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ネコさんチームの応援が始まる中、キルバギリーの上げられていた右手が振り下ろされた。拳の語らいの始まりである。
「では、わしから、いかせてもらうぞ!」
ナジュ父が右足を後ろに下げて拳を構えたかと思った直後、刹那の時間でムツキの目の前に迫る。次の瞬間には、彼の拳が防御の構えをロクにできていないムツキのみぞおちを完全に捉えた。
「速っ! ぐっ!」
ムツキがその言葉を口にした次の瞬間には、彼がナジュ父に殴られ、くの字に曲がっていた。そのまま彼は足が地から離れ、吹っ飛ばされる。
しかし、彼はきちん両足で着地をして膝をつくこともなかった。
「にゃー! にゃ、にゃ!」
「ムッちゃんがまともに攻撃を受けたの!?」
「攻撃無効化はどうなっているのですか?」
リゥパとサラフェはムツキがナジュ父の拳を受ける姿を見て声が出た。もちろん、女の子全員が驚愕している。全員、ムツキの攻撃無効化が働くから拳の語らいにならないと思っていたからだ。
「ユウに聞いてみたんだけど、どうやらお父さんは初撃確定っていう攻撃無効を無効にする能力があるみたいなの」
「攻撃無効を無効って……そんなのあるの? って、初撃ってことは、姐さんパパは1回だけ攻撃が可能なの?」
「だと思う」
「にゃ! にゃー! にゃん♪」
ナジュミネはメイリの疑問にそう答える。その間にも拳の語らいは進む。
「婿殿よ! 昂るぞ……この血の猛りを抑えられん! 早く来い!」
ナジュ父は口を豪快に開けて、腹の底から声を出していた。それは彼なりに感情の高まりを表現であり、実のところ彼の心はその姿以上に興奮している。
「はい! 次は俺がいきます!」
「来いっ!」
ナジュ父は拳を真っ直ぐに構え、胸も腹も何も防がずに受け止めるといった構えでムツキの拳を迎える。
ムツキはその義父の心意気を無駄にしないように、自身が受けたようにみぞおちへの鋭い一撃を繰り出す。ナジュ父は歯を食いしばり、全身に力を込めつつ腰を落とし、まるで大地に根を張っているかのように微動だにせずに受けきる。
「ぐうっ……良い拳だ! 臓物が抉られたような、このヒリヒリとする感覚、身体が痛みに熱くなる感覚、実に心地良いぞ……次はわしだ!」
「にゃん、にゃん、にゃーん!」
ナジュ父が次の拳を構える。ムツキは構えを緩ませることはなかったが、もう攻撃を受けることはないという気持ちが過ぎってしまった。
「初撃だけよね?」
「そうね。もうおしまいかな……」
リゥパがナジュミネに問い、ナジュミネは終わりを告げた。
「婿殿、一瞬、気が抜けたな! もう勝った気でいるのか!」
全員の予想は裏切られる。ナジュ父の拳はムツキの近接攻撃無効化をすり抜けて、再びムツキのみぞおちを抉るように打ち込まれた。
ムツキは先ほどよりも吹き飛ばされてしまう。彼の顔は苦痛ではなく、驚きで歪む。
「ぐっ!」
「だ、旦那様!?」
「ムッちゃん!」
「む、ムツキさん!」
「ハビー!」
「ダーリン!」
「にゃっ!」
ムツキは完全に虚を衝かれた表情になる。誰しもが終わると思っていた。しかし、ナジュ父一人だけは続きを信じて右の拳を引き、再びノーガードの構えになる。
「……大きなダメージになるほどじゃないが、さっきよりも強くなっている?」
実際、ムツキにダメージはほとんどない。服は腹の部分に大穴が空いているが、彼の鍛えられた腹筋が赤くなっている様子もなく、平然としたものである。
「どういうことですか。初撃だけだったはずでは?」
「ユウに聞いた時は、そのはずだったの!」
「にゃーん、にゃ!」
ナジュミネが狼狽える。
「何を驚いているのか分からぬ。分からぬが……漢は、漢なら、老いも若きも常に成長するものだ。前は1回だけだったが、わしは成長して2発目も打てた。それだけのことよ」
初撃確定というものだったナジュ父のスキルはいつの間にか、近接攻撃無効化無効という彼特有の異質なスキルへと昇華していた。ただただムツキと拳で語り合いたい一心で、それを掴み取ったのである。
「さぁ、婿殿、来い!」
「……相変わらず、規格外というか、昔の戦闘狂のまんまじゃん」
「こんなお父さんは知らないんだけど……」
「にゃん! にゃん! にゃにゃんにゃー!」
リゥパとナジュミネがそれぞれ半ば呆れたかのように呟く。
「いきます!」
ムツキはまたもやみぞおちを同じように打つ。ナジュ父は笑みを浮かべた。その笑みは強面もあってか、鬼らしい恐ろしい形相にも見えた。
「ぐっ……はっはっは! 滾る! 滾る! 滾るぞ! 婿殿、ここからは自由にするぞ! 受けるだけが語らいではない! 避けるのもまた語らいよ!」
「はい!」
お互いに動きながら、間合いを詰めたり離したりしつつ、拳を相手へと放っていく。足技や関節技を一切使わない拳と拳のやり取りだけの殴り合いの語り合いだった。
喧嘩慣れは圧倒的にナジュ父に軍配が上がっていた。足捌き、拳や腰の振り方、拳の避け方、受け止め方、筋肉の動かし方、すべてが彼の方に分がある。まともに殴り合えば、ナジュ父に勝てる者はいないだろう。
しかし、ムツキは最強である。不慣れな部分は頑強さや素早さでカバーしており、ナジュ父の拳に合わせて、カウンター気味に拳を突き出すことでなんとか当てていた。
「ぐっ! ふんっ!」
「うっ! しゅっ!」
「にゃ! にゃん!」
「お、お父さん……」
ナジュ父は顔が若干腫れている。しかし、痛みなど感じていないのか、嬉々とした表情で語らいを続ける。ナジュミネの顔が少し青ざめているようにも見える。
「良いパンチだが、腰が甘い! 腕だけで殴っているぞ!」
「こちらは、まだまだダメージはないですよ!」
「面白い! わしの拳が全く効いておらんのか! がっはっは!」
「ぐっ……気のせいじゃない……どんどん強くなっている?」
拳の放った数はナジュ父が多いが、一撃一撃の強さはムツキである。2人の衣服はボロボロであり、上半身など布切れが纏わりついている程度の状態だった。
「がっはっは! 連打でいくぞ! 温羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅!」
「負けないですよ! ウララララララララララララララララララララララララララララララララ!」
「にゃんにゃ! にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃーん!」
ついに始まった拳と拳の打ち合い。お互いの拳が拳を弾き、低い音が彼らの叫び声にも劣らないほど大きく鳴る。
「婿殿!」
ナジュ父が衝撃で後ろに下がりつつ、思い切り叫ぶ。
「はい!」
「舐めておるのか!」
「え?」
ムツキは突然の言葉に面を食らった。