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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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五年が経過した。


あれから毎日同じ修行を繰り返しているが、全く進展がない。


確かに、体に魔力を流し込み纏わせる動作は、無意識的にできるようになった。しかし、それだけだ。


なぜ師匠に勝てないのか。どうすれば追いつけるのか。考えはするが、結局のところ、魔力量や速さ、筋力、体格などの気づいたところで劇的に変わるものではなかった。


「師匠、夕食の準備ができましたよ」


「ああ」


俺は焦っていた。これまでにも何度か成長出来ずに伸び悩む事はあったが、今回のは違う。


肉体の全盛期は二十五歳と言われているが、俺は今二十二歳。あと三年しかない。それまでにヘラクレスに勝てる気がしなかった。


「あの、師匠って何歳なんですか?」


「……二百くらいから数えていない」


「え?師匠って、人族じゃないんですか?」


「人族だ」


「……いや、絶対違うでしょう」


師匠は少し俯き、何かを考え始めた。いつも自分のことを話すときは、言うべきかどうか迷う様子を見せる。自分のことを知られるのがそんなに嫌なのだろうか。


「……俺は別の世界から来た『転生者』だ」


「『転生者』?」


「この世界では、どうやら歳を取らないらしい」


師匠はどこか寂しげで、懐かしむような表情を浮かべていた。


「俺は元の世界に帰りたいんだ」


意味がよくわからなかった。そもそも「転生者」なんて聞いたこともなければ、別の世界の話なんて考えたこともない。


俺が考え込んでいると、師匠は言った。


「いずれ分かることだろう」


何が分かるのだろうか。少し気になったが、あまり深入りしないことにした。この質問をしたのも、師匠の強さの秘密を知りたかっただけだ。関係ないのなら、無理に知る必要もない。




----------------




今日も、いつも通りの一日だった。

何も進展がない無駄な一日。

ただ師匠にボコボコにされて終わった。


本当にこれで強くなれるのだろうか?

もしかして、ただの雑用係として利用されているだけじゃないのか。そんな考えが頭をよぎりながら、夕食の準備をしていると、師匠がふいに言った。


「貴様、このままでは絶対にヘラクレスには届かん」


「……え?」


突然の言葉に、動きが止まった。


「な、何故ですか?師匠の言うことは、全てやってきたつもりです」


師匠に従っていれば強くなれると信じていたから今まで何も言わずに従ってきた。


「思ったより成長が遅いからだ」


師匠は俺の顔を見ることなく、冷たく言い放った。


その冷たい一言に、胸の奥でくすぶっていたものが一気に燃え上がるのが分かった。焦り、不安、苛立ち、そんな感情が渦巻いている。


「……俺なりにやってきたんですよ。毎日、寝る時間も削って、言われたことを全部守って」


少し強い口調で返してしまった。


それに反して師匠は無表情のまま、答えた。


「それが足りんと言っている」


「……足りない、ですか?」


苛立ちと戸惑いがないまぜになり、拳を握りしめる。このままでは駄目だと言われても、俺にはどうすればいいのか分からない。


「じゃあ、俺が至らないってことですか?俺の努力が足りないから、成長できないって……そういうことなんですか?」


「そうだ」


感情を抑えきれず爆発した。


「じゃあ、何のために今までお前の言うことを聞いてきたんだよ!俺は信じて、必死にやってきたのに!それが全部無駄だって言うんですか?俺には、どうしたらいいのか分からないんですよ!」


師匠は無言で、ただ俺の言葉を聞いていたが、その無表情さがかえって苛立ちを募らせた。


「もしかして、俺なんてただの雑用係でしかなかったんですか?修行だと思ってやってきたことも、師匠にとっては、単なる役立たずが暇つぶしに使えるくらいの存在だったんじゃないかって、そう思ってしまいますよ!」


「……」


ハッとした。師匠が俺を睨んでいる。自分でも思わず口にしてしまった言葉に驚いた。


まずい、殺される。


そう思った瞬間、師匠が立ち上がった。咄嗟に腕でガードを固める。殴るか蹴るかされるかと思ったからだ。


だが、師匠の行動は予想外のものだった。


「すまん。俺の言い方が悪かった。貴様はよく頑張っている」


その言葉は、驚くほど穏やかだった。師匠はそっと俺の頭を撫でた。


困惑した。師匠に褒められたのはこれが初めてだった。


師匠の手は大きくて硬い。でも、その手には優しさが満ちていた。


何故か父さんと重ね合わせてしまった。とても強かったが、不器用で温かい。


その瞬間、涙が溢れ出した。


「え……なんで……」


「師匠……すみません……なんか、わからないんですけど……」


一度溢れた涙は止まる事を知らなかった。

涙が頬を伝い、しわがれた声で続ける。


「俺は、師匠に従って努力してきたのに、どうして結果が出ないのか分からなくて……不安で、焦って、辛くて……。もう、どうしたらいいのか、分からなくて……」


「…….すごく……怖かったんです」


「そうか」


その勢いで、今まで悩んでいた事、これからが不安な事、全て師匠に話した。その間、師匠はずうっと黙って話を聞いてくれた。


師匠はもっと冷酷で怖い人かと思っていたが、実はとても優しい人だった。


その日は久しぶりにぐっすり寝れた。


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