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第一章・学校という名の檻
重たい足を動かし、やっと学校に着いた。そこから二年の教室までは階段を上がって行かなければならない。少し気が引けるが一段一段登る。私は学校が嫌いだ。それは、あいつ等がいるからだ。どうせ今日もくだらないことをして私を仲間はずれにする。そう考えているといつの間にか教室の前に居た。私はいつも通り教室に入る。するとさっきまで話していたクラスの奴らはさっと黙り、私の方を一、二秒ほど見てからまた何事もなかったかのように喋りだした。自分の席は窓側の一番後ろ。だから、全く目立たない。そう思い席に座ろうと自分の机に足を運ぶ。すると机の上にはチョークの粉がまかれていた。少しどうするか考えていると、後ろからクスクスという笑い声が聞こえた。すっと後ろを向くと笑い声が止まり、私の方に近寄ってきた。
「おはよう。梅崎棗ちゃん。」
そうにっこり微笑みながら、わざとらしく私に話しかけてきたのが、戌亥葛葉。私に嫌がらせをしてくる主犯格だ。
「あ、梅崎さん居たのですね。気付かなかったのです。」
そうニヤニヤしながらおちょくる様に話しているのが春風美桜。葛葉の側近と言ってもいい。私はこの二人が嫌いだ。取り敢えず、私は何事もなかったように
「おはよう。」
と、返した。すると急に面白くなさそうな顔をして、葛葉が舌打ちをした。
「チッ…面白くない。棗本当につまらない。」
「乗り悪すぎるのです。そういう所直したらどうですか?」
そう吐き捨てるように言い自分の席に戻っていった。それを見て私は、何を言っているか分からず無視をして机を偶然持っていた濡れティッシュで拭いた。そして机の中に教科書を入れ、カバンをロッカーに置くと丁度予礼がなった。それと同時に担任の古川先生が入ってくる。そして朝礼が始まった。いつも通りの朝礼と思っていたのに今日は違った
「今日は転校生がいる。」
そう古川先生が言うとクラスは一気に騒がしくなった。
「センセー女子ですか!」
そう調子に乗った男子が騒いだ。それに続き女子も
「イケメンですか?」
と聞く。それを聞いてチラッと私の右隣の席を見る。案の定、空いている席が置いてあることに気付いた。私は少し嫌になり肩を落とした。自分の席のすぐ隣に沢山の人が集まって来るのが目に見えたからだ。今席を変えたいと思っても、席替えはついこの間したばかりだ。次なんて夏休み明けだし。はぁ、諦めよう。
「静かにしろ。」
考えているうちに古川先生の声が頭に入ってきて我に返る。多分つい先ほどまでざわざわしていたのだろう。教室は今、時が止まったように静まり返っていた。
「よし、じゃあ入ってこい。」
そういうとストレートなミルクティー色のロングヘアーに、黒真珠のような目。一言でいうと〝美人〟だった。あっという間にクラスに漂っていた張り詰めた空気を自分の物にした。彼女はすっと微笑む。私は完全に見惚れていた。目を離すことは出来なかった。
「グーテン・モルゲン。私は、果南・グラウンです。フロイトミッヒ。」
そう軽く自己紹介をした。古川先生は果南・グラウンの説明を始めた。どうやら帰国子女であり、ドイツ人のハーフだという。そして母親が日本人、父親がドイツ人だ。日本語は分かるが癖でドイツ語が混ざってしまうらしい。私は先ほどまでの嫌という気持ちが無くなった。そして少し嬉しい気持ちになった。
「グラウンの席は…梅崎の隣な。」
「ウメサキ?」
すると古川先生は、ハッとしたように
「梅崎挙手しろ。」
と、付け足した。私は戸惑いながらも手を挙げる。すると彼女はすっと私の前まで来て
「フロイトミッヒ」
と一言いい席に着いた。そして朝礼は終わり、休み時間になった。やっぱり隣の席は人で溢れかえっていた。私は嫌になり教室を出て階段を勢いよく下り中庭に逃げ込んだ。
「あれ、棗?中庭にいるなんて珍しいわね。」
そう聞き覚えのある声がした。振り返って見ると部活の先輩でもあり、幼馴染でもある、柳川空花先輩がいた。
「あ、空花先輩。」
昔は空花と呼んでいたけど流石に先輩後輩の関係になってからも、そう呼ぶのは気が引ける。私はそう思っているけど、先輩はむしろ呼んで欲しいようで〝二人の時ぐらい呼んで〟と言われているのだ。
「あ、そうそう。こっち来て」
そう呼ばれ近くに行くと綺麗に咲いている花があった。個々の花壇は元々環境委員会がやる仕事だったけど、環境委員会がそこまで手が回らなくなったことから私の所属する部活剣道部が手入れすることになっている。
「やりがいあるよね。こんなに綺麗に咲かれたら…」
そう言い嬉しそうに微笑んだ。
「そうですね。」
「で、何かあった?」
そう真剣な眼差しで私の事を見た。
「重大な事でもないんですけど…」
そう転校生が来たことを話した。すると空花先輩は安心したように微笑んだ。
「なんだ、戌亥と春風に何かされそうになって逃げてきたのかと思った。」
そう言われたことで朝やられた事を思い出したが言わないことにした。
「そろそろ棗のお母さんに話したら?」
そう言った空花先輩は心配そうだった。だけど私は頷かず首を横に振った。そして少し空花先輩は、困った顔をした。初めに話した時も〝先生とか、棗のお母さんに話した方がいいよ。私に話しても出来る事あんまりないよ。〟と言っていた。でも私はおおやけにするのを拒んだ。ほかの人に話す勇気がないのだ。だって元々は仲が良かった大事な友達だったから。
「言いたくないなら言わなくていいけど、何かあったら相談に乗るからね。」
そう言ってくれた。私は
「ありがとう」
と、呟いた。その後空花先輩は何か話そうと口を開いたが予鈴がなってしまい先輩は教室に戻った。少し気になったがまた教えてもらおうと思い教室に向かった。 教室は相変わらず果南・グラウンの話題で持ち切りだった。もう仲良くなったのかほとんどのクラスの人達は〝果南〟と呼んでいた。私はそれを見て結構フレンドリーな子なんだなぁと、感心していた。すると急に右側から肩を叩かれた。少しびっくりしたがサッと右側を見ると果南・グラウンが私に微笑みかけながら
「ウメサキさんは何部?」
と聞いてきた。少し言うか迷ったが、一応答えておいた。
「剣道部」
そういうと彼女はうれしそうに微笑み。
「ダンケ・シェーン」
と答えた。多分ありがとうって意味なのだろう。
「どういたしまして」
そういうと彼女はにっこり笑い頷いた。その陰で戌亥葛葉と春風美桜などを含む一部の女子達が恐ろしいことを考えていたなんて今の私には考えもしなかった。