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「美都、元気出してね……」
「……元気だってば、私は」
そうエミに返して、片手に持ったレモンサワーのジョッキをぐいと飲んだ。
──チーフのお見合いの一件を気にしたアミとエミの二人が、仕事終わりに居酒屋に誘ってくれていた。
「……またそうやって、大丈夫なふりして。ねぇ美都、隠したってわかるんだから、そういうふりとかしなくていいって、前にも言ったでしょ?」
ビールジョッキを手にしたアミが、眉間にしわを寄せ苦い顔をする。
「うん、でもほんとに、元気だから……」
感情を押し込めてレモンサワーを口に運んだはずが、レモンの酸っぱさとは違う刺激がツンと鼻の奥をついた。
「……あのね、美都。泣きたいなら、泣いた方がいいんだってば。私たちの前で、取り繕わなくてもいいから」
アミの言葉が胸に突き刺さる。
「だけど、私……、」言ったっきり、その先は声にもならないまま、ずっとこらえていた涙が溢れてきて、手の平で目元を覆い隠した。
「……泣いていいから。こういう時は、泣いた方がいいから」
アミが優しく言って、「ほら、ぎゅうーってしてあげる」と、居酒屋のカウンター席で私の身体を横から抱き締めた。
「美都、私もぎゅーってしてあげるから」
反対側に座るエミからも、抱き締められる。
「……美都のためなら、合コンだってすぐにセッティングするし」
言うアミに、首をゆるゆると振って断った。
「ううん、いいよ。今はまだ、そういう気分にはならないから……」
「そう……」と、エミが口にして、「だけど、私たちのことが必要になったら、いつでも言って。一人で抱え込まないでね、美都」と、私の身体を抱く腕に力を込めた。
「……うん、わかった。ありがとうね、二人とも」
辛い気持ちは簡単には拭えなかったけれど、たとえ恋愛が上手くはいかなくたって、私にはアミとエミみたいな素敵な友達がいるんだもの……それで幸せだからと思えた──。