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〖アイビー〗
# 12
〔 青空視点 〕
玄関の鍵を開けた瞬間、
電気が点いてるのが見えた。
…あ、起きてたんだ。
ソファに座ってる背中を見て、
胸の奥がちょっとだけ、ちくっとする。
『なるあ、ただいま』
「……おかえり」
いつもと変わんない声。
怒ってる感じも、責める感じもない。
ほっとして、鞄を置きながら笑う。
『起きて待ってたの?』
『寝てても良かったのに』
言った瞬間、
成亜の肩が、ほんの少しだけ揺れた。
……ぁ、これやばッ…
『ぇとっ…いや、ッ』
『責めてるとかじゃなくてさ』
慌てて言い足す。
『連絡もいっぱい来てたから』
『無理して起きてたのかな〜って思って…』
沈黙。
振り返った成亜の顔は、
怒っても、泣いてもなくて。
ただ、何かを決めたみたいに静かだった。
「……なぁ、そら」
静かに名前を呼ばれて
ひゅっ、っと喉が小さく鳴る。
呼び捨てなんて、されたことない。
「なるが連絡したん、迷惑やった?」
『え、いや別に?』
即答。
連絡くれたのは、嬉しいと思ったから。
『心配してくれるのは嬉しいし…』
『でもさ、そんな気にしないでって言ったのに〜』
軽く、
ほんとに軽く言っただけ。
……なのに。
成亜の表情が、
ゆっくり、ゆっくり崩れた。
「……そっか」
笑った。
笑ったけど、
目が、全然笑ってない。
「連絡、ちゃんと気づいてたんやな」
「気にせんでええんやな」
「なるの気持ちも、待っとった時間も」
『ぇ、や、ちがッ』
遮るみたいに、
成亜の声が重なる。
「なぁ、知っとる?」
「なる、ずっと時計見よったんよ」
胸が、嫌な音を立てる。
「起きて待つんは重いって」
「自分に言い聞かせながらさ」
一歩、近づかれる。
「連絡しすぎたら嫌われるって」
「ずっと思っとった」
……やばい。
初めて聞く声色。
何か言えば、まだ戻れた気がした。
指先が、空を切った。
なのに、何も掴めなかった。
「それでもさ、帰ってくる音、何回も想像してもうてん」
いつもの成亜で、笑う。
でも、声は震えてて
目は僕をみてない。
「これ、食ってや」
「バレンタイン」
差し出されたのは、イチゴのクッキー。
成亜が、作ったやつ。
さく、っと音がして、甘い。
ちゃんと、イチゴの味がした。
『……おいしい』
言った瞬間、
「…よかった」
成亜の指が、僕の手首をそっと掴む。
離さない。
ただ、触れてるだけ。
「これ、つけてや」
小さな箱を開けると、
細いチェーンのブレスレット。
「なるが選んだやつ」
「ずっと、つけとってな」
外せとは、言われてない。
でも、
「……外したら、わかるから」
笑顔のまま、言った。
なんで、急に?
って、思ったけど、言葉にできなかった。
言葉が喉に張り付いて出てこなかったから。
成亜が、今にも壊れそうなくらい
泣きそうな顔してた。
「なぁ、考えもしてへんやろ」
「なるはずっと、待っとったんやで?」
成亜は止まらなかった。
僕は、口も、目も、なにも動かせない。
「好きになっただけやのに」
「なんでこんな我慢せなあかんねん」
成亜は、苦しそうに目を伏せて。
『なる、あ…』
呼んだ瞬間。
「なぁッ!!」
初めて、声が荒れた。
「なる、いつ本音出してええん!?」
空気が、張り裂ける。
びりびりと、圧迫された空気が僕を潰そうとする。
「大丈夫なフリして」
「全部飲み込んで」
成亜が、息を吸って、吐いて。
僕は思わずぎゅっと固く握った手に、爪が食い込んで。
「それでも好きでッ」
「なる、重くないやんなッ!?」
「なんでッ、我慢せなあかんねんッ!!」
息を吸って、吐けなくて。
想像もしなかった、成亜の本音を、夢だと思いたかった。
「言わへんかった俺が悪いんよな」
「勝手に期待した俺が悪いんよな」
「好きになった俺がッ…」
「全部全部ッ、俺が悪いんよなぁ!!」
「なぁそらッッ!!」
言葉が落ちたあと、
部屋は、異様なほど静かになった。
成亜は止まらなくなったみたいで、泣き続けて。
…僕のせい、だよね。
……僕は、 何も言えなかった。
ただ呆然と、成亜をみて。
いや、今にも消えちゃいそうな成亜から、目を逸らせなかった。
自分が、何を踏み抜いたのか。
……成亜に、伝えなきゃ…
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こげ丸