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#一次創作
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質素なコンクリートの床に、赤い血が飛んだ。男たちの雄叫びが、拳銃の発砲音と刀で肉を斬る音をかき消してから、程なくして無惨に散っていく。
最後の男が倒れたのを確認してから、ライリは拳銃の弾を詰め替えた。ヒナトも無言のまま、刀身にべっとりと付着した血を振り落とす。
「だるいけど、全員の死亡を確認したほうがいいっすかね。」
「うん、さすがに死んでるだろうけど、念の為ね。……いくら犯罪者とはいえ、こんなに大量に殺してしまうと、少し心が痛むね。」
「いや、共感求められても。ヒナトは直接斬らなきゃっすもんね、おれは遠くから撃ってるだけでいいんで、あんま罪悪感とかは感じたことないっす。」
「ライリーって犯罪者嫌いだよね。」
「大嫌いっすよ。帝王の意思はおれの意思っす。」
「今じゃそんな人も少ないよ。私とコンラちゃんは進学が嫌で入軍したし。そういえば、ホマレ先輩は聞いたことないけど、どうなの? 」
「ホマレは…………」
言い淀んだライリに、ヒナトは申し訳なさそうに苦笑した。
「言いにくいならいいよ。本人から聞けばいいし。あんま仲良くないけど。」
「いや、別にそんな言いにくいもんじゃないっすよ。ホマレは昔、訳あって歳の離れた義理の姉さんと2人で暮らしてたんすけど、その姉さんが殺されちまって。」
「その恨み?」
「姉さん、ホマレを庇って死んだんすよ。それじゃないすか、自分も姉さんみたいに……的な。詳しい話は知らんすけど。
おれはそんなホマレが好きっすよ。てかそもそも、おれは帝王に仕えるために入軍したんじゃない、ホマレの後を追っかけてきたんす。」
「それは……聞いたことあるかも。ホマレ先輩って弟だったんだ、そんな感じしないね。」
「ホマレの姉さん……アサトさんっていうんすけど、彼女がまあ、怒りっぽくてズボラでヤニ中で、ヤバ女っした。ホマレの方が大人だったっす、普通に。」
「怒りっぽくて……ズボラでヤニ中………。ライリーみたいだね。ライリーすぐ怒るじゃん、しかも怒ったら止まらないし、怖いんだよねー。」
「アーッ、言われる言われる。怒ったら怖いってのはちょっとわかんないすけど、アサトさんに似てるとはよく言われるっすね、主にホマレから。冗談じゃない、コンラの方がまだ似てる。」
「あー、たしかに。コンラちゃんもすぐ怒るし、ズボラだね。お風呂入らないんだよなぁコンラちゃん。」
「ヤッベー。」
「ほんと。まじやばい、任務中なのにライリーと喋るの楽しいや。全員死んでる?」
「よしてください、ヒナト隊長。全員死んでるっぽいっす。」
「じゃあ行こうか、隊員B。」
「うっす!」
ヒナトとライリが地面の死体の山から顔を上げた時、階段の方から、ドタドタっと足音が聞こえてきた。2人の顔からスっと笑顔が消え、ヒナトは腰から刀を、ライリは拳銃をそれぞれ抜いて構える。
この2人は共に、縷籟警軍学校第300期の卒業生である。この年の特待生はこの2人のみだった、互いの動きは嫌という程理解し合っている。
ヒナトはライリの邪魔にならぬよう、射線に被らないように。彼女は度々、それを踏まえた上で、射殺してほしい敵へ射線を導くような動きをする。ライリはその意図を汲みつつ、間違ってもヒナトに銃弾が当たらぬよう、細心の注意をはらいながら正確に敵の脳幹を撃ち抜く。
(ライリーは察しがいい、ホマレ先輩の教育のかいあってだろうな。助かるって言うか、正直、コンラちゃんとやるよりやりやすい……!)
ヒナトがそんなことを考えてしまうほど、ライリの後方支援は力強い。彼とホマレは、ヒナトとコンラよりも後から特殊部隊に昇進してきたが、つくづく、彼らがここに来てくれて良かったと思う。
幸い、処理にそれほど時間はかからなかった。鼻を刺すような血液の臭いに少しむせながら、2人は顔を見合わせる。
「……なんかおかしくないっすか?異常に弱いっすね。てか、若え。」
「だね。下手したら学生もいるんじゃない?いくらなんでも……。」
縷籟警軍の最高戦力とはいえ、こんなにすんなりと集団戦をこなせることは少ない。
「数も少なくありません?マジで、変っすよ。」
「わたしあんまこういうこと考えるの得意じゃないんだけど、ライリー、どう?」
「どうって言われましても。戦力を小出しにしてる?いや、そんな無駄なことする必要は……」
言いかけた時、下の階から、パン!と大きな銃声が聞こえた。ライリは口をつぐみ、ヒナトを見る。
「ヒナト、今の……!」
「うん、コンラちゃんの。コンラちゃんが発砲するって………。 」
「少なくともおれは、この音、初めて聞きました。やばい……っよね、これ、ホマレが……!」
「うん。さっきの奴らが死んでるか、確認する暇はないね。」
2人はどちらからともなく、下の階を目指して、走り出した。
「ホマレ!」
発砲音に驚いたままのホマレに、コンラは慌てて駆け寄った。
「さっき〜、て、敵が〜、背後から……!だから〜ごめん、突然撃っちゃって〜。」
「コンラさん、落ち着いてぇ。」
「け、怪我はないですか〜。」
「お陰様で、ないですよぉ。」
「良かった〜。」
随分と慌てて撃ったものなので、間に合っていなかったらどうしようと心配したが、杞憂だったようだ。コンラはほっと胸を撫で下ろした。
「敵が多すぎたねぇ。コンラさんが撃ってくれなかったら死んでたよぉ。命の恩人ですねぇ、ありがとう。屈んでください。」
ホマレはニコニコしながら、コンラを振り返る。言われるがまま膝を折って屈むと、ホマレはコンラの頭をぽんぽん、と叩いた。
「え〜っ……?」
「あらぁ、ライリーはこれで喜ぶんだけどねぇ。」
「犬かよ……!ホマレの前でだけカッコつけるしいい子ちゃんですよね〜。」
「そうだねぇ。懐かれてるねぇ。」
「やっぱ〜犬じゃん〜。」
ホマレに懐くライリ……想像しただけで気持ちが悪く、コンラは「おえ〜。」とわざとらしく嗚咽した。そんな彼女を気にも留めず、ホマレは真剣な顔で辺りを見回す。
「やっぱ人多いなぁ。プリムラの全体の人数から見てもぉ、戦力を下の階に集中させたみたいだねぇ。捌ききれなかったのなんて初めてだぁ……あ、コンラさん!あれ、リーダーさんじゃないかなぁ?」
ホマレがてくてくと走っていく。「えっ、待ってよ〜」と追いかけると、そこに横たわっていたのは、細く若い青年だった。
「え〜……こんなのが〜?」
「うーん、多分そうだと思うよぉ。何となくだけどねぇ、わかるんですよぉ。この人だけまだ死んでないしねぇ。」
「え〜っ!?」
コンラは背を向けて逃げた。そんな彼女を見て、「ビビりすぎだよぉ」とホマレがクスクス笑う。
その時、こちらへ向かってくる足音が聞こえた。コンラはさらに驚き、咄嗟に銃を構える。ホマレは慌てる様子もなく、そっとドアの方を見つめた。足音は次第に大きくなり、ドアノブが捻られ、バン!と扉が開く。
「ホマレ〜!!無事っすか〜!!」
同時に飛び込んできたのは、ライリだった。彼はホマレを見るや否や、彼を押し倒す勢いで抱きつく。
「おぉ、また慌ててぇ、どうしたんですかぁ。」
「いやー、コンラの発砲音が聞こえたんで……何があったんかと……。」
「大した問題はないですよぉ。コンラさんがいないと死んでたけどねぇ。」
ホマレに抱きついたまま、ライリはコンラを睨む。
「なんで〜睨まれないといけないんですか〜。」
「あ?早口すぎて聞こえなかったっすね。」
「死、ね、よ!」
「コンラちゃん、死ねとか言わない。」
「ヒナちゃん〜!」
同じ扉からゆっくりと出てきたヒナトに、コンラは半泣きになりながら駆け寄った。ヒナトはへなへなとついてくるコンラを適当に躱すと、ホマレに近づいていく。
「こっから上は全部制圧しました。お怪我がなくて何よりです。」
「お疲れ様ぁ、ヒナトさん。そこに生きてるボスさんがいるんだけどぉ、彼以外は下も大丈夫ですよぉ。」
「えっ、生きてる!?」
「個人的に気になることがあるから生かしたんですぅ。」
ホマレは振り返ると、横たわったままの男に声をかけた。
「目的が気になるんだよねぇ。どうせなら教えてもらおうよぉ、どうして縷籟警軍を攻撃したのかぁ。」
男は喋らなかった。それどころか、目を開ける様子もない。
「死んでるんじゃ〜。」
「いや、死んでない。死んでる人間と死んでない人間の区別もつかねぇなら、この仕事向いてないっすよ。」
ライリは拳銃を抜いて、男の足に発砲した。すると男は痛がるような様子を見せ、やがて観念したのか、目を開ける。
「……どこまで知ってる。」
男は低い声で、縷籟語を流暢に喋った。ホマレはにっこりと笑いながら、淡々と答える。
「ユキという犯罪組織はご存知ですかぁ。」
「……質問を質問で返すな。」
「ライリー。」
パンと銃声が鳴って、男の足にもう1つ穴が空いた。ヒナトとコンラは顔を見合わせると、静かに後ずさる。
ホマレは笑顔を崩さなかった。痛みに目を閉じても、まぶたの裏に焼き付いたままの、おぞましくて高圧的な笑顔。これは単なる聴取ではない、拷問だ……男がそう理解するまでに、そこまで時間はかからなかった。
「……全て話せばいいんだろう。どうせ死ぬんだ、わかったよ。」
観念したように、男はボツボツと語り出す。
「ユキというのは、ユキゲシオアのことか。もちろん知ってる……我々“プリムラ・シネンシス”は、ユキゲシオアの後継のようなものだ。目的は、結果的なもので言えば、縷籟警軍の殲滅で間違いない。いや……縷籟警軍の殲滅は、目的に対する手段、という表現が正しいかも知れない。」
「どういう事すか?」
「……我々は、ユキゲシオア……そして、小城 桜人の意志を継ぐことを目的としていた。
ユキゲシオアは小城 葉一の逮捕後、1度解体されたが、元社員たちは力を合わせ、再び鄼哆の征服を試みた。そん時、ユキゲシオアの後継としてうまれたんが、“プリムラ・シネンシス”だ。
事は順調に進んだが……ある日、“とある男”に、元ユキゲシオア社員たちが皆殺しにされた。そいつはユキゲシオアに直接的な関わりのあった奴らだけを殺したんだ、俺みたいに、後からプリムラに入った人間は一切無視でな。誰だか、わかるか?」
「小城 蓮人っすか。」
「正解だ。俺は見てないが、酷かったらしいぞ……鄼哆王国に居座る奴にまともなんはいない。特にあの時期は国が荒んでいてな、住んでる奴らの心も荒んでた。しかし、ユキゲシオアの奴らは優しかったらしい。小城 葉一の圧力から開放されたあいつらは生き生きしてた、鄼哆に秩序と平和をくれたんだと。全員殺されたんだけどな、小城葉一の息子にな。」
「その復讐として、縷籟警軍に攻撃を?」
「いや、違う。言っただろ、俺たちは小城 桜人の意志を継ぐための組織だと。そう結論を急ぐな。
ユキゲシオアの連中はな、小城蓮人に殺された時……抵抗しなかったらしいんだ。なんでだと思う?」
先程までずっと男の質問に答えていたライリが黙った。男は「お前らなら分かるはずだ」と笑う。
「それはな……あいつらユキゲシオアにとって、小城 桜人っていう人間が、絶対的な“神”だからだ。桜人さんは……まあ、良い奴だったそうだ。ユキゲシオアの連中は小城 葉一の絶対的な権力に怯えてた、そんな中桜人さんだけは、ずっと社員たちに寄り添ってくれてた、とかなんとかなぁ。小城 蓮人を殺しちまったら、桜人さんに向ける面がねえだろ?
桜人さんへの信仰。それは俺たちの恩人が、命にかえても守ったもの。それを……曲げちゃいけねえと思った、顔も見たこと無ければ性格も知らん、しかし桜人さんってのは、俺たちにとっての世界なんだよ。彼の意思は俺たちの意思で、死んだユキゲシオアの連中たちの意思もまた、俺たちの意思だ。って、俺の先代の爺さんたちが言ってた、老衰で死んだぜ……強い人達だった。俺たちはそれを受け継いでる、桜人さんから始まった小城蓮人への思いがユキゲシオアに、ユキゲシオアから爺さんたちに、爺さんたちから俺たちに。」
「………」
言葉が出なかった。突っ立っている4人を見て、男は馬鹿にしたように笑う。
「おかしいか?くだらないか?でもな、お前たちだって同じだぞ。顔も名前も知らねえ帝王とやらを崇拝して、大昔の規則を盲目的に信じ込み、まるで正しいことをしているかのように人を殺しているお前たちと。自分たちの恩人が継いできた思いを胸に、お前たちに喧嘩を売り、信仰を守るために……“小城蓮人の大切なものを全部壊すために”戦う俺たち。何が違うんだ?どっちが悪者だよ?桜人さんは何も間違っていなかった!お前らと同じく、自分が好きな物のために人を殺しただけ!俺たちにとっての桜人さんは、お前たちにとっての帝王と同………」
興奮気味に大きくなっていく男の声を遮ったのは、銃声だった。2発、3発……男の体に次々と撃ち込まれていく弾丸に、3人ははっとして顔をあげる。
「……帝王と小城 桜人が同じだ?」
4発、5発……ライリは引き金を引く指を止めない。
「ライリー、やめなさい。」
「うるせーよ。」
ライリは銃をホマレに向けた。目の焦点が合わない……肩で息をしながら、手と一緒に拳銃がガタガタと震えている。
ホマレは動じなかった。彼は平然としたまま銃口を大胆に掴み、ライリの手から引っこ抜くと、壁に向かって投げ捨てる。
「やめなさいと言ったのが、聞こえませんでしたかぁ?もぉ、怒ると周りが見えなくなるのはダメな癖ですよぉ。欲しい情報は貰えたので構わないけどねぇ。次、訓練以外でぼくに銃向けたら殴りますからねぇ。」
ホマレはそう言いながら、ライリのポケットに手を入れて、タバコとライターを勝手に取り出した。そのタバコに火をつけ、ライリの口に突っ込む。
「はぁい、深呼吸。ヤニ吸ってぇ、煙吐いてぇ。」
ヒナトとコンラは声を我慢しながら笑った。よく見るとホマレも少し笑っている。
怒りと恥ずかしさで顔を少し赤くしながら、ライリは口に適当に突っ込まれた煙草を咥え直した。
「……キレちまった自分が悪いすけど、お前らバカにしすぎじゃないすか?」
「うるせーよ!だってー、はははっ。」
「ヒナちゃん〜笑いすぎだよ〜、はっはっ。」
「ふふっ……ちょっとぉ、ライリーは帝王をバカにされてガチめにプッチンきてたんですからぁ、バカにしちゃいけませんよぉ。ふふふ。」
「おれ、この部隊抜けようかな。」
やがてビルの周りに、縷籟警軍関係者の車が集まってきた。4人はビルから出て、迎えの車に乗り込む。
「今日はもう仕事なしっすか?」
ライリは運転手に訊いた。運転手は、静かに頷く。
何時間もある車移動の中、4人は喋らなかった。
「あ、わたしとコンラちゃん、ヴィアタンに用があるんだ。ここらへんで降ろしてくれますか?」
「こんなとこからヴィアタンに行くんすか?何時間かかると。」
「ここらへんに電車通ってるはず。時間はかかるけど仕方ないじゃん、会いたい友達がいるんだから。わたしとコンラちゃん明日も空いてるし、あっちに泊まるから、縷籟の治安はよろしくね。」
「よ、よろしくお願いします〜。」
2人は武器を車内に放り投げると、さっさと降りて、どこかへ行ってしまった。ライリはそんな2人を眺めながら、眉間に皺を寄せる。
「ちょっと先輩だからって調子乗ってませんか?あいつら。タフリナて基本緊急任務なのにそんな気軽に縷籟から離れて良いんすか?しかもヴィアタンって、かなり遠いとこにある島国っすよね?」
「まあまあ、仕方ないよぉ。ライリーとぼくで片付かない任務なんてそうないしねぇ。」
「そりゃそうっすけどね。」
気がついたら、窓の外には、いつもの桜並木があった。雪のように舞い散る桜を見ていると、なんだか気分が悪くなってくる。
「……ホマレ。縷籟警軍は、イカれてますか?」
考えるよりも先に、その言葉は口から出ていた。ホマレはライリの方を見てから、彼の隣に座り直した。
「人それぞれ、好きなものと嫌いなものがあるのは当たり前ですぅ。自分が大切にしているものを守れればそれでいいんですよぉ。ライリーの大切なものはなんですかぁ。」
「ホマレっす。」
間髪いれず返ってきた答えに、ホマレは飲んでいた水にケホケホとむせる。
「ぼくですかぁ。そうかそうかぁ。」
「おれが守らなくても死なないっすもんね、あんたは。」
「ぼくが守る側なのは否定しませんよぉ。」
車内は沈黙に包まれた。車の揺れる音だけが聞こえる。
「……ライリーは、ぼくを守っちゃダメですよぉ。もう、ぼくのために死なれるのは、御免ですからねぇ。」
返答に困ったライリは、そっと窓の外を見た。目を閉じると、陽の光で目の前が真っ赤になる。
そのまま微笑んで、ライリは言った。
「死なないっすよ、おれたちは。帝王のご加護がある限り。」
完結