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フォロー失礼します!
目覚めたら、下着姿だった。
(あれ?これ昨日買った下着)
となりには蔵馬が横になってこちらを見ている。
「起きた?」
「く・・・蔵馬」
「酷いよ、先に寝ちゃうなんて」
「あ・・・」
昨日洗面所で寝ていたんだった・・・と海は思い出した。
「今日は昨日の分も・・・だからね」
「え?」
海には嫌な予感しかしない。
下着の上から服を着て、朝食をつくる。
今日は和食。
豆腐とわかめのお味噌汁の匂いが部屋にたちこめる。
「「いただきます」」
と手を合わせて食べ始める2人。
いつものように、蔵馬はいったん実家に帰っていってしまった。
海は仕事用の服に着替えて、蔵馬を待つ。
チャイムが鳴る。
(今日は早いな)
そう思って玄関の戸を開けると、美人が家の前にいた。
「家、間違っていますよ?」
と言いたかったのだが、
「あなたが蔵馬の今の女?」
と、言われてドキとした。
「私の名前は美鈴。蔵馬の最後の女ってところ。噂を聞きつけて人間界まで来てみたら、彼。全然昔と変わっているんだもの。びっくりしちゃったわ」
「はあ」
としか言いようがない。
「あなたのような女は好みではないけど、人間界で生活するようになって好みも変わったのかしらね?」
美鈴は海の体をなめるように見た。
彼女は服の上からでも分かる。胸も大きくて男性を魅了するプロボ―ションを持っている。
「じゃあ、蔵馬によろしく」
そういうと彼女は海から去っていった。
そのあと、車で迎えに来た蔵馬は
「彼女、ここにも来たのか・・・」
と言っていた。
「あの人、昔の蔵馬の彼女さん?」
「いや、仕事関係で付き合っていた女だよ」
「そう」
「海、言っておくけど恋愛感情はないから」
「昔のことだもの、私には何もいう権利はないよ」
その言葉に蔵馬は黙った。
その日の夜は激しかった。海は黙ってされるがまま、我慢している。
夜中の3時ごろようやく解放。
「うちに帰ってやりたい仕事があるんだ」
と言って蔵馬は家に帰ってしまった。
海はそのままベットで寝てしまう。
「営業の南野チーフ。○○会社の契約取れたらしいわよ」
「凄いじゃない!今度こそ主任に昇進ね」
「実力的には主任だったしね」
そんな声を会社で聞いた海。
(そんな話、知らない)
最近、うちに来たら行為ばかりでちゃんとした会話をしていなかったのだ。
メールで”今日は送ってあげられない”ときた
”分かった”と返事を返す。
打ち上げとかだよね・・・。私は違う部署だし。仕方がないな。久しぶりにパッチワークでもやっていようか。
そう考えると、海は久しぶりにパッチワークの道具を取り出しやり始めた。
そこにチャイムの音がする。
出てみると今朝の女性。美鈴であった。
「蔵馬の妖気が染みついている。よっぽどあなたのこと好きなのね」
と言った。
「さあ」
美鈴にそう答えた海。
「今日、蔵馬は来ないの?折角昔の話でもしようかと思ったのに」
「他の人と飲んでいると思います」
「へえ、そういうところは昔と変わらないのね」
「そういうところ?」
「女より仕事。当たり前だけど」
「真面目だから・・・。」
「真面目?狡猾といったほうが近いけど」
「狡猾?」
「彼に狙われたら、逃げれないってこと。事実、どんなに守りの固い国だって仕留めていたもの」
「仕留めるって?なにを仕留めるの?」
「え?金や宝石、または妖怪よ」
「意味がわからないわ。蔵馬はー」
「盗賊よ。盗賊の首長。極悪非道と言われるほどで、彼に逆らうものはいなかったわ。仕事が上手くいったら女を求めていたけど。あ、私は違うわよ。そういう女じゃなくて、蔵馬とはウインウインの関係」
「嘘!そんなことできるはずないもの。蔵馬は」
「人間ってのんきね。魔界ってところは食うか食われるかなの。そのへんのところを理解してあげないと蔵馬に振られるわよ」
「そんなことどうでもいい。蔵馬がそんなことをしていたなんて・・・」
「そんなにショックだった?じゃあ別れれば?蔵馬に人間の女はふさわしくないわよ。人間なんて100年も生きられないでしょ?ましてや、その姿では10年ってところがいいところだし」
ーバタン
と、車の音。
「あら、蔵馬だわ」
ガチャ
とドアが開き、蔵馬が入ってきた。
「・・・なんでここに?」
「いちゃ悪い?私も旅行しているの。最近魔界では人間界を旅行するのが流行っているのよ」
「ここにはこないで欲しかったな」
「いいじゃない。私もあなたに会ってみたかったんだから」
「この前、会っただろう?」
「もっと話をしていたかったのよ。だって蔵馬なんにもいわずに行方知れずになっちゃったんだもの」
「もう、彼女には近づかないでもらいたい」
「別に仲を壊そうなんて思ってないわよ。その女が好きなんでしょう?なら私がいようがいまいが関係ないじゃない」
「2人とも出て行って」
海が言った。
「海。言ったよね。彼女に恋愛関係は持っていないと」
「そうじゃないの、今日は一人でいたいの」
「何故?帰ってくるのが遅かったから怒っているの?」
「そんなことじゃないの。言ったでしょ?一人になりたいって」
「一人にはするけど、外で待っているよ。それならいいだろう?」
「辞めて。明日は1人で会社に行くわ。暫く蔵馬には会いたくないの」
蔵馬はため息をついて、ドアに向かった。
「美鈴。お前もここから出ろ」
「分かったわよ」
と言って2人は出て行った。
その後、海はパッチワークの仕上げにはいっていった。
次の日、久しぶりに早くに出てバスに乗った。
この間借りた小説を読む。
朝早くの会社には、誰もいなかった。
屋上で仕事が始まるまで、海は本を読んでいようと決めて屋上に上がっていく。
するとベンチに蔵馬が座っていた。
「おはよう」
「・・・おはよう。早いのね」
「昨日は問答無用で返されちゃったからね。話をしたくって」
「私も。蔵馬の口からききたかったの。昔、盗賊だったって本当?」
「・・・本当。樹利亜が亡くなってからね」
「殺したりもしてたっていうのも、本当なの?」
「本当。そういう商売なもので」
「なんで、そんなことしたの?」
「それは、説明しなくっちゃいけないこと?」
「説明は不要なの?」
「そうだね。今のオレはやっていないんだし」
「そう。私、蔵馬と別れることにした」
「それはオレが悪いの?海にとってオレってそんなもの?」
「違う。すごく大切な人だった。だから別れるの」
「大切って、全然大切にされているようには思えないな。でも、海が別れたいっていうなら別れる?」
海は頷いた。
「じゃあ、海が納得する男でも見つけられるよう祈っているよ」
そう言って蔵馬は去っていった。
それから1カ月。
蔵馬に会うことはなかった。
海は遅いバスで帰るため、いつもの本屋さんにいた。
「うわっ、ごめっ」
海の前にドサドサと散らばる参考書。どうやら高校生らしい。
「大丈夫?」
落ちていた参考書を拾ってあげる。
「ありがとうございます。買いすぎかなぁ」
「確かに多いかもね。受験生さん?」
「そうです。これから冬に向けて追い込み時です」
「そう、頑張ってね」
「はい」
少年はレジに向かう。
大学受験か~。海は羨ましく思った。海にしたら就職活動で慌ただしかったあの時。
海は今でも蔵馬のことを考える。
彼にあう女性。それは人間でないことが第一だろう。いくら仲が良くたって人間のほうが先に終わりがくる。向こうは結婚なんて考える必要がない。
あとは寝ることが好きな女性。海は結局、苦痛なだけで、つきあうのに疲れてきていた。
あれが愛だというなら、必要ない。
その2点で自分は付き合えないと判断したのだ。勿論、過去のことが気になると言ったら嘘になるが。小さい時から一緒にいたのに、自分は彼のことを全く理解していなかった。というのが悲しい。
バスがきた。
遅くに帰る家は、とびきり静かだ。
夕食は作る気になれない。1人だと面倒なのだ。仕方がないので、近くのコンビニでパンでも買って食べた。
そして昨日のパッチワークの続き。
そう、蔵馬と付き合う前の生活に戻った。ただそれだけのこと。
出会わなければ、こんな思いしなかったのに・・・。現実の恋人と昔の兄弟を亡くした気持ちだ。どちらもとても大切だったのに。
下腹部がぽこぽこする。
何か変なものでも食べたのだろうか?
最初は気にも留めなかったが、くるはずの生理がこなかった。最初はずれただけだと思ったが、1週間予定が狂ったとき海は産婦人科に行くことを決意。
ピルは飲んでいたし、蔵馬も避妊はしてくれていた。なのに?
「海ちゃんが、用事なんて珍しいね」
「休むの初めてじゃない?」
それを聞いた蔵馬は、総務に確認に行った。確かに海がきた痕跡はない。
なにかあったのだろうか?
帰りに海の家でも寄っていこうかーと思った。外側から確認するだけなら・・・。
仕事が終わって行くと、部屋には明かりがともっていた。一応は安心だ。もう別れたのに、未練たらしいなと思う。
昔、妖狐になった時
樹利亜に会った。樹利亜は妖狐になった蔵馬をみて逃げて行ったが・・・。
あの時、そのままにしておけば樹利亜が不幸な死に方をすることもなかったかもしれない。
他の雄と結ばれようと、魔界の狐として生涯を終えていただろう。自分の勝手で妖狐にしてしまった。
という罪悪感がある。
だから、海にいい男が見つかれば今度こそ幸せを願うことにした。自分も母親が亡くなれば魔界に戻るつもりなのだから。
いくら望んでも、海といい関係が続くとは思えない。だから別れを切り出されたとき、あっさりと承諾したのだ。
次の日、海は会社に来ていた。ほっとした蔵馬。
「海ちゃん、昨日はどうしたの?」
「少し、具合が悪かったんです。でもすぐおさまりましたよ。午後から会社に行こうと思ったのですが」
「いや、休んで良かったよ」
「そうよ。大事にしなくっちゃ」
「顔色もあまりよくないし」
「そうですか?」
昨日、病院に行って想像妊娠だったということが判明した。
妊娠していなかった。
それだけでも、安心したはずなのに。何故か不安が付きまとう。
そしてクビにできた痣。
制服をきて、見えないすれすれの位置にできている。獣にかじられたような・・・。
目を開けると、誰もいなかった。
肌には血がついているし、首には何かまきついている。
とにかく体を洗ってきたかったので、外に行きたかったのだが下腹部に違和感がありドキっとした。
なにがあったのか思い出した。
思い出したくなかったが、まさか蔵馬が自分をー。
樹利亜はうなだれた。
蔵馬はもうここには戻ってこない気がした。
忘れようと仕事に励んだ樹利亜だったが、自分の体が変わったことに気が付いた。
3か月たって、確信へと変わった。
蔵馬の子供が自分の中にいることに。
死のうと思って飲んだ薬が、自分だけ生かした。
大人になった樹利亜にいいよる男はいた。
しかし、彼女はすべて断っていた。
結婚をするつもりもなく、ただ平穏に生きていくーというのが彼女の願いだった。
時計は午前4時をさしている。
海は夢とは思えぬ夢を見ていた。
昔、蔵馬に犯されていた。
多分、本当のことだろう。この前出てきた痣が何よりの証拠だ。しかも子供までできていたなんてー。
蔵馬は知っていて、私に近づいたのだろうか?
私が記憶にないから?
海はぼんやりベットの上に座っていた。
蔵馬と接することはないだろうけど、辛い。引っ越して、職場を変えるということも今の海にはできない。せめて部署が違うのが救いなのだけど。
いつものように、仕事終わりに書店によって本を立ち読み。
そしたら軽いめまいを感じた。
いろいろあって疲れているのかもしれない。
海は家に帰った後、お風呂にはいってすぐ寝てしまった。だが、次の日も。
疲れがちゃんと取れてないんのかも?と休みの日は無用なことをせず、布団に横になっていた。そろそろクーラーの季節だ。会社に勤めているとクーラー代が助かって楽なんだけど・・・。
外が天気なのはいいが、風はないので室内が熱い。
なにか口にしないとーとは思っているが、キッチンに立つ気もしない。そのまま休みは終わってしまった。
「海ちゃん、大丈夫?顔色が悪いけど?」
と、先輩が声をかけてくれる
「ありがとうございます。最近暑かったもので」
「うちの会社、あんまりクーラー効かせないけど、夏はどんな格好してもいいからさ。薄手の服を用意しておくといいよ」
「そうなんですね。今から探しておきます」
前の会社ではクーラーをがんがんつけていたから逆に冷えることに気を付けていたのに・・・。
今日は服でも見に行こうかーと考えた。
クーラーの温度ってどのくらいまで下げるんだろう?と海は思った。
それによって買う服も違う。
今から夕食をつくるのもなんだし、食べてから帰ろうかな・・・。
そう考え、コーヒーショップに入った。
そこには蔵馬がいた。
それも女性と。
思わず、店を出てしまう。
もう、分かれたはずなのにー
近づきたくないって思っていたはずなのに、心が沈んだ。
部屋ですることもなく、ただ落ち込んでいると電話が鳴った。相手は全く思いもかけていない人物。前の会社の部長だった。
今どうしているのだとか、近況を聞かれる。就職ができたこと。順調に暮らしていることを話すと安心してくれたようだった。
もともといい人なのだ。
「それでね、うちの甥っ子が院を卒業して母校に勤めているんだけどね」
「はい」
「奥手で今まで彼女がいたことがないんだ。もしよかったら一度会ってほしい」
「私がーですか?」
「君がいいんだよ」
海は少し迷ったが了解した。
(どうせ、会社が終わってもすぐに帰れないんだしね)
待ち合わせは有名な銅像の前
こっちの服装は連絡してある。白のシャツにブルーのロングスカート。
「水瀬海さん・・・ですか?」
縁のついたメガネをかけた男性に言われた。
「はい、水瀬は私です。宗田さんですか?」
「はい、初めまして。叔父が無理を言ってすみません」
「いえ、特に用事があったわけでもありませんから。どこかいきます?お夕食は食べました?」
「あ、いえ。まだです。水瀬さんはどこに行きたいですか?」
「いえ、別に行きたいところは・・・。でも軽く食べられるところでいいのでしたらコーヒーショップでも」
「あ、分かりました」
「確かこの辺だとKビルに入っていたと思うんです」
「じゃあ、行きましょうか」
海たちはコーヒーショップに向かった。中は割合空いており、すぐ座ることができた。
「何にしますか?」
「そうですね・・・コーヒーは職場で嫌というほど飲んでいるので」
「え?言ってくだされば別の店にしましたのに」
「いえ、コーヒー以外にもあるでしょう」
2人してミルクティーを頼む
「あんまり大声では言えませんが、チャイのシナモンが凄いんですよ」
「それはあまり嬉しくないですね。ボクもミルクティーにします」
という打ち合わせもあったのだが。
「あの・・・水瀬さんは今は叔父とは別の会社に勤めていらっしゃるのですね。どんなところですか?」
「私、高卒なんで受け入れてくれるところがなかったんです。でも今のところは学歴を重視しないところなので働きやすいです」
「そうですか。それは良かった。叔父は水瀬さんには辞めてほしくなかったとのことですが上が決めたことだということで・・・とても残念がっていました」
「いえ、私も部長にはお世話になりました。宗田さんは大学に残ると聞いたのですが」
「はい、院をでて就職ーという道もあったのですが今の学校で研究したいなと思いまして」
「凄いんですね。私は薬剤師さんといえば病院で薬を取り扱っていえるところしか見たことがありませんが」
「普通はそうですよ。こっちに残るほうが少ないですから」
「お仕事が楽しいんですね」
「はい、自分の行きたい方面に行けてよかったと思っています」
そして、サンドイッチをつまんだ。
「海さんーとお呼びしてもいいですか?海さんは今は彼氏さんはいらっしゃらないのですが?」
「まぁ、いません」
「そうですか、ならボクと一緒にいても大丈夫ですね」
「大丈夫ですよ~。宗田さんこそ大丈夫なんですか?」
「ボクは大丈夫です。たまにあってくれると嬉しいです。海さんは・・・?」
「あ、私はパッチワークの出品しているのであまり遅くならなければ」
「良かった。なら夕食ぐらいは付き合ってもらえるでしょうか?」
「そうですね」
「一人で食べるのも寂しかったんですよ」
それは海も同じだ。
それから、美味しいと言われるお店にたまに行くことになった。
「海ちゃん、彼氏と上手くいってる?」
「いえ、別れました。なんでわかったんですか?」
「なんとなく。楽しそうじゃないな~って。前よりもって意味だけど」
「そんなことはありませんよ。趣味も充実していますし」
「無理しなくてもいいのよ。今日は飲みに連れて行ってあげるから」
と先輩は言ってくれた。
「あ、すみません。人と会う約束をしていて」
「もしかして、新しい彼氏?」
「違いますよ」
「そう、まあいつでも奢るから言ってね」
「ありがとうございます」
今日はスペイン料理の店だった。
(わぁ、高いけど知らない料理が沢山)
「気に入ったのはありましたか?」
「パスタのパエリアでしょうか?」
「よければ分けませんか?」
「そうですね。一人じゃ食べきれませんし」
「ボクは他の料理も頼んでみたいですし」
「白のサングリアって興味あります!!」
宗田との食事は楽しかった。
「もしよければ、今度公園で夕食を食べませんか?」
「公園で?」
「外食が多いと野菜が不足しますので、なんか作ろうと思って」
「それは嬉しいですね」
「あんまり凝ったものはできませんが・・・」
海が持っているのは重箱だった。
中には色々なおかずが入っている。
蔵馬はため息をついた。
(男ができたのか)
こんなに早く付き合っているやつができるとは思っても見なかったーというか信じたくなかった。海が自分のことをこんなに早く忘れてしまうことが。
知らず知らずのうちに海の家の前まで来ていた。
明かりはついていない。まだ男と一緒なのだろうか?
暗い部屋の中に入ると、海の香りがする。このベットで肌を合わせた。あまりにも少なかったが・・・。
台所は片付いている。ふと見ると自分の好きなコーヒーが消えている。そしてカップも。
なんだろう?このいらだちは・・・。そんなにオレのことが好きではなかったのか?
そう思い、背広を脱いだ。
(酷い雨)
滝のようにーとはこのことだ。
勿体ないがタクシーを使って帰ってきた海。宗田は出すと言ったが、それも悪いので断った。
「もう、急にふってくるんだから」
(急いでお風呂に直行だわ)
居間の明かりをつけてびっくりした。
ベットに蔵馬が座っているのだから。
「きゃっ」
「そんなに驚くこと?合鍵あるだろう?」
「あ・・・返しに来てくれたんだ。ありがとう」
「・・・返そうと思ったけど、辞めた」
「え?」
「オレは海と付き合うの辞めるつもりはないよ」
「どういうこと?」
「こういうこと」
蔵馬は海の腕を掴んで、ベットに押し倒す。
「・・っ」
蔵馬の口に血の味が広がった。
(海が・・・噛んだ!?)
見ると海は蔵馬を睨みつけていた。
「出ていって!!」
昔でさえ、こんな敵意のある目で見られたことはない。
「海。男はこういうことされると余計にやりたくなるんだよ」
部屋の中に甘ったるい香りが広がっていくとともに、海は大人しくなった。
「声。ちゃんと聞きたかったけど、抵抗されて傷つけるのはオレの望みではないからね」
蔵馬は海の服を脱がしていく。そして首の痣に気が付いた。
「もしかして、思い出した?」
反応はなかったが、思い出したのだろうーと、思った蔵馬。だからと言って謝ってことが良い方向に行くわけではない。
行為はそのまま続行された。
「おはよう。もう喋れるだろう?」
「・・・こんなことするとは思わなかった。2度と私に近づかないで」
「別れるつもりはないって言っただろう?毎晩ここに来ることにした」
「勝手に決めないで!前みたいに私の前から姿を消してちょうだい」
「それはできない相談だな。言っただろう?別れる気はないって」
そう言うと蔵馬はシャワーを浴びに行ってしまった。
「お待たせしてすみません」
小走りにやってきたのは宗田だ。
「何か食べたいものはありますか?」
「いえ、なんでもいいです」
「そう言われると困ります。ボクは女性の好みの店を知らないので」
「じゃあ、洋食でいいですか?」
「はい。今度、よさそうなお店を探しておきますから」
久し振りの外食。海はオムライスを頼んだ。宗田はエビフライセットだ。
「今度、花火を見に行きませんか?」
「ああ、もうすぐ夏まつりですものね」
「実はうちの大学の屋上から見えるんですよ。小さいですけど」
「素敵ですね」
「混まないですし、お勧めですよ」
「じゃあ是非」
花火。今までは音だけ聞いていたのだが見れるとは思わなかった。そう思いながら宗田と別れて家に帰る海。
家に帰ると、蔵馬がいた。
「もっと待つかと思った」
「なんでいるの?」
「分かっているんだろ?」
「・・・正直、がっかりした。蔵馬がそんな人だったなんて」
「もともとこういう性格だよ?今日も抵抗するつもり?」
海は顔をしかめた。そこに蔵馬のキスの嵐が降り注ぐ。
「海、着替えて」
「な・・・やだ」
「違うよ、パジャマに。微熱がある」
そういえば、ここ数日おかしかった。
「それじゃ、ゆっくり休むから帰ってくれる?」
「今日はオレ、ここに泊まるから」
「いいよ、大したことないんだし」
そういう海をだまらせ、布団に入らせた。
時計が0時を回る。
蔵馬は海のほうをみた。少し息苦しそうだ。額に手をやると熱が上がっている。
(良かった、魔界の薬草を持ってきて)
薬を作って海に飲ませる。
「う・・・」
海の髪が栗毛に。体は一回り小さく。
そしてー樹利亜になった。
「!!。樹利亜」
「・・・誰?」
樹利亜の瞳が開いた。
「オレだよ、くー
と、言いそうになって止まった。
自分の正体を知ったら、樹利亜はどうするだろう?正直考えたくなかった。
なので
「熱だあるんだよ。大丈夫?」
と樹利亜の頭に手をふれた。
「ここは・・・・?」
「知り合いの家。さ、横になってて」
「・・・私。生きてる?」
「ああ、大丈夫。今、薬を作るから」
「いい、死ぬはずだったのに・・・なんで生きているの?」
と、樹利亜は顔を伏せて泣き始めた。
蔵馬は言葉がかけれない。
(死ぬはず?オレが無理矢理やったショックで、死のうとしたのか?)
樹利亜は、泣き逆る。
蔵馬の胸は痛んだ。
まさかそこまで傷つけてしまっていたとは。
なので、海の好きな紅茶を入れた。
「泣かないで。さ、これを飲んで」
それでも樹利亜は泣くのを辞めない。
仕方がないので、眠る薬を部屋に流した。
それで樹利亜は再び目を閉じる。
「・・・樹利亜、オレはどうすればいい?」
蔵馬は顔を伏せた。
朝になっても、海の姿は樹利亜のまま。
蔵馬がご飯を作っていると、樹利亜が目覚めた。またあたりを見回している。
「樹利亜、おはよう」
樹利亜は不思議そうに蔵馬を見て「誰?」と言った。
「オレは秀一。ここの家の人の知り合いなんだ。朝ごはん。食べるだろう?」
「・・・秀一、さん?ここは・・・魔界じゃないの!?」
「そう、ここは人間界」
「でも、秀一さんは妖怪ですよね?人間界に妖怪が入ったら、霊界が捕まえにくるんじゃ?」
「ああ、それは違うよ。悪さをした妖怪は捕まるかもしれないけどね。とりあえず食べよう」
ごはんに味噌汁。目玉焼きにお浸し
このメニューを樹利亜は不思議そうに見ていた。
「さあ、食べてみて」
そう、樹利亜に促すとうなずいた。
「・・・おいしい。人間の食べるものも美味しいのね」
「そうだね」
「秀一さんは、なぜ人間界に行ったんですか?そんなに強いのに」
「人間界で行きたかったから。それだけ。今は人間として生きている」
「そんなことができるんですか?」
「うん、働いているんだよ。今日は働く日だから昼間は家を空けるね。夕方までには帰ってくるから」
「私、家に帰りたいんですけど」
「・・・残念ながら、今は帰れないんだ。今日はこのまま大人しくしていてくれる?」
「はい」
そう言って、樹利亜はもくもくと朝食を食べていた。
蔵馬はそのあと、急いで家に帰り着替えて会社に行った。
(何故、樹利亜の姿に戻ったんだろう?原因が分からない・・・。海は人間だったーのに?)
残された樹利亜は、暫く部屋を観察していたが飽きてしまい外に出ることにした。
地面が土ではなく、植物が少ない。
人間の箱みたいな家や店のようなものが沢山あって迷いそうだ。
しかもどれも同じに見える。
人間は自分を見ると、不思議な顔をするが興味があるわけではないようだ。
樹利亜はてくてく歩いていった。
「ママ―、わんこちゃん」
そう声がして振り向くと、人間の女性と子供がこちらを見ている。
「しっぽ、しっぽ」
と、子供は寄ってきてしっぽを握られた。
「いたたた・・・」
「痛いの?本物なの?」
「本物だよ」
そう言って樹利亜はしっぽを振って見せた。
「わぁ、凄い」
子どもは笑ってみていた。
人間の母親がこちらに来て、「どういう仕掛け?」と聞いてくる。
「仕掛けなんてありません。ーいたたた」
今度は耳を掴まれた。
見ると、人間の赤ん坊。
「だあだ」
「駄目でしょう。お姉ちゃんの飾りがとれちゃうわ」
「飾りじゃないんです。痛いです」
ふふふ・・・
人間の女性は笑っていた。
その後、いやというほど耳やしっぽを引っ張られ解放された樹利亜。
石の道はどこまでも続く。
ときどき、走る機会に乗った人間に「馬鹿野郎、危ないじゃねーか」と怒鳴られながら樹利亜はどんどん歩いていく。
12時、お昼休み。
「主任、珍しいですね。今日はお弁当じゃないんですか?」
「ああ、ちょっと外で食べてくる」
と言って、会社を出ようとする蔵馬に
「言ってくれたら、私お弁当作って来たのに~」
と女子社員が文句を言った。
コンビニによって、色々と食料を買い海の家に行くと、そこに樹利亜はいなかった。
(外に出たのか!!)
急いで、彼女の妖気をたどる蔵馬。
結界が亡くなって以来、さらに妖怪の数が多くなり、なかなか樹利亜を見つけることができなかった蔵馬。
見つけたときは頭の悪そうな高校生に絡まれておびえていた。
「なんだ、お前」
「この子はオレ達が先に目を付けたんだからな」
と蔵馬に向かってくる高校生たちの、安っぽい挑発。蔵馬は4人に囲まれてしまう。
一撃を食らわせたかったが、魔界の薬草で眠っていただくことにした。
「駄目じゃないか、外に出ては」
「だって・・・帰ろうと思って」
泣き出す樹利亜。
(一人にしておけないな。とりあえず桑原君のところに預けるか。あそこは雪菜さんもいるしな)
そう思った蔵馬は、桑原家を訪ねた。
すると、雪菜さんが迎えてくれた。
「雪菜さん。悪いけどオレが来るまで、この子を預かっていて欲しいんだ」
「いいですよ?蔵馬さん、お仕事中のはずでは?」
不思議がる雪菜。
「蔵馬?」
「え?」
不思議な顔をする樹利亜。蔵馬は急いで雪菜に「オレは南野秀一ってことになっているからよろしく」と耳打ちし、会社に戻った。
「あなたも妖怪ですよね?私、魔界に帰りたいんですが、どうやって帰っていいのか分からないんです」
そういう樹利亜に雪菜も困ってしまった。
勝手に魔界に連れて行くわけにもいかないしー
大学を終えて帰ってきた、桑原も事情は分からないが泣く樹利亜に頭を抱えた。
(あー、次元刀で返してはあげれるんだけど・・・蔵馬がなぁ)
「泣くなって!蔵馬がちゃんと返してくれるからよ~」
と、樹利亜の肩をどーんと叩く。
「そうです・・って!秀一さんが返してくれますから」
「秀一?誰だそれ?」
「和馬さん、ちょっと来てくださいっ」
雪菜は、蔵馬が言っていたことを聞かせる。
ーが、また聞きの桑原にしたら「?」であった。
仕方ないので、
「ほら、永吉っていうんだ。可愛いだろう~」
と、桑原家の猫たちに助けてもらう始末。
(あー、蔵馬。早く帰ってこないかなぁ。姉ちゃんでもいいや。って仕事終わるの遅いからなぁ~)
蔵馬はこういう時に限って部下のトラブルに巻き込まれ、桑原家につくのが遅れることになってしまった。
かと思えば、大変な思いをしてやっと桑原家に行けば
「蔵馬!遅かったじゃねーかよ!!」
と、桑原の第一声が飛んできた。
(桑原君・・・。そういえば高校の時も迷惑をかけてくれたな)
ーと、頭を抱える蔵馬。
流石の樹利亜も
「蔵馬って、もしかして妖狐の・・・じゃ」
との発言。
「いや、違うよ?人違いだよ」
「・・・そうですよね。蔵馬のはずないですものね。こんなに妖気が強いのに」
「桑原君の知り合いに、そういう妖怪がいるんだよ」
とごまかす。
(は~、とにかく魔界に連れて行ってどうする?あの村に連れて行ったら大騒ぎになるだろうし、預けられる知り合いはいないし・・・)
そう考えながら、樹利亜と一緒に結界を超えた。
「・・・ここでいいです」
「こんなところに置いておくわけにはいかない」
「誰かに聞いて、私の住んでいる村を探します。ありがとうございました」
そう言われて、頭を抱える蔵馬だったがー
(う~ん、陣に頼むか?いや、酎・・・は彼女いたな。って鈴木は頼りなさそうだ)
考えた挙句、一番いやなやつに頼むことにした。
ガンダラ
「蔵馬か、久しぶりだな。オレのところに来るのは」
(なんで、最後にオレのところにって言うんだ)
「悪い、黄泉。暫くこの子を保護しておいてほしい。街から出すなよ」
「はっはっは。それはいいが、お前がオレに頼みごとをするとはな。借りをしておこう」
「何が望みなんだ?」
「手合わせーだな。浦飯でさえ、オレとたまにするのにお前だけだ。オレと手合わせしないのは」
(誰がするかっ)
そう思う蔵馬だったが
「分かった。今度魔界に来たときにはお前と手合わせするよ・・・」
「そうか、オレと手合わせしたいのか。しかたがないな。相手をしてやろうではないか」
黄泉はにやにやと笑いながら言った。
「こんな高価な着物。もらえません」
豪華な部屋で沢山の贈り物をされ、樹利亜は困っていた。
「いえいえ、樹利亜さまはこの国の来賓ですもの。どうぞお受け取り下さい。国王もそう申しておられます」
「国王・・・様が?何故私に?」
「それは秀一さまと我が国の国王はご友人だからでございます」
「えっ?秀一さんは国王さまとお友達なんですか?」
「はい、そうです。後で国王が挨拶に伺いたいと言っています」
「と、とんでもないです。私の方から挨拶に行きますので」
「そうですか?では、後程お迎えに上がります。その時はどうぞ、お召し物をお変えになってくださいますよう」
そう言って、侍女らしき女性たちは樹利亜の前から姿を消した。
(こんな刺繍・・・凄い。どうやってやるんだろう。教えて欲しいくらいだわ)
樹利亜は贈られた衣装を見渡した。
黄泉に会ったとき、樹利亜は足がすくんだ。今まであったどの妖怪よりも強大な妖力をもつ妖怪。何故、こんな妖怪が自分を客貧として迎え入れたのだろうか?
秀一も今まであったことがないくらいの強い妖怪であったが、なぜか驚きはしなかった。だが、目の前にいる妖怪は違う。
「よくお似合いだーと、申したいが私は目が見えなくてね」
「そう・・・なんですか?それはお気の毒なことです」
「いや、最初は不便であったが流石になれた。妖狐・・・か。懐かしいな」
「妖狐に知り合いでもいるんですか?」
「まあな。見かけは美しいが、根はひねくれた妖狐が一人」
(なんか、蔵馬を思い出すけど。蔵馬は秀一さんやこの国王様より、全然妖力はないものね。強かったけど、次元が違いすぎるもの)
「面白いご友人の妖狐なんですね」
「うむ、今度会わせてやろう」
「はい、機会があれば会ってみたいです」
「ところで足りないものはないのか?生活に不便があっては困るからな」
「はい、仕事が欲しいです。お金を貯めたいんです」
「金?金ならやるが、欲しいものがあれば買ってやるぞ」
「そこまでしていただくには及びません。お仕事をいただければそれで」
「そうか。では息子の相手をしてもらおうか。金ははずむぞ」
「分かりました。喜んでやらせていただきます」
そんなことで、樹利亜は黄泉の息子・修羅の面倒役を引き受けることになった。
「お前がオレの相手役?一瞬で殺せそうじゃないか」
「そうですか?私はそれでも良いのですが」
「うっそだよ!殺したら、パパに怒られるじゃないか。あ~あ、何をしたらいいんだよ」
「では、お話をいくつか致しましょう。私が母に教わった昔話ですが」
「しょ~がないなぁ。聞いてやるよ」
修羅はベットに横になった。
数日後。蔵馬が樹利亜の様子を見に来た。
「秀一さん!」
「何か不便なことはない?いじめられたりとか」
「とんでもないです。皆さん大変よくしてくださっています」
「そうか、安心した。今は何をやっているの?」
「修羅様のお世話をしております」
「はっ?なんで?」
「働きたいと申しましたら。国王様が仕事をくださったんです」
「働いてどうするの?」
「お金をためて、村に戻ります」
「・・・気の毒だが、君の村はもうないんだ。だからここに連れてきた。無理に働かなくてもいいんだよ」
「でも、私は欲しいものがあるので」
「欲しいもの?何が欲しいの?」
「秘密です」
「・・・分かった。でも無理することはないよ。ここで好きに暮らしてほしい」
「・・・分かりました」
1か月後、樹利亜はお金をもらった。
(こんなにたくさん・・・とっても豊かな国なのね)
樹利亜は、元の洋服をきて国の外に出た。
丸一日歩いてようやく黄泉の国を出られた。
丁度、小さな集落がある。
樹利亜は薬屋さんに寄った。
「お嬢ちゃん、何の薬が欲しいんだい?」
「楽に死ねる薬を・・・」
「楽に、ねぇ。高いよ」
「お金ならあります」
樹利亜が有り金を見せると、店主は驚いたようだった。
(この感じ、とっても久しぶりのような気がするわ)
一面の花畑の中に、樹利亜はいた。
(なんだか、長い夢を見ていたみたい・・・)
薬を袋から出した瞬間、樹利亜の体は海の体に戻ってしまう。
そこで樹利亜の意識はとぎれた。
「なんだ、お前か」
小柄で目つきの悪い男は蔵馬を見て言った。
「人間の女を探している。若い女は来ていないか?」
「フン、オレだって仕事はちゃんとしている。ちゃんと人間界に置いてきている」
「肺の洗浄は?」
「そんなもの面倒くさくてやってられん。生きようが死のうがオレの知ったことか」
「今は保護している人間はいないんだな?」
「いないーと、言っただろう」
「そうか・・・」
樹利亜が消えて1カ月。
黄泉が行方を捜したが、手掛かりはなしだった。そこで蔵馬はもしかして人間の”海”に戻ったんじゃないかと思って魔界に来てしまった人間を助けるーという活動をしている友人の飛影を訪れたのである。
「そういえば、一人いたな」
「なんだって!!」
「いたが、奴は死にたがっていたので人間界には返していない。躯がここに残している」
「死にたかっている?」
「毒薬をもっていたからな。死ぬつもりの人間が迷い込んだらしい」
「その人間を見せてもらいたい」
「・・・こっちだ。ついてこい」
蔵馬は奥の部屋に案内された。
その部屋の中を見た蔵馬は、気が狂いそうになる。なぜならば、そこにいたのは海だったからである。
「旅行は楽しかったかい?秀一君」
玄関先で義父と母が迎えてくれた。
「・・・まあね」
「秀一、疲れたでしょう。顔色が悪いわ。ヨーロッパまで飛行機に乗っているのは疲れるでしょう?エコノミーだったら余計よ。私たちの時はビジネスクラスにしてくれたのに」
「ごめん。休む」
「ええ、ゆっくり休んで。何か食べたいものがあれば作るから」
母の目は鋭い。
息子が普通じゃないと気が付いた様子。
だが、今の蔵馬に人の目をごまかす余裕はなかった。蔵馬はかなり疲れていたのである。
(これから一体どうすればいい?)
ベットの上に仰向けになって考える。
海は一命をとりとめ、人間界に返した。今は彼女の家にいてもらっている。
記憶は操作しておいたので大丈夫であろう。
だが、今後彼女をどうしたらいいのか、皆目見当もつかない。
翌日
全有休を使い、旅行に行ってくると言った蔵馬は会社に出勤した。
「南野主任。旅行楽しかったですか?ヨーロッパに行くなんて意外でした」
「ああ、お土産は送ることにしたんだ。後で届くよ」
「わ~。楽しみ」
「私も行きたいなぁ。ヨーロッパ」
「そういえば、総務の水瀬さんも旅行に行っていたんですよ。それもイギリスに」
「水瀬さんって英語できるんですって。凄いですよね~」
「そう」
昼休み
そっと食堂にいくと、海が同僚と食事をしていた。
顔色は良い。どうやら持ち直したみたいだ。
蔵馬はほっとした。
「海ちゃん、イギリスはどうだった?」
「楽しかったですよ。お土産後で届きますから」
「え~、すっごい楽しみ~」
「海ちゃんってO高出身って知らなかったよ。どうりで英語ペラペラなはずだ。なんで大学行かなかったの?」
「そうだよ。勿体ない」
「ちょうどお金がなかったんですよ」
海は苦笑いしていた。
仕事を終えて家に帰った海。
(流石にちょっと疲れたかな?)
ため息をついて、ベットに横になった。
ピンポーン
チャイムが鳴る。
(誰だろう?)
「はい」
ドアを開けると、蔵馬がいた。
「蔵馬?」
「ちょっといい?」
「あ・・・うん」
海は蔵馬を部屋にあげた。
「ちょっと待ってね」
と、出されたのはほうじ茶。
「・・・懐かしいな」
「なにが?」
「初めて会ったとき、出してくれた」
「香りに惹かれて思わず買っちゃったのよ」
「そのセリフもその時言ってたね」
「そうだっけ?覚えてない」
「オレはよく覚えているよ」
「えっと、何か用事?」
「これ、返そうと思って」
蔵馬は海の部屋の合鍵を取り出した。
「・・・うん。ありがとう」
「今の彼氏とは上手くいっているの?」
「彼氏ではないんだけど・・・。たまにあっている人はいるの」
「いい人?」
「いい人だよ」
「一つ、言っておきたいことがあるんだ」
「何?」
「オレ達は血が繋がっていないんだ」
「そう・・・だね?」
「樹利亜とオレはーだ。オレは樹利亜の母親に助けて育ててもらっただけ。オレは、勝手に樹利亜は自分のものになると信じていた」
「・・・・・」
「昔、樹利亜に言い寄る男をみて焦った。そして無理やりあんなことをしてしまった。許せないと思う。ただ、愛しているということは分かってほしい」
海は、いきなり声をあげて泣き出した。
「ごめん・・・海。本当にごめん」
蔵馬は海を抱きしめた。
朝
2人はベットにいた。
「落ち着いた?」
蔵馬が尋ねると、海は頷いた。
「何か作るね」
「いいよ、私が作る」
樹利亜は着替えて、キッチンにたった。
「折角だから、会社まで送らせて」
「いいよ。蔵馬、家に帰らなくっちゃいけないし」
「・・・そうだね」
そうして蔵馬と海はそれぞれの生活に戻る。
「海さん、連絡がつかないから心配したよ」
と、宗田が言った。
「ああ、ごめんなさい。旅行に行っていたの」
「そう。海さんは今、彼氏はいないんだよね?」
「はい」
「だったら、結婚を前提にお付き合い・・・してほしいんだけど」
「それは・・・」
「嫌なら無理にとは言わないけどさ」
「ただのお友達じゃ、駄目ですか?」
「いや。じゃあ、今はそういうことで」
宗田にそんなことをいわれるとは思いもよらなかった。海にしたら単なる男友達だったのに。
会社では蔵馬にたまに会う。
でもお互い顔は会わせない。