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その日の夜、私はリビングの扉の前で立ち止まった。
中からは、テレビの音も生活音もなく、異様な静けさが流れている。
嫌な予感がした。
深呼吸をして、ドアを開ける。
凛:「……ただいま」
声をかけても、両親は振り向かなかった。
父は腕を組んでソファに座り、母はテーブルに肘をついて俯いている。
二人の間に、見えない「線」のようなものが引かれているのを感じた。
「凛」
父の低い声が、重く響いた。
「学校から連絡があった」
心臓が一瞬で冷たくなった。
凛:「……なにが?」
「お前が……その、同じクラスの女の子と“そういう関係”になっていると、噂になってるそうだ」
父の声には怒りよりも、失望がにじんでいた。
息が詰まる。
その話が、もう親の耳に届いているなんて——。
凛:「違う……」
とっさに否定しようとしたけど、喉が震えて言葉が続かない。
嘘じゃない。
でも、「違う」って言わないと、全部が壊れてしまいそうで。
母がゆっくりと顔を上げた。
目元は赤く、泣いていたのがわかる。
「……どうして、凛。あなたには……もっと、ちゃんとした未来があるでしょう?」
凛:「ちゃんとした未来って……なに?」
気づけば、声が震えていた。
目の前の二人が、急に遠く感じる。
「あなたには期待してるのよ」
「成績だっていいし、進学だって──。なのに、どうしてこんな……」
母の声は悲鳴のようだった。
凛「“こんな”って……! 葵のこと、そんなふうに言わないで!」
叫ぶように言ってしまった。
その瞬間、父の顔がカッと赤くなり、テーブルを拳で叩いた。
「いい加減にしろ、凛!」
重たい音が部屋中に響く。
「そんなこと……恥ずかしくないのか! お前は俺たちの娘だろう!」
私は何も言えなくなった。
「恥ずかしい」
その言葉が、胸の奥にずしんと落ちる。
私の大切なものが、たった一言で汚されたような気がした。
「……もういい」
父は目をそらして、吐き捨てるように言った。
「少し、頭を冷やせ。……俺たちも、お前のことを考える時間が必要だ」
母も黙って、目を閉じた。
そこに「家族」の温度は、もうなかった。
私は自分の部屋に戻って、ドアを閉めた。
鍵をかけて、ベッドに倒れ込む。
体の奥から、音もなく涙が溢れ出した。
学校にも、家にも、もう私の居場所はない。
唯一、葵だけが——
私をまっすぐに見てくれる存在だった。
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