん。
「笑い事じゃねぇーよ。もし足がもつれたら…って考えるだけで」
「明日からはどーすんだ。この脚じゃ」
武器屋のおっちゃんはヲノの太ももをグッっと掴む。
「いっ!」
「走れもしないだろ」
「バカかよ。もっと力加減しろよ。こんなん筋肉痛じゃなくても痛いわ」
「すまんすまん」
「明日からー…。ま、腕が治れば普通に狩り。治んなきゃ…どうしよ」
と悩んでいたダインだが
次の日には腕の筋肉痛はブレードを振れるくらいには回復していたので狩りに出た。
しかし、普通の狩りはできず
「なんだこれ」
「なにが」
「なにがって、その場から1歩も動かずに狩りって」
「オレも初めてだよ。でもしょーがねぇーだろ。ヲノの脚が使い物にならないんだから」
「1歩も動かずに狩りなんて、RPGか」
「なんだそれ」
「知らねぇのか。今度オレの家でゲームさせてやるよ」
「城に戻んのか」
「…それもそうか」
なんて話しながらその日はその場から1歩も動かないRPG狩猟法で狩りをした。
ヲノダッシュ狩猟法と違い、さすがにその場から1歩も動かずに狩るRPG狩猟法では
ムガルルを狩るのは危険だったため、その日はスポーレしか狩れなかった。
前日、ムガルルのみを狩って大量の報酬を得たが、今日はスポーレだけで少ししか報酬を得られなかった。
次の日は腕が筋肉痛になって脚の筋肉痛が少し治って
その次の日は脚が筋肉痛になって、腕の筋肉痛が治って
そんな日々を繰り返し、ヲノの体力もだいぶ強化された。
「っしゃー!ひさしぶりにムガルルでも狩るか!」
「いや、ダインはひさしぶりじゃないだろ。昨日も狩ってたし」
「ヲノはひさしぶりだろ?」
「あぁ」
ということでヲノのひさしぶりのムガルル狩りへと向かった。
ムガルルが現れ、いつものように喧嘩を売りに行こうとして
「あぁ。違う違う」
と我に返る。ブレードを抜く。
するとムガルルがヲノの殺気を感じて、全身の筋肉を増幅させてヲノと対峙する。
「あぁ…ひさしぶりに向き合うと怖いな」
「たしかに。オレも正攻法で戦うのはひさしぶりだからな」
とダインも肩を回し、ハンマーを手に持つ。
ムガルルがゆっくりと2人に近づく。ブレードをグッっと再度力を入れて握り
「先手必勝!」
と言って走ってムガルルに向かうヲノ。左下から右上に斬り上げる。
ムガルルの胸に傷がつく。ムガルルの殺意がより一層大きくなる。振り上げた大きな左前脚でヲノを攻撃する。
「攻撃は大振り。読める」
ブレードでその攻撃を防ぐ。しかし大振りな攻撃には大きな衝撃が伴う。
防御ができたとしても後ろに押される。踏ん張った脚が地面に2本の線を残す。
「次はオレのターンだ!」
すっかりRPG戦法が身についたダイン。ハンマーでムガルルに顔面を右から左に叩き込む。
しかしダインの攻撃も大振り。ムガルルもその攻撃がわかったのか、顔周辺の筋肉に力を入れる。
ゴーン!という轟音が響く。
「効いてない、か」
ムガルルが雄叫びをあげる。すると茂みの陰からスポーレが数体出てきた。
「仲間呼びやがった」
「めんどくせぇ」
スポーレが筋肉の発達した脚を使って攻撃してくる。ブレードで防御するヲノ。
防御を解除した瞬間、別のスポーレが飛びかかってきて、顎にもろに蹴りをもらった。
横回転しながら吹っ飛ばされるヲノ。砂埃が舞う。
「ヲノ!」
とヲノを心配するダインだが、ダイン自身にもスポーレからの攻撃が向いているし、ムガルルもまだまだ元気。
「くそっ」
「…フィジカル強化されたオレを舐めるなよ」
砂埃の中から走って戦線に復帰してくるヲノ。
大きく飛び上がってスポーレに斬りかかる。スポーレがスッっと避ける。
「おい!」
スタッっと着地するヲノ。
「おい!スポーレ!そこはカッコよくお前らを全員倒して
「ふっ…やっと2人きりになれたな…」ってカッコつけられるシーンでしょうが!」
とスポーレに文句を言うヲノ。スポーレもキョトン顔である。
「あと、仮にスポーレ全部倒しても、オレいるから2人きりにはなれないぞ」
と正論を言われて恥ずかしくて顔を赤くするヲノ。
「う、うるせーな!」
今一度スポーレに向き直る。スポーレの攻撃をブレードで防ぎ
その勢いでブレードの側面で攻撃する、ヒットと名付けた攻撃をする。スポーレが1体吹っ飛ぶ。
さらに横からもう1体のスポーレの攻撃も来たので、またまたヒットという攻撃で吹っ飛ばす。
2体のスポーレはネックスプリングの要領でシンクロしながら立ち上がる。
ヲノはスポーレに向かって走っていき
「2ベースヒットだ!」
と言い、2体のスポーレを一度に斬り上げる。
「キュー…」
と言いながら倒れる2体のスポーレ。
「ナイスだ!」
ダインもハンマーでスポーレを思い切り天に打ち上げる。
「残すはこいつだけ」
ん?と思い、よくよくムガルルを見るヲノ。
「こいつ…さっきのムガルルか?」
ヲノとダインがスポーレと戦っている間に回復したのか
序盤にヲノがブレードでつけた胸の傷が塞がっていた。
「たぶんな。筋肉の成長を自由自在にできるから、傷の回復も時間があればできるんだ」
「なおさらめんどくせぇな」
ムガルルがグッっと体勢を低くして、後ろ脚で地面を蹴り上げ
ヲノに向かって飛びかかってきた。
「横っ腹がら空き!」
ダインが宙に浮くムガルルの横っ腹に向かってハンマーをぶつける。
しかしダインの攻撃は大振り。ムガルルは胴回りの筋肉に力を入れ、ダメージを最小限に抑えた。
「ナイス、ダイン!」
ムガルルが胴回りの筋肉を増幅させてダインの攻撃を防いだため
他の部分の筋肉量が少なくなっていたのをヲノは見逃さなかった。
「終わりぃ!」
飛びかかってきているムガルルを右に避け、首を下から上に向かってブレードで斬り上げた。
首を落とす。とまでは骨があったためいかなかったが、首に深い切り傷をつけた。大ダメージである。
ムガルルがまた仲間を呼び、その仲間が時間稼ぎをしている間に
首の傷を回復させようと雄叫びを上げようとしたが、喉に深い傷を負ったため雄叫びを出せない。
「チッチッチ。させないさせない。ここが違うんだよ、ここが」
と頭を人差し指でトントンするヲノ。
「うわぁ〜なんか嫌なキャラ」
「え。カッコよくない?」
「…ビミョー」
ムガルルは雄叫びを諦めて2人に向かって突進してくる。
「どうする?」
「首の傷を重点的に攻撃したい。ただ素直に攻撃させてくれるとは思えない」
「じゃあ、オレが顔面にハンマーを叩き込む。
そしたらこいつは額の筋肉量を増やして防御するはずだから、ヲノは後ろにいって後ろ脚を斬れ」
「良い案。りょーかい!」
ヲノが後ろに下がる。
「肩借りるぜ!」
ヲノはダインの肩に飛び乗り、ダインの肩からジャンプしてムガルルの後ろに周る。
ムガルルも飛び上がったヲノを見ていたが
「こっちこっちー!」
とダインがハンマーの攻撃を顔面に叩きつける。
すると案の定深い眉間の皺のある額の筋肉に力を注ぎ、ダインのハンマーの攻撃を最小限に抑えるムガルル。
「きたきた!」
と後ろ脚の筋肉量が少なくなったのを確認して、後ろ脚2本のアキレス腱部分を右から左へ斬る。
ムガルルが膝をつく。ムガルルが後ろを向いたところで
「よいっ…」
ハンマーを右から左に振る。
「しょぉーー!!」
ムガルルの左顎にジャストミート。ゴーン!という鈍い音を響かせてムガルルが倒れる。
「…ふぅ〜…」
ダインがハンマーをドスンッっと置く。ハンマーの周りの地面が凹む。
仕留めたと思ったがムガルルがムクッっと起き上がる。
「おぉ〜。まだ目に闘志が宿ってるか」
ダインが再度ハンマーを握る。目には闘志が宿っているが、後ろ脚は膝立ち状態。
左からフックの要領で強烈なハンマーを喰らい、口元からは血が出ている。
「…今楽にしてやる」
ダインが大きくハンマーを振り上げる。
その振り上げたハンマーの勢いで空高く跳躍し、思い切りムガルルの脳天にハンマーを叩きつけた。
隕石が衝突したときのような、クレーターのような窪みができた。
「…おぉ…」
ダインの圧倒的な力に言葉を失うヲノ。
「こいつ、ヒトだったらめちゃくちゃ良いやつだっただろうにな…」
と言いながらムガルルを担ぐダイン。
「一旦こいつを卸して、で昼だ」
と言うダインの後についていき、肉屋にムガルルを卸し、町で2人でお昼を食べた。
「よしっ。じゃ、狩場に戻ってムガルル狩るぞ」
「またムガルルかよ」
「大丈夫だ。さっきみたいな個体は珍しい。仲間を呼ぶとか相手の動きを見て、力を入れて防御なんて」
「そうなのか」
「だから大丈夫。午後のムガルル狩りは楽なもんになるさ」
「…どこが楽になるって?」
ヲノとダインはムガルルと複数のスポーレを相手にしていた。
「いや…おかしいな…」
と頭を掻くダイン。
「おかしいな。じゃねぇーよ。
こいつオレらと対峙して、すぐ雄叫びでスポーレ呼んだじゃねぇーか」
「…こいつら…戦いの中で成長してやがる…」
「カッコつけたこと言ってんじゃねぇーよ」
と言いながらダインに飛び蹴りをするヲノ。
「痛い!スポーレにも蹴られたことないのに!」
「くそ!めんどくせぇ」
その日は知能の高いムガルル計3頭とムガルルが呼んだ仲間、スポーレ数十羽で狩りは終わった。
「なんだおまさんたち。今日はそんなキツかったのか」
いつもの居酒屋で武器屋のおっちゃんと夜ご飯を囲む席で、ヲノとダインはぐったりしていた。
「あぁ…。なんか今日のムガルルは、やけに知能が高かった…」
「雄叫びで仲間呼んだり、その間に回復したり、防御したり…」
「おぉ。最近お客からよく聞くわ」
「え…マジ?」
「あぁ。ま、当たり前の話だが、狩る側のレベルが上がれば、向こうもなんらかの対策はする。
元々はオレたちみたいなヒトだったんだ。ま、ヒトじゃなくても野生の生物たちもそうやって進化してきたろ。
外敵に襲われないような工夫。襲われたときの対処法。それと同じさ。なんも不思議じゃない」
武器屋のおっちゃんに淡々言われ、納得した2人だったが
「じゃあこれからもっと狩りがめんどくさくなるってことかよ…」
と項垂れた。いつものようにお酒を飲み、肉や野菜を頬張った。
「んじゃ。また明日な!」
「おう!また明日!」
「…また、明日な」
慣れたが、まだどこか照れ臭いヲノ。ダインの家に帰る。もはやダインとヲノの家である。
寝るときの服に着替え、ヲノはソファーで、ダインはベッドに寝転がる。
「明日は少し趣向を変えよう」
「なんだ?RPG戦法からMMO戦法にでも変えるか?」
「MMO?なんだそれ。いや、今までと違うマナトリアに会いに行く」
というダインの一言に思わず体を起こすヲノ。
「マジか!」
「お。テンション上がってんな…あぁ…」
大きなあくびをするダイン。
「なんだ!?どんなマナトリアだ?」
「…ま、楽しみにしとけ…。おやすみ…」
とダインは布団を被った。
「おぉ。おやすみ」
ヲノももう一度ソファーに寝転がる。
「新しいマナトリア…」
と茶色の木の天井を見ながら明日を楽しみに眠りについた。