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「じゃじゃーん! 女神のセリフィスリスェで~す!」
真っ白な空間。果てしなく続く白い世界なのか、密閉された空間なのか、それさえも分からない白い場所。
そこには薄い布を巻いただけの、美しい金髪碧眼の女神が浮いていた。
そして女子高生が二人ちょこんと、座り込んでいる。
おっとり系に見える美愛《みあ》と、お姉さんタイプの莉那《りな》。
「え~っと。エロい格好のおねえさん。何……ここ」
最初に口を開いたのは、お姉さんタイプの莉那だった。
状況を把握しようと、混乱中の頭でありながら的確な問いかけをした。
「梨惠……私達って……崖から……落ちたよね。痛くない?」
美愛はここに来る直前の事を、莉那よりも覚えていたらしい。
現状よりも、さっきの感覚がまだ体に残っているのを不快に感じている。
……二人は混乱しているが、それも仕方のないこと。
つい先ほど車に当てられ、バイクごと山道から落とされたところだから。
――崖下に。
二人はほとんど即死だった。
「美愛……言われてみれば痛い気がする! 私首が……み、み、み、美愛、私の首どうなってるか見て!」
「え、なんともないよ? わたしはおなか、気になってるんだけどぉ……もうなんともなさそう」
「美愛はどうなったの?」
「おなかに、木がささった」
「ヒッ!」
「莉那もクビ折れた音聞こえたし見ちゃったし! マジさいあくだよねあいつ!」
二人はそれぞれ、死んだ時と今の状況にとまどいつつも、おおむね無事そうなことを確認し合った。
そして十数秒のうちに、少しは落ち着いたように見える。
「え~っとぉ。説明始めても、いいかしら~?」
いきなり無視された女神は、少しだけ機嫌を損ねたようで冷めた視線を二人に向けている。
「はいセンセェ。ここはどこですか?」
「美愛、この人、女神ってさっき言ってた」
「ぇマジ? たしかに女神っぽいけど! 浮いてるし~!」
「はいはい。センセェでも女神でもどっちでもいいですよもう。でも、せっかく直々に説明してあげに来たんだけどなぁ」
「あ、いじけてる。美愛、ちゃんと聞かないと」
「はぁ~い。女神せ~んせっ」
「コホン。まあ、良いでしょう。では一度しか言わないので、よぉく聞いてくださいね?」
そして女神は、口早に説明を始めた。
先ず、二人のような理不尽な死を迎えた人が増え過ぎていること。
その遺族や周りの人達の、不当な死に対する悲しみと怒り、憎しみ、絶望といった激情の行き場が無いせいで、新しい世界が出来てしまったこと。
彼らの無念を晴らせるように、神々でその世界を利用したこと。
理不尽な死を迎えた人達がその世界で幸せに暮らす様子を、現世の残された人達に夢で見せることで、なんとか無念を少しずつ晴らしていること。
――そして、その世界に、これから二人も行くこと。
「えっとぉ。なんか、むつかしぃな~」
「美愛、私は理解出来たけど意味が分かんないわ」
ゆるそうな美愛は話そのものが理解できず、莉那は突拍子の無さに頭を抱えている。
「平たく言えば、今とは違う世界で過ごして頂きます~」
薄い布をひらひらとさせながら、女神は若干面倒臭そうに言った。
「え。じゃあじゃあ、異世界転生ってやつ?」
「美愛そういうの好きだもんね」
美愛のテンションが一気に上がったのを見て、莉那はとりあえず合いの手を入れた。
この状況を飲み込むにあたって、少しでも普段に近い事をしたいと考えているらしい。
「まあ、平たく言えばそうなります。一応お二人の了承を受けてからになりますが――」
「すっごーい! え、じゃあさじゃあさ、ものっっっっそい美少女にしてほしい!」
「美愛あんた、死んじゃったらしいことはいいのかよ……。私が誘ったせいで、あんたまで……」
美愛は現実を受け入れての事なのか、莉那は浮かれている彼女を窘めたかった。
それに、タンデムツーリングに誘ったが故の事を後悔している。
「キャー! 美少女転生! わたし銀髪がいい! もうさ、わたしの深淵の奥底から理想を詰め込んでくださいっ!」
「美愛……死んじゃったのよ? 私達」
「莉那、それはもう、しょうがないじゃん。そりゃあさぁ……考えたらパパとママ悲しんじゃうなとか、思うけどさ……あの状態で生き返るのもヤだよ?」
美愛は何も考えていないようで、ある面では現実的だった。
「――コホン。深淵……深層心理のことかしら? まあ、銀髪の美少女ですね。分かりました。そちらのリナさんは? ご希望とか」
「莉那はね! 金髪のちょいキレイ系の美少女にして! ぜっっったい似合うから!」
「私はリナさんに聞いて……まあ、いいでしょう。金髪の綺麗系……っと」
「キレイ系美少女!」
「はいはい。それじゃあ、あっちで生きやすいように、特別~~~に、ある程度のステータスが分かるようにしておくので。この指輪、無くさないように着けててくださいね~」
そう言って女神は、二つの細い指輪を二人の目の前に出現させた。
金と銀が混ざったような色合いで、つるんと丸く細いながらも、幾何学的な模様が繊細に描かれている。
「キレ~! ゲームっぽい! わたしMMOめっちゃハマってるんだけど!」
「美愛、順応早すぎ。私何言ってるのか理解が追い付かないんだけど」
目をキラキラとさせている美愛に比べて、莉那は気持ちが全く追い付かなかった。
親友を事故に巻き込んだ事が、ずっと心に刺さっているのが目に見えて分かる。
だが、女神はそれについて一切触れようとしない。
話を早く終わらせてしまいたいという態度を隠しもせずに、長い金髪を指で巻いては解いている。
「ゲームなら任せてよ。あとはチートは? 異世界転生はチートがないと!」
「はいはい。いろいろ属性とか好きに選んでください。水とか火とか、はいこれ一覧表」
「うは~! めっさありすぎてなやむ~!」
「美愛……私分かんない。どれにしたらいいの?」
「えーっと、お二人が喜んでるところ悪いんですが……時間はあんまりなくて~」
最近は、こういう流れに慣れている子が多くて面倒だ。
そういう態度を、むしろ前面に出して圧をかける女神。
「まって! ダッシュで理解する!」
だが、美愛も負けていなかった。
きちんと理解して選び抜くまで、了承しないという交渉を持ち出したのだ。
意外な人物からの一手に、頬を引きつらせながら二時間余り……。
「完璧!」
と顔を上げた美愛の要求に、女神は渋々了承して二人を転生させた。
「とにかく、幸せに生きてくれないと困りますから!」
という一言を添えて。
――これは、あえなく死んでしまった仲良し女子高生二人の、異世界転生記。