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アメリカ軍横須賀基地 正面ゲート近くの路上に、軍属 、ヴェルナード キンスキーのピックアップトラックは止まっていた。陽が暮れて数時間、横須賀基地内で通訳として働くヴェルナードは、大事な休暇を悶々と過ごしていた。
気晴らしにと出掛けた江ノ島沿いのレストランで、あからさまな人種差別を受けたのだ。
店の店主はこう言った。
「何方からお越しですか?」
ヴェルナードが、横須賀基地で働いていると言うと店主の顔は曇り。
「あんたらに出す料理はないよ!出てけ!」
と、言い放った。
周りの日本人達も一斉に声をあげた。
「俺たちをモルモットにしやがって!」
「クタバレ!」
「ヒロシマ、ナガサキの次は東京か!!」
ヴェルナードは怒りに震えた。
日本人は『トモダチ』だと軍人からは教わっていたが、とんだお門違いだった。
東京ジェノサイドが原因だとは分かっていても、方向性を示せない日本政府と、一方通行な情報しか信じない日本人達を見て、ヴェルナードは車の中で何度も同じ言葉を吐き捨てた。
「ジャップのクソッタレ!」
元々、白人至上主義の思想を持つキンスキー家は、不動産業を営む傍ら地元の政治結社のメンバーにアパートを貸し、集会場も提供していた。
そんな父や母を見てヴェルナードは反発も覚えたが、この遠い極東の地で、差別を受けるとその思想にも納得が出来た。
日本のアニメが大好きで、大学では日本語サークルで学び、足を怪我して海兵隊を除隊するまでも日本は嫌いではなかった。
しかし、今日経験した差別と、敵意むき出しに浴びせられた言葉は、ヴェルナードの心の底の闇をさらけ出させた。
自分でも、気が付かないフリをしていた感情が、じわりじわりと呼び起こされる。
『偏見』
白人以外は野蛮な存在、アジア人に差別された自分が悔しかった。
足の怪我は『トモダチ作戦』で負った傷だと言うのにだ。
ヴェルナードは、停車したままの車内で叫び続けた。
「ジャップ!ジャップ!ジャップ!!」
基地に戻る気にもなれないでいた。