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目が覚めると、そこはまるで洞窟の中のようだった。体を起こそうとすると、全身が軋むように痛む。だが、何故か外傷はあまりないようだ。
「目が覚めたか」
暗い洞窟を照らす焚き火の向こうに、男が不気味に座っていた。鋭い眼光でこちらを睨んでいる……
いや、ただ見ているだけのようだが、それでも逃げ出したくなるほどの威圧感がある。しかし、知りたいことがいくつもあった。聞く以外に選択肢はなかった。
「……なぜ、助けてくれたんだ?」
「箱を壊したからだ。あれは魔道具で、壊すとそこに転移するように魔法陣が組み込まれているらしい。詳しいことは知らん」
箱……?ああ、あのとき渡された箱のことか。だが、そういうことが聞きたかったわけじゃない。
「助けてくれた理由を聞いたんだ」
男は俯き、少し考えた後、言った。
「貴様に説明する必要はない」
「……っ」
それ以上深く聞こうとは思えなかった。この男にさらに問いかけるのは無理だ。
「じゃあ、名前を教えてくれ」
しばし考えた後、男は口を開いた。
「……リョウマ=サカモトだ」
リョウマ=サカモト?珍しい名前だな。アビシア大陸ではよくあるのか?いや、待てよ……リョウマって、もしかして……
「五界覇神第五位の?」
「そうだ。今日からお前を鍛える」
わけがわからなかった。
何故、自分の一存で国を潰せるような男が、こんなにもよくしてくれて、しかも鍛えるとか言っているのかが。
よくわかっていない俺を横目にリョウマは言った。
「ヘラクレスが生きている限り、お前は月並みの生活など絶対に送れん。やつを殺すしかない」
「……じゃあリョウマが殺してくれればいいんじゃないか?」
「俺のことは師匠と呼べ、敬語も使え」
「……わかりました」
「先の質問に関してだが、俺は奴を殺せない。そういう契約なのだ」
「そうですか」
「明日から修行を始める。今日はよく休め。
治癒魔法を施してある。寝ればよくなるだろう」
「……はい」
正直、色々と思うことはあったが、俺には逆らうことなんて出来なかったし、その日は尋常じゃないくらい疲れていた。
俺はもう一度地面に横たわりそのまま目を瞑った。
この時辺りからだろうか。
俺の人の部分が死んでいき、奴を殺すことしか頭になくなっていったのは。
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次の日から修行は始まった。
「まず魔力量を増やせ」
「魔力量というのは生まれた時から決まっているものなのでは?」
俺は疑問を口にした。幼い頃から魔力は才能であり、訓練で増やせるものではないと教えられてきたからだ。
「多くのものは勘違いをしているが魔力量は鍛えれば増やせる」
「……え?」
初めて聞いた。それがもし本当ならば魔法学の常識が根底からひっくり返ってしまう。
「どういうことですか?」
「確かに、魔法を上手く扱えるかどうかは生まれた時の才能で決まるが、魔力量は毎日使っていれば増やす事ができる」
「……残念ながら俺には魔法の才能はありません。鍛えるだけ無駄だと思います」
幼い頃、村では魔法の訓練も行っていたが俺には全くと言っていいほど魔法の才能はなかった。
「む、そうか、知らないのか」
「なにがですか?」
「俺が何故技の名前を口にするかわかるか?」
「……知りません」
「技の名前を言う事で剣に魔力を流し込み、強化する事ができる。魔法の詠唱と同じ原理だ」
「そんなの初めて聞きました」
「だろうな。何故かわからないが初代の五界覇神が隠したとされている」
「そうなんですね」
というわけで、俺は魔力量の強化からする事になった。剣の型とかは後回しだ。
どういう風に鍛えるかというと、魔力を吸うと発光する魔道具に気絶するまで流し込む。たったこれだけだ。
毎日毎日それだけを続ける。
正直こんな事だけで本当に成長出来るのかと疑っていたが従うしかなかった。逆らったらどうなるかわからないからな。
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一年が経過した。
初めは20秒程度で気絶していたが、いまでは一日中魔力を流し続けていても気絶しない程度にはなった。
「どうですか?もう十分では?」
「まだまだ足りないが……そろそろ先へ行っても良いだろう」
「次は何をしますか?」
「魔力を体に流す」
「そんなことできるんですか」
「ああ、だがこれは一朝一夕で上手くいくことではない」
「どうやるんですか?」
ここまで来ると理由をごちゃごちゃ聞かなくなった。時間の無駄だと気づいたからな。
「体を鍛えろ。そうすれば自ずと魔力を纏えるようになる。要するに慣れだ」
ここまで来てついに投げやりになったのかと心配になった。慣れだって?いくら何でもそれはないだろう。
「……体を鍛えるとは?」
「む、そうだな……」
少し考えた後、こっちを見た。
するといきなり蹴っ飛ばされた。
「がっ……!」
何メートルか吹き飛ばされ木にぶつかった。何本か骨が逝った。
「え……?」
何だ……?気が変わって殺す気にでもなったのか?
「俺を倒してみろ」
こうして、俺の修行が再び始まったのだ。