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Side佐久間
「え……なにこれ、“一日限定の恋人チャレンジ”?」
台本を見た瞬間、思わず声が出た。
その内容は、いわゆる“疑似恋愛企画”というやつで、ペアになったメンバー同士が丸一日“恋人”として過ごすというものだった。
康二が「うわぁ、それめっちゃおもろいやん!」と笑ってる。
舘さんが「誰が照れちゃうかな~?」なんて楽しそうに言ってるけど、正直、俺はあんまり乗り気じゃなかった。
企画が企画だし、なんかちょっと気恥ずかしいし。
それに──
「ペアは、阿部さんと佐久間さんでお願いします」
俺と、阿部ちゃん。
「……あ、はーい。よろしくお願いします~」
返事はしたけど、内心では「気まずいかも」って思ってた。
別に嫌いとかじゃない。阿部ちゃんは、頼りになるし、仕事にも真面目やし、信頼してる先輩のひとり。むしろ人間的に好きの部類に入る。
でも恋人ってなると……全然違う。
そんな対象として見たことなんて、一度もなかった。
それでも撮影は始まった。
カメラの前で、おはようのハグをしたり、おそろいのマグカップを持って“カフェデートごっこ”をしたり。
スタッフさんに言われるままに動いて、笑って、ボケて。
いつもどおりの“佐久間”を演じていた。
阿部ちゃんはというと、相変わらず淡々としてて、でもどこか優しくて。
“恋人っぽい空気”をちゃんと作ってくるのが逆にすごいと思った。
そして、ラストのミッション。
「今日一日、一番キュンとした瞬間を相手に伝えること」
番組的にはオチになる大事なところや。
だから俺は、ちょっとおちゃらけながら言った。
「阿部ちゃんみたいな人が彼氏だったら、たぶん浮気とか絶対しないだろうな~!安心感、えぐ!」
スタジオが笑いに包まれる中、阿部ちゃんが一瞬黙って、それからゆっくり口を開いた。
「俺なら……ちゃんと、大事にするよ」
──その瞬間。
空気が、ほんの少しだけ、変わった気がした。
冗談っぽく笑ってる顔の奥に、どこか“本気”が見えた気がして。
いや、考えすぎかもしれない。たぶん、演技。きっとカメラを意識してのセリフ。
でも。
その一言が、胸の奥に少しだけ、引っかかった。
企画はそこで終了。
収録が終わると、いつものようにメンバー同士で笑い合いながら帰っていった。
だけど、楽屋で一人になったとき、なぜかさっきの言葉だけが、やけに頭に残っていた。
──俺なら、ちゃんと大事にするよ。
……いやいやいや、阿部ちゃんに限ってそんなわけないって。
そう言い聞かせながら、俺は無理やりスマホをいじって気を紛らわせた。
でも、どうしてか、画面に目が入ってこなかった。
―――――――――
あの恋人チャレンジの収録から、一夜明けた。
ただのバラエティの企画。
そう割り切っていたはずなのに、阿部ちゃんの様子がどこかいつもと違っていた。
最初に違和感を覚えたのは、番組のスタジオ入りのときだった。
いつもなら、ラウールの隣に自然と座るはずの阿部ちゃんが、なぜか俺の隣に座ってきた。
「おはよう」と笑顔で声をかけてきたのはいつも通りだったけれど──
そのとき、軽く肩に手を置かれた。
……そんなこと、今まであっただろうか。
ほんの数秒のことだったのに、やけにその感触だけが残っている気がした。
その後も、収録の合間に空き時間があって。
俺がソファに座ってスマホをいじっていたら、何も言わず隣に腰を下ろしてきた。
「何見てるの?」と、ふいに声をかけられて、
「猫の動画……」と答えた自分の声が、やけに小さく感じた。
「佐久間、猫好きだよね。……前も見てたよね」
ただの会話。それだけのはずなのに。
阿部ちゃんの目線が、やけに長く感じた。
一度視線を上げると、ちょうど目が合った。
でも、向こうは目を逸らさない。むしろ、じっと見てくる。
そんな人じゃなかったはずなのに。
ほんの少し前までは、先輩として、気さくに接してくれる人だった。
冷静で、理論派で、でも俺のボケには絶妙なタイミングで乗ってくれる、信頼できる存在。
なのに今は、妙に近い。
距離も、空気も、視線も、全部。
あの日の最後の言葉が、ふと脳裏をよぎる。
「俺なら……ちゃんと、大事にするよ」
……あれは、なんだったんだろう。
カメラが回っていたから?それとも台本の一部?
それとも──俺の知らない“何か”だったのか。
混乱する思考を振り払うように、俺は冗談っぽく話しかけた。
「なんか今日、やけに優しくない?差し入れでもくれるの?」
阿部ちゃんは微笑んで「甘いの、好きでしょ」と返してくる。
「……否定しないんだ」
笑いながら言ったけれど、自分の声が、どこかぎこちないように感じた。
冗談のはずだった。
ただのバラエティだった。
それなのに──どうして、こんなに胸がざわつくんだろう。
“勘違い”なんてしてないよね?
──阿部ちゃん。
そんな不安が、じわりじわりと心に染みこんでくるようだった。
『──それ、昨日の企画の延長みたいなもんでしょ?』
心の中で、そう言い聞かせていた。
阿部ちゃんの態度が、どこかおかしい。
妙に近くて、妙に優しくて、視線も言葉も、少しだけ変わっている。
でも、考えすぎだ。
ただの企画だったんだから。あの“恋人ごっこ”は、あくまで番組のための演出で、終わったら忘れるべきもの。
「まさか……信じたりしてないよな?」
誰に問いかけているのかわからないまま、頭の中でその言葉を繰り返した。
阿部ちゃんが、あの言葉を本気で言っただなんて──考えるだけで、背筋がひやりとする。
もしも、あれが冗談じゃなかったとしたら。
もしも、ほんの少しでも“本気”が混じっていたとしたら──俺は、どうしたらいいんだろう。
だから、自然と距離を取るようになった。
いつもなら何気なく隣に座るタイミングでも、別の席を選んだ。
目が合いそうになると、視線をそらす。
話しかけられても、少しだけ時間を置いてから返す。
無意識ではない。
むしろ、意識的に──よそよそしくしていた。
でも、それが妙にぎこちないことも、自分でわかっていた。
会話の合間の間が、ほんの少しだけ不自然になる。
笑っているはずなのに、どこか頬が引きつってしまう。
「佐久間、今日、なんか静かじゃない?」
阿部ちゃんにそう言われたとき、一瞬だけ、心臓が跳ねた。
けれど笑ってごまかすしかなかった。
「昨日は喋りすぎたから、今日はバランス取ってるだけ」
自分でも苦しいと思うほど、浅い言い訳だった。
“気にしてない”ふりをしてるけど、本当は気になって仕方がない。
阿部ちゃんの視線も、声も、歩幅さえも。
意識なんて、したくなかった。
されてるとも思いたくなかった。
──だから、わざと離れる。
──だから、わざと冷たくする。
それが、自分の平常心を守るための唯一の手段だった。
でもそのたびに、阿部ちゃんが少し寂しそうな顔をするのが、
なぜか胸の奥に、静かに響いていた。
―――――カメラの前では、いつも通りだった。
「阿部ちゃん、これ一緒にやろーよ!」
「佐久間、また変なこと言ってるし」
いつも通りの掛け合い、いつも通りのテンポ、
バラエティ用に整えられた“仲良しの空気”は、表向き何も変わっていないように見えた。
たぶん──見ている人には、違和感なんて伝わらないと思う。
笑顔も、リアクションも、完璧にこなしてるつもりだった。
けれど、収録が終わって楽屋に戻ると、空気が変わった。
阿部ちゃんが、隣に座っても言葉を交わさなくなった。
俺も、それを避けるようにスマホを見たり、他のメンバーと話すふりをしたり。
ふっかがふと視線を投げてくる。
康二が、一瞬何かを言いかけて、やめたのがわかった。
ラウールは何も言わずに音楽を聴いていて、照はぼんやり携帯をいじってる。
きっと、みんななんとなく気づいている。
でも、誰も触れようとしない。
──気まずくなるのが怖いから。
──冗談で済まない何かがそこにあると、分かっているから。
沈黙は重くはない。けれど、どこか居心地が悪い。
気にしないふりをして笑うのも、少しずつ疲れてきた。
さっきまでは、カメラがあることで守られていた。
でも今は、ただの俺たちで、ただの空気の中にいて。
阿部ちゃんは俺を見ない。
俺も、阿部ちゃんを見ない。
なのに、阿部ちゃんの存在だけが、部屋の中でやけにくっきりしていた。
──このまま、気づかないふりをしていられたらよかったのに。
そんなことを思った自分に、一番驚いていた。
――――――――
番組の編集作業の立ち会いで、制作スタッフさんに呼ばれたのは阿部ちゃんと俺の2人だった。
他のメンバーは次の現場に先に向かっていて、たまたま都合がついたのが俺たちだけだったらしい。
編集ルームの中は薄暗く、パソコンのモニターの光だけが青白く光っている。
スタッフが外の確認に出たあと、小さな部屋には静寂だけが残った。
キーボードのカタカタという音、空調の微かな唸り、そして──沈黙。
俺は自分の膝を見つめたまま、しゃべるタイミングを失っていた。
さっきまでスタッフがいた安心感がなくなった途端、妙に息が詰まる。
ふいに、阿部ちゃんの声が落ちてきた。
「……佐久間が言ってた、“俺みたいな人が彼氏だったら”って」
その声は、やけに穏やかで、どこか遠くを見ているような音だった。
「企画だって、わかってるよ。でも──あれ俺は…」
何かを言いかける阿部ちゃん。
心臓が、一度、大きく跳ねた。
何かを言い返そうとして、言葉が喉の奥でつかえる。
でも言わなきゃなにかがダメになる。
そう思い阿部ちゃんの言葉に被せるようにやっとのことで声を出した。
「え……? いや、あれは、企画の流れで言っただけだよ? 本気とか、そういうのじゃ──」
「うん、わかってる」
阿部ちゃんも俺の言葉を遮るように、静かにうなずいた。
「でも俺、あれを聞いたとき、ちょっと……期待してしまったんだよね。もしかしたら、って」
目を逸らすことしかできなかった。
期待、なんて──そんなつもり、なかった。
俺は阿部ちゃんを、そういう風に見たことなんてなくて。
なのに、俺の言葉が、そんな風に受け取られてたなんて。
「ごめん」って言おうとしたけど、それも違う気がして、口を閉じた。
沈黙が、また戻ってきた。
阿部ちゃんは立ち上がり、編集スタッフが戻る前に、ドアの方へ歩いていく。
ドアノブに手をかける直前、背中越しに言った。
「……俺だけが“演技じゃなかった”って思ってたんだな」
その言葉が、編集室の空気に静かに沈んでいく。
俺は何も言えず、ただ椅子に座ったまま、目の前の止まった映像を見つめていた。
その画面の中では、“恋人ごっこ”をしている俺たちが、今よりずっと楽しそうに笑っていた。
編集室を出ていった阿部ちゃんの背中が、しばらく頭から離れなかった。
あの言葉の温度も、声音も、全部。
冗談じゃなくて。
たぶん、本当にあの人は、あの言葉に“気持ち”を乗せていたんだと思う。
それが分かってしまった瞬間、
俺の中の“知らない感情”が、ぐるぐると暴れ出した。
──なんで、動揺してるんだろう。
好きじゃない、はずだった。
阿部ちゃんのことを“そういう目”で見たことなんてなかった。
だから、あの企画のときも、どこか他人事のように振る舞えた。
だけど──
いま、頭の中がぐちゃぐちゃで、考えがまとまらない。
「本気だった」って言われたあの瞬間。
「もしかして」と期待していた、と告げられたあの視線。
その全部が、心のどこかに刺さったまま、抜けてくれない。
なんで今になって、こんなに気になるんだろう。
なんで、あの距離が急に近く感じたんだろう。
なんで、胸の奥がこんなにざわついてるんだろう。
俺は阿部ちゃんのことを、好きだったんだろうか。
でも、“好き”ってなんだ。
信頼とか、安心感とか、尊敬とか、そういうのと何が違う?
どうして、こんなにも焦ってるんだ。
どうして、顔を見られなくなってるんだ。
どうして、あの言葉が頭の中で何度も何度も再生されているんだ。
“俺なら……ちゃんと、大事にするよ”
“俺だけが演技じゃなかったって思ってたんだな”
どっちも、やけに優しい声で。
まっすぐで、嘘のない声音で。
あの時、すぐに否定したのは。
「違う」って言い切ったのは。
阿部ちゃんの気持ちが嬉しかったからじゃなくて、
──怖かったから、なんじゃないか。
そう気づいた瞬間、ぐらりと世界が傾いた気がした。
俺は阿部ちゃんのことが、
もしかしたら──いや、たぶん。
……好きなのかもしれない。
でも、それを認めてしまったら、何かが変わってしまう気がして。
だから今も、何も言えないまま、曖昧なまま、立ち止まっている。
収録の合間、ふと阿部ちゃんが近くにいると、反射的に体がこわばる。
顔を見られない。目を合わせるのが、怖い。
なのに、気づくと探してしまっている。
どうして、どうして、どうして──
自分の心の中で、混乱と困惑が、終わりのないループのように回り続けていた。
――――――――――
ある日の夕方、仕事の合間にスマホをチェックしていたら、通知が一件届いていた。
──「【確認用】“一日恋人チャレンジ”完成映像」
ディレクターから、編集後の仮納品データだった。
リリース前に、メンバーにも内容を確認しておいてほしいということらしい。
正直、見返すのは少し気が重かった。
あの企画を思い出すだけで、胸の奥がざわざわする。
でも、ちゃんと見ておかないと──そう思って、イヤホンを耳に差し込んだ。
再生ボタンを押すと、映像が動き出す。
「一日恋人チャレンジ!」というタイトルが軽快な音楽とともに流れ、
メンバーたちの照れた表情やツッコミが編集されている。
その中に、自分の声と笑顔もあって。
でも、見ているこっちは、なんだかうまく笑えなかった。
映像は順調に進み、“恋人役を選ぶシーン”が映し出される。
メンバーがボードに名前を書いていく、あのくだりだ。
──阿部が、ためらいがちにペンを取る。
カメラがゆっくりとその表情をとらえる。
「佐久間かな……」
そう言った瞬間、阿部ちゃんの目元がほんの一瞬だけ揺れた。
口元に、気づかれない程度の照れ笑いが浮かんで。
そのわずかな表情に、息をのんだ。
今まで、何度も再生されていたはずのシーンなのに。
自分のことなのに。
その時の阿部ちゃんの“本気”を、ようやく、ちゃんと見た気がした。
──これ、演技じゃなかったんだ。
そんな言葉が、心の奥からふいに浮かんできた。
「……さっくん?」
不意に、背後から声がかかった。
びくりと肩が跳ねて、慌ててスマホの画面を閉じる。
振り返ると、康二がスタジオの扉から顔を覗かせていた。
手には台本と、コンビニのコーヒー。
「めっちゃ集中してるやん。何見てたん?」
「えっ、あ、ううん。何でもない、ちょっと番組チェックしてただけ」
「ふーん……顔、真っ赤やけど?」
「なっ……気のせい!」
自分でもわかるくらい、声が裏返っていた。
康二はそれ以上は何も言わず、いつも通りの笑顔で近づいてくる。
「阿部ちゃんのとこ行くん?それとも先に着替える?」
「……まだ、ちょっとだけ、ここにいる」
そう言ってスマホを握りしめたまま俯いていると、
隣に座った康二が、紙コップのコーヒーを一口飲んでから、
小さく「ふふっ」と笑った。
「……さっくん、阿部ちゃんとなんかあったん?」
その言い方があまりにも自然すぎて、心臓が一瞬止まりそうになった。
「……は? な、なんでそう思うんだよ」
動揺を隠せないまま、声が少し上ずった。
康二は笑ったまま、まっすぐ俺を見る。
「え? だって、同じメンバーやん。……見てたら、分かるよ」
その一言が、変に刺さった。
分かる……って、なにが?
俺はそんなに分かりやすかった?
それとも、阿部ちゃんの方……?
「……な、なんもないし」
「ふーん。でもさ、なんもなかったら、そんな顔せえへんと思うで?」
「……どんな顔?」
「わからんけど、なんか“分かりそうで分かんない”みたいな顔。……困ってる顔やった」
言われて、俺は思わず顔をそむけた。
困ってる。──たしかにそうかもしれない。
なにかを認めることが怖くて。
向き合う勇気もなくて。
ずっと見ないふりをしてきた。
でも──それでも。
“気づいてしまった”んだ、今日のあの映像で。
「……康二ってさ、そういうの……分かるもん?」
「分かるよ。さっくんのこと、昔から見てるし。……誰かのこと真剣に考えてる時、顔に出る」
康二はそう言って、穏やかな目で俺を見つめた。
責めるでも、茶化すでもなく。
ただ、見守るようなまなざしだった。
「……阿部ちゃん、ほんまにさっくんのこと、大事に思ってると思うよ」
康二のその言葉が、胸にじわりと染みこんでいく。
すぐに返事はできなかった。
ただ黙ったまま、手の中のスマホを見つめる。
すると、隣で康二がぽん、と俺の肩を軽く叩いた。
「なあ、それ──さっき見てたやつ、もう一回見せてや?」
「……えっ?」
「完成映像やろ?“一日恋人チャレンジ”。気になるやん、どんな顔してたんか」
一瞬、ためらったけれど。
断る理由も、もうなかった。
俺は無言でスマホを再生し、イヤホンを片方、康二に渡した。
映像が流れ出す。
テロップと軽快な音楽が始まり、メンバーの笑顔が次々と映し出される。
問題の場面が近づいてくる。
──恋人役を選ぶシーン。
阿部ちゃんが、ボードに名前を書くあの瞬間。
「……佐久間かな」
その声と同時に、画面に映った阿部ちゃんの顔がアップになる。
一瞬だけ、目が泳いで。
頬が少しだけ緩んで。
言葉とは裏腹に、どこか照れているような──そんな、あたたかい顔をしていた。
康二がぽつりとつぶやいた。
「……ほら、こんなにあったかい顔してるやん」
その声は、驚きでも、茶化しでもなかった。
ただ、まっすぐだった。
「俺、あんな顔する阿部ちゃん、あんま見たことないなぁ」
俺は、言葉が出なかった。
目を逸らそうとしたけど、映像から目が離せなかった。
あんな表情をしていたなんて、気づいていなかった。
その時は、笑いの流れに飲まれて、何も感じなかったはずなのに。
今見ると──まるで、
俺のことを、ひとりの人間として、ちゃんと見てくれていたような。
「……演技、じゃなかったんだな」
誰に向けた言葉でもなく、自然と口からこぼれた。
康二はそれを否定も肯定もせず、静かに微笑んで、
「なんか答え出た?」とだけ言った。
俺は、やっと心の中で言葉にした。
“嬉しかった”──
あの時、あの目で選ばれたのが、
心のどこかで、ちゃんと嬉しかったんだ。
怖くて閉じ込めていた気持ちが、少しずつ輪郭を持ち始める。
このまま黙ってたら、たぶん、もう──あいつとは、前みたいには戻れない。
俺は深く息を吸い込んだ。
そろそろ、ちゃんと向き合わないといけない。
“俺も、嘘じゃない気持ちを、伝えに行かなきゃいけない”
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