テラーノベル
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藤白りいな…お転婆で学校のマドンナ。天然で、先輩や後輩など学校のほぼすべての人が名前を知ってる。
はるきと付き合ってる。海と仲が良いが、最近結構意識してる
天童はるき…ツンデレの神。りいなのことが大好きだが、軽く、好きなど言えない。嫉妬深い。
男子と仲のいいりいなが誰かにとられないかと心配してる。海に嫉妬中!
佐藤海(かい)…りいなのことが昔から好き。りいなと好きなど軽く言い合える仲。
結構チャラめ(?)デートなどはゲームだと思ってる
月下すず…美人だがなぜかモテない。はるきと海の幼馴染。りいなのことは好きだが、嫉妬中(?)
はるきと海のことが気になってるが、どちらかというとはるきのほうが好きらしい(?)
りいな目線
1階昇降口、開きかけた扉の外からわっと光が差し込む。 焼きそばの香りがまだ届かない時間帯。 けれど──校舎の廊下には、すでに何か始まりそうな音が流れている。
「海、台本持った?……また机に忘れてないよね?」
はるきが眉をひそめながら声をかける。 海は答えず、マイクテスト用の台詞を口の中でぼそぼそ唱えていた。
その近くでは、すずが髪のリボンを結び直している。 鏡代わりに使っているのは、教室の窓。
「……はるき先輩、今日の衣装、ちょっと、かっこよすぎないですか?」
誰も聞いていないようでいて、 その言葉にかいは小さく笑ってから、プリント束を配り始める。
校内放送が流れはじめる。 「本日は文化祭です──皆様、お足元に気をつけて」
その言葉のバックで、誰かの足音が走り去る。 誰かが、ちょっと大きめの声で「頑張ってね」と叫ぶ。
そして、りいなは自分の衣装の裾をそっと握りながら── この日が、何かを変える気がしていた。
「……今日だけは、自分に嘘つかないって、決めたから」
そう言って、扉の向こうへ歩き出す。 彼女の後ろ姿を見ていた海が、小さくつぶやいた。
「……舞台より、あの瞬間のほうが、輝いてるかもな」
すず目線
すずは衣装のリボンを結び直しながら、目線をちらりと右に送る。 そこでは、りいなが台詞練習をしていて──その隣には、はるきが座っていた。
はるきの声が低く響く。
「ここの“忘れない”って言葉、もう少し溜めてもいいかも」
りいなは小さく頷いて、笑う。 その笑顔に、すずは指先のリボンを強く引いた。
(いまの“ありがとう”の笑い方……私にはしたことないのに)
鏡の自分に向かって、すずはそっと口を動かす。
「本番で、ちょっと、誰よりも綺麗に泣いてやるんだから」
海目線
かいはスタッフ台本をめくりながら、ポケットの中の紙を指で探る。 くしゃっとしたミニサイズ──誰にも見せてない手紙。
「がんばれって、誰かに言いたいくせに、言えなくて書いた紙。……誰に渡すか、まだ決めてない」
その隣を、海が通り過ぎる。 何も言わず、肩を軽くたたいてくれる。
かいは笑って、メモの文字をもう一度見つめた。
「演劇部の星って書いたけど……こんな紙、りいなは読んでくれるかな」
そっと、台本の一番後ろに挟み込む。 誰にも見つけられない場所に。
りいな目線
衣装のポケットに、薄く折られた便箋が入っている。 昨日の夜、部屋で一人で書いたもの。 相手の名前は書いてない。 それでも、宛先はただ一人に決まっていた。
「“私は、あの波を覚えてる。助けてくれたことも、目を逸らさなかったことも──ありがとう”」
筆跡は震えていた。 何度も書き直した、最後の一文。
「“この気持ちはまだ誰にも渡さないけど、本番で……ヒントを出すね”」
舞台の直前、りいなは便箋を抱えて一人立つ。 そして、その手紙を──スタッフロッカーの中、名前のない封筒にそっと入れた。
舞台が始まった
舞台の背景は、光を受けてきらめく海辺のパネル。 波の音がスピーカーから流れ始め、ゆっくりと照明が暗転から青白い光へ切り替わる。
中央に、りいなが立つ。 白いワンピースの裾が、海風のように揺れている。 一歩、前へ踏み出し──静かに語り始める。
「わたしは、あの日の波を、忘れてない。 全部流されたのに、…なぜか、あなたの手だけは残ってた」
観客が息をのむ。 台詞に続いて、はるきがゆっくりと舞台の右手から現れる。 制服の袖を少しだけまくって、視線はまっすぐ。
「それは、忘れてほしくなかったから。 嘘でもいい、残っていたかった──俺の気持ちも、波にさらわれる前に」
海の声が舞台裏から重なる。 彼の台詞は、光の差し込む窓のそばで語られる。
「もし、忘れてもいいって言ったら、どうする? 君の涙より、忘れようとする努力の方が…俺は、痛かった」
観客の空気が、静かに揺れる。 舞台は、三人の記憶と波が交差する“夏の約束”に染まっていく。
──その袖口では、すずが静かに登場を待っていた。 手に持つ小道具の手紙、 その中身が──今も彼女の胸の中を刺していた。
舞台の左側── 波の音が静まり、りいなの言葉が場を包んだあと。 そこに一人の少女がゆっくりと現れる。
すず。 髪に海色のリボンをつけて、小道具の封筒を手に持っている。 彼女の表情は、微笑みながら、どこか張り詰めていた。
「それが……本当に残したかったもの? ただ“忘れないで”って言われても、誰を忘れないかは、選ばなきゃいけないのに」
舞台中央でりいなが向き直る。 観客には見えない、小さな息。
「選んだつもりなんて、ない。 波にさらわれそうになったのは、わたしだけじゃないから──あなたも、そうだった」
すずは一歩、踏み出す。 手に持つ封筒を見せてみせる。
「じゃあ、これは? “ありがとう”の代わりに、“残した”ものだって、信じてるけど── 本当は、誰宛てなの?」
その言葉に、袖にいたはるきが一瞬だけ動きを止める。 海は照明を調整しながら、舞台をじっと見つめていた。
「封筒の中にあるのは、感謝じゃなくて、ためらいかも。 でも、誰かに見つけてもらいたかったよね──誰か、一人に」
りいなは視線を下げる。 でも、その声ははっきりしていた。
「それでも、私は……今日、自分に嘘つかないって決めたの。 届かなくても、出す。伝わらなくても、叫ぶ── それが、“選ぶ”ってことだから」
すずは、ほんの少しだけ、唇をかむ。 そして、笑う。 ちいさく、切なげに。
「なら、わたしも。 “選ばれなかった”ことを、演じてみせる。 本番の涙って、練習じゃ流れないものだから」
照明が少し揺れて、次の場面に切り替わっていく。 二人の少女の“波”が、静かに交差したまま、幕は続いていく──
舞台が暗転し── 次の場面では、浜辺のセットにベンチが一つ置かれている。 はるきが、一人で座っている設定。 光は弱く、彼の表情は隠すように伏し目。
(……“選ばれなかった”って、言ったよな、すず)
彼の台詞は語りかけではなく、独白。 観客にも、舞台袖の仲間にも、届くぎりぎりの距離感。
「そんなふうに、言わせたのは……俺なのか? 誰にも、“選ぶ”なんて言えなかったくせに」
場面が動く。 風の音が入り、照明がすこしだけ強まる。 袖から海がそっと現れ、ベンチの横に立つ。
海はまだ台詞に入っていない。 けれど──その視線がはるきの揺れを見抜いていた。
「……はるき。台詞、飛ばすなよ。 波に流されたら、俺まで泳がされるじゃん」
はるきは肩をすくめて、少し笑ってみせる。 だけど──その目は笑っていなかった。
「……すずが、封筒を持って出てきたとき、 一瞬、あの便箋が見えた気がしたんだ。 それがもし、りいなのじゃなかったら──って思ったら、動けなくて」
海は黙って、はるきの肩に軽く手を置く。
「お前、見えてるけど見ないフリするクセ、まだ治ってねえのか」
その言葉に、はるきは息を止める。
「本番で何か届くなら、ちゃんと受け取れよ。誰かじゃなくて、お前が、な」
照明が再びゆるやかに切り替わる。 ベンチから立ち上がるはるき。 その動きの中に、少しだけ覚悟が混じっていた。
「……演じるだけじゃ、終われない気がする。 本番って、誰かを“選ぶ”瞬間なのかもしれない── それが、たとえ痛くても」
波の音が戻る。 次の場面へ向けて、舞台は静かに変化していく。
背景は夕暮れに変わった浜辺。 りいなは、一人で手紙を持って立っている。 その背後から、はるきが登場。
台本上では、はるきが“過去の後悔”を語る場面。 でも──彼は台詞の途中から、書かれていない言葉を紛れ込ませ始める。
「あのとき、手を伸ばすことはできた。 でも、怖かった──君が、誰かをもう選んでしまったんじゃないかって」
観客が静まり返る。 舞台袖でも、スタッフが顔を上げる。
「俺が見てたのは、波じゃない。 忘れられるかもしれないっていう、不安。 君が誰かに“ありがとう”って笑ったことが……俺の中じゃ、一番の嵐だった」
海が照明調整に一瞬戸惑う。 かいが、台本にない台詞に気づき、そっとメモを握りしめる。
りいなは、舞台上で目を見開く。 はるきは、演技を崩さずに──でも声だけが揺れていた。
「誰かに“本当にありがとう”って言うなら…… 今日だけは、俺にも、それをくれよ。 本音じゃなきゃ、意味がないって……ようやくわかったから」
舞台は静かに暗転へ。 最後の台詞が、観客の胸に残ったまま、場面は次へ繋がる。
告白の台詞が終わり、照明が静かに落ちた。 一瞬の暗転。 波の音だけが、遠くで淡く流れている。
──その沈黙の中、最前列の女子が、隣に座る友達の袖を引いた。
「ねぇ……いまのって、台本通りだったの?」
友達は目を見開いたまま、そっと首を振る。
「……はるき先輩、泣きそうだったよね。声、震えてた…」
三列目の男子が、プログラム冊子をめくる。 はるきの名前の隣に書かれている“真剣な眼差し”という紹介文を見て、ぽつりとつぶやいた。
「……演技っていうより……“好きです”って聞こえたな、あれ」
観客席後方、保護者の席では、お母さんたちが目を合わせて笑っていた。
「青春って、すごいねぇ。あれ、本物でしょ」 「最後の“くれよ”って言い方……あんな声、大人には出せないもん」
そして、中央の列。 すずの友達が、少し口元を噛みながら舞台を見つめていた。
「……りいな、答えたよね。 台詞の中で、ちゃんと。 “伝わらなくても、叫ぶ”って──それって、届いたってことでしょ」
誰も拍手をしていない。 でも、舞台が終わっていないとわかっているのに、 もう“心のクライマックス”が訪れたような空気だった。
まるで、 本物の夏の海辺で、誰かの気持ちが本当に届いた瞬間を見たような──そんなざわめきが、観客席を静かに揺らしていた。
波の音が消えていく。 舞台は、ほぼ暗転。 スポットライトだけが、りいなを照らしている。
彼女は、一枚の便箋を胸元に持っている── それは小道具として渡された“手紙”のはずだった。 でも、紙の折り目は台本よりも柔らかくて、文字の匂いがする。
客席は、静まり返っている。 台詞の予定はここで終わっている。 でも──りいなは、一歩だけ前に進む。
そして、声を震わせずに、言った。
「……今日のわたしを、 本物だったって、信じてくれる人がいたら……ありがとう」
それは、劇の中の誰に向けたものでもない。 でも観客席にいた、誰かには届いた。 すずはその言葉に、そっと目を伏せる。 はるきは動けなかった。 海は、照明をわずかにずらした。 かいは、配役表をぎゅっと握った。
──誰もが、誰かに向けた言葉だとわかっていた。 だけどその“誰か”の名前は、 りいなしか知らない。
舞台がゆっくり、完全な暗転へ。 波のない浜辺に、灯る一言だけが残されていた。
🕐投稿時刻:16:47 📍位置情報:○○高校 第2講堂 📱ユーザー名:@yu_minori
🌸本文:文化祭の演劇、 最後にりいなちゃんが言った「ありがとう」が…… ぜったい“台詞じゃなかった”気がする。
わたしの隣の友達も、泣いてた。 誰に言ったんだろ。 でも、聞いた人にはきっと届いてて、 それが“舞台の奇跡”だと思った。
📷写真:客席の端から撮った、スポットライトの消えかけたステージ 💭タグ:#波打ち際の約束 #文化祭演劇 #これが青春かもしれない
投稿にいいねが少しずつ集まって、 そのコメント欄には──
「え、私も同じとこで鳥肌だった」
「“あれ”を聞いた人の顔、みんな変わってた」
「はるき先輩が途中で泣きそうだったの、やっぱ本物かも」
静かな言葉が連なっていく。 舞台が終わっても、誰かの感情はまだ終われなくて、 SNSという波に乗って、“りいなの一言”はどこまでも流れていった。
すず目線
文化祭の終演後。 すずはひとり、校舎裏のベンチに座っていた。 リボンを外して膝に置き、そっとスマホを開く。
指が何気なくSNSアプリをタップする。 「#波打ち際の約束」──検索バーにそう入れたのは、 きっと、自分の演技を誰かがどう思ったか気になっていたから。
投稿一覧。 チラチラ流れていく言葉の波。
その中に── 目に留まった、あるひとつの投稿。
“最後にりいなちゃんが言った「ありがとう」が…… ぜったい“台詞じゃなかった”気がする。”
すずは画面をスクロールする手を止める。 目を伏せたまま、再びその一文だけを見つめた。
(台詞じゃなかった…… じゃあ、それは──誰に?)
その下のコメント欄。 「はるき先輩、泣きそうだったよね」 「本物って、ああいうことなんだ」
すずはスマホをそっと胸元に引き寄せる。 冷たい風が少し吹いた。
(あの一言が、 劇の最後じゃなくて──誰かへの本当だったなら…… 私は、どこにも立ってなかったのかもしれない)
その気持ちを、誰にも見せないまま。 ベンチに座ったすずは、少しだけリボンを握りしめていた。
そして、心の中で、 誰にも届かない“もうひとつの本音”が波のように打ち寄せていた。
海目線
文化祭が終わって、校舎をあとにしたかいは、商店街のベンチで一息ついていた。 スタッフ用のプリント束をバッグに突っ込んで、 スマホを取り出す──まぶたが少し重たい。でも、まだ“終わった”って感じがしなかった。
SNSをなんとなく開いて、 「#波打ち際の約束」を検索してみる。
(きっとみんな、演出のこととか照明のミスとか、コメントしてるんだろうな)
けれど──目に留まったのは、ひとつの投稿。
“最後にりいなちゃんが言った「ありがとう」が…… ぜったい“台詞じゃなかった”気がする。”
かいは一瞬、指を止める。 スマホの光が夕暮れの空に溶けるように、静かに広がっていく。
投稿に添えられた写真には、 舞台上に立つりいなが、スポットライトに包まれていた。
(……やっぱ届いてたんだ、あの一言。 本人は“役”を守ってたつもりでも、誰かには見抜かれてる)
スクロールすると、他にも似たような感想がちらほら。
「涙ぐんだ先輩がいた」 「すずちゃん、綺麗だった」 「あれ、青春の“本音”だったかも」
かいは、ちいさく笑った。
(みんな、演劇の“後ろ側”を知らないままに、でもちゃんと感じてる。 それが、なんだか嬉しい)
そして──ふと思い出す。 あの幕間に、自分がこっそり挟んだ“メモ”。 りいなの台本の最後のページ。 中に、まだ気づいてないかもしれない紙切れがある。
(……あの紙、見つけてもらえなくてもいいって思ってた。 でも、もしかしたら──“届いた”のは、自分のじゃなくて、あの一言かもしれない)
風が少し吹いて、 かいはスマホを閉じる。 そして、心の中で、ひとことだけ。
「役を超える瞬間って…… 本番の、ほんとの意味だよな」
すずと海
夕方。校舎脇のベンチ。 文化祭が終わって、夕焼けが少し冷たくなってきた頃。 すずはスマホを眺めながら、息を吐く。 すぐ隣のベンチには、かいが座っていて──でも、互いに言葉はなかった。
画面には、あの投稿。
「最後にりいなちゃんが言った『ありがとう』が…… ぜったい“台詞じゃなかった”気がする。」
すずは視線をスマホから外して、ぽつり。
「……みんな、あれに気づくんだね。」
かいはちょっと間を置いてから、答える。
「気づくっていうか……刺さるよね。言葉って。」
沈黙。 でも、どこかその沈黙が「避けようとしてる」わけじゃない。
すずは、リボンを指先でくるくると巻きながら言う。
「“ありがとう”って言われたのが、わたしだったら、良かったのになって…… ちょっとだけ思っちゃった。」
かいはその言葉にすぐ返事はしなかった。 でも、すずのほうを向かずに、静かに言う。
「それ、ちょっとだけ、じゃないでしょ。」
「……うん。ちょっとだけにしてるのは、こっち。」
風が吹いて、ベンチの間に落ち葉が転がる。 かいはスマホを取り出して、指を止める。
「その投稿、さ。 俺もさっき読んだんだけど──すずが見てるって、何か…不思議。」
すずは、ふっと笑った。
「“本物だ”って言われると、自分が舞台にいなかったみたいな気分になるんだよね。」
かいはうなずく。
「でも、それでもすずが出てるって、誰かはちゃんと見てたと思う。」
「そういう人が、見つけてくれるといいな。」
また、沈黙。 でも、少しだけ距離が近づいた気がした。
──もう少しだけ、夕焼けの残る空。 ベンチの会話が、少し止まったあと。かいはバッグの中をガサゴソと探って、折りたたまれた紙を取り出す。
「これさ……メモ。 舞台の前に書いたんだけど……結局、渡せなくて。」
すずは紙の端に目をやる。手書きの文字。角を折ったクセのある形。
「りいなに、渡すつもりだった?」
かいはうなずいた。ちょっと苦笑して。
「渡したら、変に思われるかなって思って…… 本番の前、緊張してて。 でも、言いたかったことがいっぱいあって──」
すずは黙って、紙を見つめた。 その手に触れることはなくて、ただ視線だけが文字を追う。
「見せてもいい? 中身。」
かいは一瞬ためらったが、すずの表情を見て、うなずく。
「……“あの瞬間だけ、全部が本物だった。 誰かに伝えたかったのは、照明の中にいた君の、目の揺れ。”」
すずは、ちいさく息を呑んだ。
「……それ、言葉にしちゃうと、すごく…切ないね。」
「うん。でも、見てたんだ、俺は。 みんなが歓声あげてる中で、りいながちょっとだけ迷ったみたいな顔してたの。」
「誰も気づいてないと思ってたかも。 でも、かいは見てたんだ。」
沈黙。 すずの顔はどこか遠くを見ている。 かいの声は、静かで、でも芯がある。
「たぶん、あの“ありがとう”の後ろに、色んなものがあったと思う。」
「……そういうの、メモにしちゃうの、ずるい。」
すずの声は、少し震えていた。 それを隠すように、笑ってみせる。
じゃあ、今度は私にも書いてよ。 舞台の外の、目の揺れを──ちゃんと、見てくれてたなら。」
りいな目線(?)
教室の窓から漏れる音楽と笑い声。 すずが校内マップを片手に提案する。
「ねえ、せっかくだから色々回ろうよ。演劇も見たいし、フォトスポットもあるし──」
「お化け屋敷は絶対最後にしてほしい…」 りいなはもう顔に“無理です”って書いてあるような表情。
かいはすずのとなりに立って、あちこちのブースを眺めていた。 はるきはりいなにちょっかいを出しつつ、前を歩く。
4人の関係性が絶妙な距離感で揺れている。 でも、文化祭という空気が、それをふんわりと包んでいた。
「りいな、このドレス似合いすぎでは…」 すずは思わず見惚れてる。
「すずの王子服のほうがやばいでしょ…てか、なんで私だけ姫なん!?」 りいなのツッコミに、かいとはるきは笑ってる。 でも、かいはすずの横顔に、ほんの一瞬だけ目を留めた。
占いカフェでは──
「あなたは“揺らぐ三角関係の中心”ですね…」 占い師のセリフに、りいなは真っ赤になる。
「……なんの暗示?!」 すずも横でふき出す。
かいとはるきは目を合わせず、それぞれ少しだけ黙った。
午後4時、旧校舎前。 「本気すぎるお化け屋敷」──その名の通り、校内でも評判の恐怖ゾーン。
りいなは既にすずの腕を掴んでる。
「最後にしよ?やっぱやめよ?いや、行くけど……」 言いながら一人で小さくうなずいたり首振ったりしてる。
「りいなさん、情緒どこ行った?」 かいがすっと後ろに回り込んで、わざと低音ボイスで耳元に。
「いま君の後ろに、霊が──」
「やめてぇぇ!!!」 りいなはすずにしがみつきつつ、かいを全力で叩いてる。 すずとはるきは笑いすぎてしばらく進めない。
中は真っ暗。 踏み出すたびに床が軋み、仕掛けが鳴る。
かいは懐中ライトを逆に顔に当てて「怖い話タイム始まりました~」とやり始める。
「本日ご案内するのは、孤独な文化祭幽霊ちゃん。 彼女はリア充カップルを見つけては、引き裂こうと──」
「かい、黙ろ?」 はるきが冷静に止める。すずはその隣でくすっと笑い、りいなはかいのシャツを掴みっぱなし。
でも──それでも、怖さが勝つ。
最後の部屋。 「この鏡は、内心にある“秘密”を映します」と書かれた看板。
りいなはちょっとだけ前に出て、鏡を見つめた瞬間──
ぐぐっ…と音を立てて、鏡の裏から白い手が飛び出す。
「──っ!!!」 悲鳴も出ないほどびっくりして、りいなは咄嗟に、かいに飛びついた。
がっつり抱きついて、顔まで埋める。
数秒の沈黙。 かいは硬直…かと思いきや、
「……これが霊の引き裂きの瞬間ってやつですかね~?」 照れ隠しか、急に軽口を叩く。
でもその声がちょっとだけ震えてるの、すずは気づいてた。
出口。 明るい光に目が慣れてきた頃、はるきがぽつり。
「てかさ、俺の方が隣だったよね?」
すずは笑いながら応える。
「完全にかいに飛んでった。はるきは背景。」
はるきは肩をすくめて、わざとらしく言う。
「背景って言った?背景って。 じゃあ俺、お化けの役で出ようかな。次は驚かせる側で。」
りいなは真っ赤になったまま、
「ちがう!ほんとにびっくりしてて…!誰がどこにいたとかもう…っ!」
かいは少し離れたところでジュースを開けながら、
「でも、霊から守る係って案外悪くなかったなぁ~」
「ちょっと得意げなのやめて」 すずがツッコむけど、目の奥はほんの少し揺れている。
文化祭の人混みに、笑い声と嫉妬の匂いが少しだけ混ざっていた。 りいなは内心で──「次ははるきの隣になろうかな」と思ったけど、 それを口に出すには、まだちょっと時間が必要だった。
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