テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
姫乃の中心にある”タワー”、その上層にある長官室にて。
輝夜の父親である紅月龍一は、ある一枚の写真を見つめていた。
「彼の名は、”花輪善人”。輝夜さんと同じ高校に通う少年で、輝夜さんのゲーム友達でもあります」
「……」
少年について、部下である影沢から説明を受ける。
こころなしか、龍一の表情は普段よりも険しかった。
「そして、龍一さんと同じ、”王の指輪”を所持しています」
「……」
険しい表情をする彼の手には、デザインこそ違うものの、善人と同じ黄金の指輪がはめられていた。
「彼が言うには、露店で普通に売っていた、とのことです。ですがわたしの方で調べた結果、その場所では露店の営業許可が下りていませんでした」
「つまり、そんな店は存在しないはずだと?」
「はい。少なくとも、足取りは掴めませんでした」
禁断の遺物、王の指輪。悪魔を自在に使役する力と、所有者の”潜在能力”を覚醒させる力を持つ。
使い方によっては、巨万の富を得ることも可能であり。秩序を尊ぶロンギヌスとしては、何としても回収したい代物であった。
それが一般に流通するなど、基本はあり得ない。
「彼が契約する悪魔の名は、アミー。軽く手合わせした感触からして、おそらくは無名の上位悪魔かと」
「制御は出来ていたのか?」
「はい。そもそもアミーという悪魔は危険思想の持ち主ではなく、どちらかと言うと”軍”とは敵対関係にありそうです。場合によっては、味方に引き込むことも可能かと」
「そうか」
龍一は、仮面をつけて地上に下りた、”あの夜”のことを思い出す。
実際にアミーと言葉を交わして、確かに危険な印象は抱かなかった。
「幸い、花輪善人は輝夜さんと同じクラスなので、学校内での護衛を依頼しました。どのように授業を受けているかなど、”毎日”報告をしてもらう予定です」
◇
「はぁ……」
学校の教室内で、善人はスマホを見ながらため息を吐く。
彼を悩ませているのは、とある”知り合い”からのメッセージ。
『輝夜さんが学校でどのように過ごしているか、毎日報告をしてください。でないと指輪は没収です』
軽い脅迫文である。
まぁこの程度の要望なら、善人も大人しく従うのだが。
善人は、問題の輝夜お嬢様の方を見てみる。
#TS
409
#第3回テノコン
輝夜の席は、一番前の廊下側で。善人の席は一番後ろの真ん中。
観察する分には、悪くない立地なのだが。
今現在、善人の席から輝夜の様子は見えない。
朝のホームルームが終わり、輝夜はクラスメイトたちに囲まれていた。
「ねぇ、かぐやって本名? マジでぴったりじゃん」
「モデルとかやってる?」
「芸能人?」
「怪我はもう大丈夫なの?」
「耳につけてるのってピアス? それともイヤリング?」
輝夜の席に集まっているのは、クラスの女子生徒たち。
流石に男子には、すぐさま近づこうという勇気は無かった。
とはいえ、相手が男子か女子かなど、輝夜には関係ない。
同年代の人間に囲まれるのは初めてであり、思わず顔が引き攣ってしまう。
「……あぁ、うん。その」
ただでさえ、ここ数日は”精神的なショック”で気分が悪く。
それから急に、学校という慣れない環境に放り出され。
周囲からの声を、声として認識できなくなる。
(人が多い。囲まれてる。うるさい。凄くうるさい。きつい)
表情だけは、何とか笑顔に取り繕いながらも。
内心、輝夜は軽いパニックに陥っていた。
そんなことなど、つゆ知らず。
『輝夜さんの周囲には女子生徒が集まってます。人気者です』
善人はのんきに報告を行っていた。
「ふぅ」
影沢にメッセージを送り終え、善人は輝夜の席を見つめる。
ゲームの中ならまだしも、現実世界では声をかけることすら出来ない。
そんな自分のちっぽけさを自覚しつつも、”変わりたい”という願望が抑えられない。
そうして、善人が右手の指輪に触れていると。
「――ねぇ。あの子、すっごい可愛いよね」
「えっ」
突如、隣の席の女子に話しかけられる。
派手な金髪をした、”いかにもギャル”という風貌の少女。
記憶が確かなら、入学以来一度も話したことがない。
そんな女子に話しかけられ、善人は思考が停止してしまう。
「実は芸能人で、3週間くらい海外に行ってたって噂だけど、どう思う?」
「いや、あの、ちょっと」
輝夜とはまるでタイプが違うが、彼女も紛れもない”美少女”であり。
善人が初めてのギャルに動揺していると、彼女はおかしそうに笑う。
「なーに? その反応」
「いや、その。僕たち、話すの初めてだから」
「あー、確かにそうかも! 花輪くんで合ってるよね?」
「う、うん。そっちは、”竜宮”さん、だよね?」
「そそ、竜宮桜。桜でいーよ」
「えぇ……」
驚異的な速度で自陣に攻め込まれ、善人はギャルに圧倒される。
「花輪くんって、下の名前なんだっけ?」
「善人、だけど」
「なるほど、ヨッシーね。覚えた覚えた」
「あー」
輝夜のことはもちろん心配だが。
とりあえず今は、隣のギャルから目が離せない。
「ヨッシーてさ、最近雰囲気変わったよね」
「そう、かな」
「そーそー。ほら、”金ピカの指輪”つけてんじゃん」
「あぁ、うん」
冷静に考えて。
”教室内で一言も喋らないキャラ”が、こんな指輪をつけるのもおかしな話である。
「その指輪ってさ、”何か”意識してたりする?」
「え、何かって?」
「……ほら、”ヤクザ”とか」
桜は、小声でその名を口にする。
「えっ、何でこれがヤクザ?」
「知らないの? ”ある有名な組織”の幹部は、全員が右手に金の指輪をつけてるって話」
「ごめん、そういうのには詳しくなくて。この指輪は、単純に大切なものだから」
「……そっか、そういう感じね」
指輪の話を聞いて、桜はどこか安心した様子だった。
「桜さんって、ヤクザとかに興味あるの?」
「いやいや、まっさか! ヤクザも悪魔も”大っ嫌い”だから、ほんとは口にもしたくないよ」
「だ、だよね」
善人の右手にはめられた指輪。
その中にいる悪魔が、静かにショックを受けていた。
(……やばい。目がチカチカしてきた)
クラスの女子に囲まれて、生まれて初めての女子トークを強制され。
危機感を覚えた輝夜は、助けを求めようと善人の方を見てみるものの。
「なっ」
後ろを振り向いて、輝夜は驚愕する。
僕は友達がいないんです。
学校でも、いつも一人で。
そんな事を言っていた善人が、金髪ギャルと楽しそうに話していた。
(あの距離感で、友達がいない?)
輝夜は急速に頭を回転させる。
(……あぁ、そういうことか。友達は居ないけど、”彼女”は居ます的なノリか)
考えを巡らせるほどに、なぜか”怒り”が湧き上がってくる。
(いい度胸だな、坊や)
恐ろしいほど静かに、輝夜は善人を呪った。
◆
午前の授業が終わり、学校は昼休みの時間へ。
いつもなら、善人は一人で昼食を食べるのだが。
「ヨッシーって、お昼一人? 良かったら一緒に食べない?」
「あっ、はい」
今日は、ギャルのお誘いを受けることに。
それだけなら、まだ日常の延長線だったのだが。
「――おい善人。ちょっとツラを貸せ」
ギャルに続いて、”お嬢様”からも誘われてしまった。
輝夜と善人、そして竜宮桜の三人は、校舎の屋上までやって来る。
階段を登るだけで、輝夜の体力は限界だったが。
なんとか表情だけは取り繕っていた。
「えっと、紅月さん? 屋上には鍵がかかってるから、入れないと思うけど」
階段を登ったところで、桜が屋上について説明する。
生徒は屋上に入れない。
しかし、輝夜にとっては好都合だった。
「……マーク2、裏から開けろ」
輝夜がスマホに向かって呟くと。
不思議なことに、屋上の鍵が勝手に開いてしまった。
「よし、貸し切りだな」
「えっ」
「うっそ、今のどうやったの!?」
輝夜の手品によって、三人は屋上へと侵入した。
お嬢様、ギャル、そして地味な少年と。
たった三人で屋上を占領し、これからお昼を食べることになったのだが。
「あぁ、そんな関係だったのか」
「そーそー、今までは話す機会もなくてさ。”かぐっち”が女子に囲まれてるの見て、それを切っ掛けに話してた感じかな〜」
「なるほど。……かぐっち?」
輝夜と桜は、案外すぐに話せるようになり。
場の雰囲気は悪くなかった。
善人が輝夜の”椅子”になっていること以外、何の問題もない。
「お前、ギャルなのに何でこいつと飯を食おうと思ったんだ?」
「いやいや、わたし別にギャルじゃないよ?」
「いや、どう見てもギャルだろ。その金髪は地毛か?」
桜の髪の毛は、”非常に明るい金髪”だった。
たとえ髪を染めるとしても、これは流石にやりすぎである。
「春にこっちに引っ越してきて、イメチェンで髪染めたんだけど。やっぱギャルに見える?」
「ああ、見える。先輩と付き合ってて、タバコも吸ってるタイプのギャルだな」
「うっそー、それほんと!?」
女子二人は、非常に楽しそうに話しているものの。
「あのー、輝夜さん。僕はいつまで、こうしてればいいんですか?」
輝夜の椅子になっている彼には、流石に限界というものがあった。
主に、精神的な面で。
「わたしが女子に囲まれてる時、お前は何をやってたんだ? ”ちょ待てよ、その人が迷惑してるだろ”。みたいな気概は出せなかったのか?」
「ぷっ、おもしろ!」
「そんなぁ」
結局の所、これは単なる八つ当たりである。
しかし、”椅子になれ”と言われて、素直に従う方もどうかしていた。
その後。
10分以上椅子として扱うと、輝夜の中でイジメ判定になってしまうため。
善人は普通に解放され、一緒にお昼を食べることに。
「輝夜さんの弁当、すっごい豪華ですね」
「うちの使用人は何でも出来るからな」
「かぐっちって、マジもんのお嬢様?」
果たして、輝夜はお嬢様というカテゴリーに入るのだろうか。
「桜は、チーズが好きなんだな」
「えっ? よく分かったね〜」
「……まぁな」
桜が食べているパンの名前は、”チーズ好きのためのもっちりパン”だった。
「ヨッシーの弁当って、自分で作ってるの?」
「いや、これはアミー……じゃなくて。一緒に暮らしてる、親戚の”アミさん”が作ってくれてて」
「へぇ、いいなぁ〜」
「……」
マジか、という表情で。輝夜は善人の指輪を見つめていた。
◇
善人と桜は、すでに昼食を食べ終わり。
妙にペースの遅い輝夜は、黙々と残りを食していく。
「あっ、そうだ。二人とも、ドリームエディタには詳しい?」
桜からの質問を受け。
輝夜は無言で、善人の顔を見る。
「あー、うん。一応、僕はそれなりに持ってるけど」
「なら、オススメの夢データとか教えてくれない? わたし、最近ルナティックになったばかりで、病院で貰ったやつしか持ってないんだよねぇ」
「うん、別に大丈夫だけど」
夢データに関しては、数少ない善人の得意分野である。
「どうせなら、一緒に買いに行ったらどうだ?」
「あっ、それならめっちゃ助かるんだけど。――そうだ! かぐっちも一緒に行かない?」
「……あぁ、うん」
ギャルはとにかく話が早く。
輝夜には、竜宮桜という友達ができた。