テラーノベル
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地下三階の狭隘通路で、作戦は寸分の狂いもなく実行された。セリスの絶対氷壁、エレナの広域パルス雷撃、シャーロットの真空爆縮、そしてシエルとミサキの退路遮断。完璧な連携によって、潜入してきた『影の勇者』の精鋭部隊は、指一本動かすこともできずに一網打尽となった。
そして俺は、ハンスの逆探知とシエルの風が割り出した敵の本拠地——魔王城から数キロ離れた地下廃坑の暗闇の中に、音もなく忍び込んでいた。
「……くそっ! なぜだ! なぜ私の計算通りに動かない……!?」
モニターのノイズを見つめ、髪をかき乱しながら取り乱している男が一人。
勇者陣営の参謀、影の勇者ヴァルター・グリムだ。
冷徹な合理主義者、計算高い暗殺者——そんな前評判を口にしていたのが阿呆らしくなるような有様だった。
俺は足音を消して背後に歩み寄ると、冷え切った消音拳銃の銃口を、そいつの首筋に無造作に押し当てた。
「……動くな、ヴァルター」
「ひっ……!?」
ヴァルターがガタガタと震えながら振り向く。その顔には、智将の面影など微塵もなかった。ただの嫉妬と屈辱に歪んだ、醜い男の顔だ。
「く……クロード……! なぜここが……! 私は完璧に気配を消していたはずだ……!」
「ハンスの逆探知と、うちの風(シエル)の鼻を舐めるな」
俺は盛大に本日何度目かわからない欠伸を噛み殺すと、冷ややかな視線でそいつを見下ろした。
「……なぁ、ヴァルター。お前、勇者陣営の凄腕スナイパーを投入したり、東西の魔族国家を唆したり、わざわざ俺に手を出してきた本当の理由は何だ?」
世界平和のためでも、勇者の使命のためでもない。
暗号データを解析する中で見えてきたそいつの動機は、あまりにも下らないものだった。
「ふざけるな……! ふざけるなよハーフの分際でぇぇッ!」
ヴァルターは血走った目で俺を睨みつけ、みっともなく泡を吹きながら叫んだ。
「なぜだ! なぜお前のような出来損ないのハーフが魔王になり、セリス様やエレナ様のような高嶺の花を侍らせ、東方のくノ一や風の精霊まで従えているんだッ!? 私の方が優秀だ! 私の方が合理的で、美しい戦略を立てられる! なのに……なぜ私には女一人寄ってこず、お前ばかりがハーレムを作っているんだぁぁぁッ!!」
「……はぁ」
俺は深々と、本日一番不快で盛大な溜息を吐き出した。
(……結局、ただの嫉妬かよ)
冷徹な暗殺者だの、計算高い参謀だのと警戒していたのが馬鹿馬鹿しくなる。こいつの「完璧な計算」とやらは、ただ俺へのドロドロとした嫉妬心で歪みきった、身勝手な妄想の産物だったというわけだ。
「おい、ヴァルター」
俺は銃身でそいつの額を小突き、冷淡に言い放った。
「お前が女にモテない理由は、ハーフかどうかでも、計算の精度でもない。……その『自分は優秀なのに報われない』と思い込んでる、惨めで粘着質な性格のせいだ」
「な……なんだと……ッ!?」
「あいつらが俺の近くにいるのは、俺がハーレムを作りたいからじゃない。俺が泥を啜ってでも確実に成果を出し、余計な嘘をつかないからだ。……お前みたいに影からコソコソ嫉妬の毒を撒き散らす奴に、誰がついていくと思う?」
ヴァルターの顔から血の気が引き、悔しさと恥辱で唇を噛みちぎらんばかりに震え出した。
「さようなら、自称・名参謀(笑)さん」
**ポスッ。**
消音器を通じた乾いた発砲音。
麻痺毒入りの特殊弾を首筋に叩き込まれたヴァルターは、白目を剥いてその場に崩れ落ちた。
「……さて」
俺は倒れたヴァルターの懐から勇者陣営の全極秘資金のアクセスキーと、特務機関の通信用端末を回収すると、通信を起動した。
「ハンス、俺だ。影の勇者を捕獲した。こいつの身代金交渉と、勇者陣営の裏資金の口座凍結、今すぐ進めろ」
『ヘヘッ! 了解いたしました魔王様! 嫉妬に狂った参謀殿のお財布、スッカラカンにしてやりますよ!』
廃坑を出ると、夜風とともにシエル、ミサキ、そしてセリスたちが迎えにやってきた。
「終わったの、クロード?」
「……ずいぶん呆気なかったわね」
「ああ。ただの嫉妬に狂ったイタい奴だったよ」
俺が肩をすくめると、セリスたちが「はあ!? そんな理由で命狙われてたの!?」と呆れ果てた声を上げる。
「……クロード、お疲れ様。城に帰ったら、もっと苦いコーヒー淹れる」
シエルがそっと俺の腕に身を寄せてくる。
「……頼むわ」
俺は愛用の消音拳銃をホルスターに収め、呆れつつもどこか賑やかな仲間たちと共に、静かな夜の魔王城へと歩みを進めた。
ルル
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コメント
1件
うわ、まさかの動機が「女にモテない嫉妬」だったのは笑ったわ……。 冷徹な参謀って前評判だったのに、蓋を開けたらただの拗らせた男で、クロードの「お前がモテないのは性格のせい」って返しが的確すぎてスッキリした。 あと、仲間たちが連携して敵部隊を一網打尽にする展開もかっこよかったし、シエルが「苦いコーヒー淹れる」ってさりげなく気にかけるところにじんわりきた。良いエピソードだった!