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モノクロナツキ
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#オリジナル
モノクロナツキ
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モノクロナツキ
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「はあぁぁぁ~」
早朝のバーのカウンター。まだ半分脳みそが眠っている状態で、僕は大きくため息をついた。
洸くんとのカフェデートからもう一週間も経ったというのに、未だにその夢心地から解放されずにいる。家に帰っても全く寝付けず、結局、限界まで働き切った深夜3時のバーで倒れ込むように数時間眠り込む、という、完全に生活リズムの崩壊した日々を送ってしまっていた。
「チーフ、さっきから何回目のため息ですか?」
「ほんまや、チーフ。俺が空くんのこと見とくし、時間きたら起こすから、ソファでまた寝とき」
僕のことをからかうように、仕込みをしている空くんと、それを楽しそうに見守っている弦さんが声をかけてくる。
空くんは、漬かり終わったピクルスを丁寧に、几帳面に瓶に詰めていた。まだバイトは二回目だというのに、店への馴染みようが半端ない。
「すみません、弦さん。最近、家に帰っても眠れなくて。……空くん、それが終わったら燻製の終わったナッツを小袋に小分けして、あとはキッチンの片付けと店内の掃き掃除、お願いします」
「わかりました、チーフ! 任せてください!」
「チーフ、恋煩いやな!? おやすみ!!」
「弦さん!?」
僕がもう一度ソファに戻ろうとした瞬間、弦さんから眠れない原因を容赦なく言い当てられ、心臓がバクンと跳ねて一瞬で目が覚めた。
「やって、チーフが眠れへん原因なんて、それしかないやろ?」
ニヤニヤしながら僕を見る弦さん。確かに、そうでしかないのだけれど。
僕はトボトボとカウンターに戻って椅子に腰掛け、未だに丁寧に、まるで芸術作品を作るかのようにピクルスを詰め続けている空くんの手元を見つめながら、また大きくため息をついた。
「洸、最近忙しいからな? 連絡も取れてへんのやろ?」
「え、洸くん、何かお仕事始めたんですか?」
「いや、仕事自体は失業保険がややこしいらしくて、打ち合わせにちょっと参加する程度の仕事しかできひんねんけど……なんか、一週間くらい前に行ったカフェの料理がめちゃくちゃ美味しかったらしくて、今まで行けへんかったカフェを巡りまくってる」
「それって……」
胸の奥がドクン、と熱くなる。
洸くんに髪を切ってもらったあの日。どうしても僕がこのお店で感動した味を彼にも知ってもらいたくて、このバーがカフェ営業に切り替わっている時間帯に2人で訪れたのだ。
洸くんと一緒に、僕が仕込んだミートソースパスタと生チョコテリーヌを食べた。食べ終わった後、「美味しかった!」と心の底から感動してくれた洸くんに、「これ、僕が仕込んだんですよ」と自分の宝物を見せるように伝える。すると後ろから現れた奥さんが「私のレシピなんですけどね」と笑顔で付け足すと、洸くんは「2人ともすごい! 僕の大好きな味です!」と、あの大きな目をさらに零れんばかりに大きく開けて、全力で喜んでくれた。
僕の大切なものを、大好きだと言ってくれた。
その時の、嘘偽りのない彼の表情や愛らしい仕草が脳裏に焼き付いて離れず、相変わらず僕は心臓を高鳴らせるしかなかった。
「はあぁぁぁぁ~」
また大きなため息が溢れる。彼を好きで、好きで仕方がない。でも、結局、敬語を辞める事もできず、彼に好きになってもらう方法もわからず、次のデートへの誘いも躊躇してしまっていた。
「チーフも一緒に連れて行ってもらったら?カフェ巡り」
「……僕もそう思うんですけど、時間が合うかどうか」
なんせ、僕には休みがない。洸くんのためならチーフ権限でシフトはどうとでも変えられる。でも、それを何度も何度も本当に繰り返してしまったら、人としてダメになってしまうような気がしていた。
「……新くんって、全然休んでないよな?夜、バーテンダーと仕込みをやった後、家に帰って少し寝たら、俺の家にお手伝いしにきてくれて。たぶん、休みの日も来てくれてることあるやろ?」
空くんの言う通りだ。丸一日休みなんて、月に1、2度あればいい方。それでもここまで続けてこれたのは、空くんの成長と、洸くんの近くにいれる、それだけが僕の原動力だった。
「……それは、自分が言い出したことやから」
僕がそう言うと、空くんは芸術作品のように美しく仕上がったピクルスの瓶を、ゆっくりとカウンターに置いた。そして、僕を真っ直ぐに見つめて微笑む。
「新くん、今まで、お手伝いありがとうございました! これからは俺のアルバイト先のチーフとして、友達として──よろしくお願いします!」
「え、野中さん突然の卒業宣告やん!! でも良かったな、これで休みの2日分が戻ってきて、洸のカフェ巡りに参戦できるし、空くんはもっともっと、前に踏み出せる」
弦さんが一番嬉しそうな顔をして拍手を送ってくれている。
僕も、そろそろ空くんの家へのお手伝いは卒業の時期だなとは思っていた。だけど、今まで「確実に陸さんの家に行けば空くんに会える」という確約のようなものが突然なくなってしまい、少しだけ心が寂しくなる。
「……わかりました。じゃあ、陸さんには僕からも連絡しておきます。鍵も後でお返ししますね」
空くんがもう自分の力で部屋の外に出られるようになったのに、いつまでも縛りつけていたのは僕の方だったんだな、と気付かされる。
「あ、俺、今日休みやからさ。仕事終わったら空くんも野中さんも、そのままうちおいでよ。洸には……サプライズで言わん方がええか?」
「え! やった! 久々に洸くんに会えるの嬉しい!」
素直に喜ぶ空くんに、弦さんは「やろ?」と大きな口を開けて笑っている。
ちょっと待って、なんて素晴らしい提案をしてくれているんだ、このお兄様は……!!
そのまま家にお邪魔するって言うことは、もしかして、あの噂の「ジェラピケ姿の洸くん」を目の前で見れる可能性があるということでは!?!?
「……洸もやで? あいつ最近、ため息ついてボーッと考え事してること、ようあるからな」
弦さんは意味深に僕にそう言った後、「そうや、ええもんあげよ」と、僕のスマホを鳴らした。画面を見ると、弦さんからメッセージが届いている。
「……っ!!! ありがとうございます!!!」
そこには、秀太さんの美容室で空くんと洸くんが笑顔で一緒に写っている写真と、
『撮らんでよ!』
と恥ずかしそうに笑顔で空くんの髪をカットしている洸くんの短い動画が送られてきていた。もう、これは何も言葉を発する事が出来ない、あまりの尊さに視界が滲む。
「新くん、今日はみんなで写真撮ろうな?」
「もちろん、2ショットも撮ったるで?」
優しく笑顔を向けてくれた2人に、僕は胸がいっぱいになりながら、
「やった!! 友達って最高ですね!!」
と、空くんの真似をして素直に喜びを爆発させた。
我ながら大人気ないなと思いながらも、本当の自分はこうなのだと、ありのままをさらけ出せたことに、たまらなく嬉しくなった。本当の「友達」の素晴らしさと、そこから始まる新しい一歩に、僕は心の底から感謝を噛み締めていたのだった。
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